【Vol.8】若者よ、海外を目指せ!グローバルな現場経験が次の時代を切り拓く

 J-POWER は1962年、初めて海外に進出したペルーのプロジェクトを皮切りに、アジアをはじめ世界64カ国で電源の開発や送変電設備などに関するコンサルティング事業を手掛けてきた。

 そうした海外事業の新たな柱として、近年、力を入れているのが、現地パートナーとタッグを組み、発電所の建設から電力の販売まで行う海外発電事業だ。背景にあるのは、ODA(政府や国際機関による途上国への開発援助)案件の減少や、国内電力需要の頭打ち。そしてSDGsの目標の一つにも掲げられている「クリーンなエネルギー」への流れだ。

インドネシアのセントラルジャワ石炭火力発電プロジェクト(写真提供/電源開発株式会社)
インドネシアのセントラルジャワ石炭火力発電プロジェクト(写真提供/電源開発株式会社)

 国内はもちろん、海外で築き上げてきた実績や信用を生かし、現在は、タイ・アメリカ・中国など運転中のプロジェクト33件のほか、アメリカ、イギリス、インドネシア、オーストラリアの計10カ所で新規プロジェクトを建設・計画(2021年6月末現在)。海外事業の売り上げは全体の約15%を占めるまでになった。

 新しい時代のJ-POWERの成長エンジンとして期待される海外発電事業。そこで大きな役割を担っているのが謝花たかしだ。

 1985年に入社した謝花は20代後半から国際プロジェクトに携わってきた。当時、国内でいくつもの大規模発電所を展開していたJ-POWERのなかにあって、20代から海外事業にかかわり続けている人材はそれほど多くない。その理由を謝花はまるで他人事のように笑いながら話す。

「自分ではまったく覚えがないんですが、入社したてのころ、いつか海外の仕事をしたいと熱っぽく上司に話していたらしいんです。ただ、その上司も、私がここまでどっぷり海外事業にかかわることになるとは、夢にも思わなかったでしょうね」

 入社後の研修を経て、長崎県の松島火力発電所で運転員として4年ほど勤務。その後、石炭輸入会社の石炭資源開発株式会社に外部出向したあとは、20代後半からの大半の期間、海外事業畑を歩んできた。現地調査、コンサルティング、そして謝花自身が今後、会社の存続に欠かせないという発電事業だ。

オンラインでインタビューに応える謝花。新型コロナウイルス感染症の拡大はインドネシア経済にも大きな打撃を与えている
オンラインでインタビューに応える謝花。新型コロナウイルス感染症の拡大はインドネシア経済にも大きな打撃を与えている

カルチャーの違いに衝撃を受けた
初めての海外プロジェクト

 謝花はこれまで大きく4つの海外プロジェクトにかかわってきた。マレーシア、台湾、タイ、そして現在進行中のインドネシア。そのなかでも、自身を大きく成長させてくれたと振り返るのが、謝花にとって初めての海外コンサルティング、マレーシアのポートクラン火力発電プロジェクト(ポートクラン三期プロジェクト)だ。

 当時、まだ20代後半だった謝花は、プロジェクトを担当するチームに配属され、コントラクター(ゼネコンなど)選定のための仕様書作成などを実施。コントラクターとの契約完了後、30代初めから約4年半にわたって現地に駐在し、計測・制御部門のサブリーダーとして、複数のコントラクターが仕様書や契約書通りに業務を行っているかの確認や折衝に当たった。入社して10年にも満たない30才そこそこの若者が、初めての海外プロジェクトで感じたであろう重圧は想像に難くない。

「発電所を建設する場合、特に海外プロジェクトにおいては通常、一つのコントラクターに発注し、そこに全体管理を任せるため、こちらがやり取りをする窓口は一つで済みます。ところが、ポートクランのプロジェクトは違いました。コスト抑制の観点から契約相手が8社になったこともあり、コンサルティングとしてはかなり負荷の大きい案件だったんです。例えば、仕様書通りに行うにしても、各コントラクターは自分たちが施工しやすいように進めようとするわけです。すると往々にして業者間でバッティングが起き、何度もその調整を行わなければいけません。出口の見えない会議を毎日のようにしている状況でした」

 一国のインフラを整備し、経済発展に寄与するプロジェクト。関係者は一様にそのことに誇りを持っていたが、当然ながら“ビジネス”でもある。お互いの利害が衝突し、険悪な空気で会議が進むことがしょっちゅうだった。

マレーシアのポートクラン火力発電所。一番左が、謝花が携わった三期プロジェクトの発電所だ(写真提供/電源開発株式会社)
マレーシアのポートクラン火力発電所。一番左が、謝花が携わった三期プロジェクトの発電所だ(写真提供/電源開発株式会社)

「何か一つ指摘すると、すぐに『それは契約書のどこに書いてあるんだ』となるわけです。我々も細心の注意を払って契約書を作りますが、完璧な契約書というものはありません。解釈が異なったり、自分たちに都合のいいように捉えられてしまったりするケースも少なくない。そもそも、こちら側としては最初に決めた金額の範囲内に収めたいのに対して、相手は少しでも契約から外れると解釈できるものには追加の料金を請求したいという思いがある。工事工程の遅延責任や仕様(品質・機能・性能)に関して見解が異なることもたびたびでした」

 日本人同士であれば「持ちつ持たれつ」で譲り合いになりそうな場面でも、マレーシアでは衝突が日常茶飯事。契約とほんの少しでも違うと業者が解釈すれば、容赦なく反論される。

「本音を言えば、現地の建設現場で過ごした約3年間は、大変なことばかりで毎朝出勤するのが憂鬱でしたね。それでも、望んだ仕事をさせてもらっていることへの感謝と、職責を全うしたいとの思いで何とか踏ん張りました。唯一の息抜きは、気のおけない同じ“駐在組”の同僚と週末に楽しむゴルフでした」

 謝花にとって、海外プロジェクトは戸惑いと苦労の連続だった。だがそんなマレーシアで過ごした時間は今、海外事業を牽引する謝花にとってかけがえのない財産となっている。

タイ・ウタイ(上)、台湾・チアフイ(下)の天然ガス火力発電事業も手掛けた(写真提供/電源開発株式会社)
タイ・ウタイ(上)、台湾・チアフイ(下)の天然ガス火力発電事業も手掛けた(写真提供/電源開発株式会社)

現場を知る身だからこそ見えてくる
海外ビジネスの重要性

 自身を大きく成長させてくれたという、ポートクランのプロジェクトから約30年。謝花が今、力を注いでいるのが、インドネシアの中部ジャワ州に建設中のセントラルジャワ石炭火力発電プロジェクトだ。

 J-POWERと現地企業などが出資して発電所を建設、設立した現地法人ビマセナ・パワー・インドネシア社(以下、BPI社)がインドネシア国有電力会社に25年にわたり電気を供給していく。運転開始後は、民間資本としては同国屈指の石炭火力発電所になると同時に、高度な環境対策技術を施した石炭火力発電所となるものだ。

 単に、発電所を建てて電気を供給するだけではない。プロジェクト立ち上げ以来、地域住民による新規事業の立ち上げ支援や診療所への医薬品提供、小・中学校での環境教育プログラム実施など、地域の暮らしを支える活動を、住民の声に耳を傾けながら推進してきた。

 BPI社のCSRコミュニティグループ・シニアマネージャー、バユ・パムンガスさんはこう話す。

「BPI社と開発周辺地域の住民は、ともに手を携え、互いに信頼し、連携し、尊重して、持続可能で独立したコミュニティづくりに力を入れてきました。インドネシア中央政府とも緊密に連携し、地域の社会福祉にかかわる活動を積極的に支援しています。そうした取り組みは、中央政府や州・県の地方政府だけでなく、国際的なCSR団体からも大変高い評価を受けています」

小学校(上)や中学校(下)をはじめ、セントラルジャワ・プロジェクトの近隣地域では、現地スタッフが中心となり、積極的にCSR活動を行っている(写真提供/電源開発株式会社)
小学校(上)や中学校(下)をはじめ、セントラルジャワ・プロジェクトの近隣地域では、現地スタッフが中心となり、積極的にCSR活動を行っている(写真提供/電源開発株式会社)

 世界4位の人口(※1)を抱え、成長著しいインドネシアの経済に欠かせない一大プロジェクト。建設工事を終え、無事に運転開始にこぎつけるという最終盤の重要なミッションを背負い、2020年夏、謝花はインドネシアに発った。以来、現地に駐在し、陣頭指揮をとっている。

 謝花は、一国の経済発展を支える意義と重要性を十分認識したうえで、 “きれいごと”だけでは語れない現実もよくわかっている。

「海外事業を積極的に展開しているのは、言うまでもなく『人々の求めるエネルギーを不断に提供し、日本と世界の持続可能な発展に貢献する』というJ-POWERの企業理念に根ざしたもので、それぞれのプロジェクトがその国々で必要とされる電源であることを基本としています。ただ、企業としては当然のことながら、そうした理念、誤解を恐れずに言えば“きれいごと”だけで動いているわけではありません。競争が激化するなかで、会社がしっかりと利益を上げ、これからも存続していくためには、海外展開が欠かせない。私はそう考えています」

 日本国内の電力需要は人口減少や省エネ化が進み、利益を拡大していくことは難しい。加えて、カーボンニュートラル、つまり二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという世界的な潮流を受け、これまでJ-POWERを支えてきた柱の一つ、石炭火力発電が逆風にさらされている。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの立地や調達の争奪戦も激しくなる一方だ。

 そうした極めて厳しい現状を、海外に身を置く謝花は肌身で感じ取っているのかもしれない。

インドネシアのセントラルジャワ石炭火力発電プロジェクト(写真提供/電源開発株式会社)
インドネシアのセントラルジャワ石炭火力発電プロジェクト(写真提供/電源開発株式会社)

次の時代を担う後輩たちと
心躍る瞬間を分かち合いたい

 海外事業への挑戦なくして、会社の成長はない――。

 そう胸に刻む謝花が今、重要だと考えているのが、海外経験を積んだ人材の育成だ。セントラルジャワ・プロジェクトは新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、決して容易ではない監理を強いられている状況にある。だが、そんな状況すらも今の自分たちには貴重なものと捉える必要がある、と謝花は言う。

「新型コロナウイルス感染症拡大により、インドネシアには現在、J-POWERから20人弱しか派遣できていません。しかし、状況が落ち着いたらコロナ禍前の30人規模まで増員して、現地での施工監理業務にあたってもらう予定です。このプロジェクトを経験した人間は、間違いなく今後のJ-POWERを担っていく人材になる。私はそう確信していますし、彼らの成長を肌で感じています。今、現場にいる人たちは本当に大変な思いをしながら日々の業務に当たっていますが、それでも、私にとってのポートクランのように、このプロジェクトが自分を成長させてくれたと思い返すときがきっと来るはずです」

 ポートクランについては、心残りもあるという。完成まであと約2年というタイミングで東京の本店に戻ることになり、商業運転に立ち会えなかったのだ。

「発電所に携わるエンジニアにとって一番心躍る瞬間は、商業運転の開始。別のプロジェクトでは経験したのですが、現場担当者として苦労したポートクランにはやはり特別な思い入れがあるので、立ち会えなかったことが今も心残りです」

 そんな謝花に2019年、嬉しい出来事があった。J-POWERがマレーシア最大(※2)のIPP(独立系発電事業者)と提携を結んだのである。

「マレーシアに再びかかわるチャンスが巡ってきたことが、何より嬉しいですね。ポートクランではかないませんでしたが、次はぜひ、これからのJ-POWERを支える後輩たちと一緒に立ち会いたい。それが今一番の楽しみです」

※1 国立社会保障・人口問題研究所「2021年版人口統計資料集」より
※2 経済産業省資源エネルギー庁「平成31年度燃料安定供給対策に関する調査(諸外国のエネルギー政策動向及び国際エネルギー 統計等調査事業)諸外国のエネルギー政策動向等に関する調査報告書」より

謝花 たかし(じゃはな・たかし)

沖縄県生まれ。琉球大学で電気工学を学び、1985年、電源開発株式会社に入社。長崎県松島火力発電所運転員として勤務したのち、石炭資源開発会社に出向。本店勤務を経て、20代後半から海外業務に携わる。マレーシアでの「ポートクラン三期プロジェクト」を皮切りに、台湾、タイなどでの業務を担当。2020年の7月からインドネシアに駐在し、ビマセナ・パワー・インドネシア社による石炭火力プロジェクトを統括している。

文:奥田高大

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