【Vol.1】幼児教育編:親子でどう育む? デジタルネイティブ世代の自己肯定感を高める学び
親子でデジタルに親しむ世代
学びにおけるメリットを認識
――現在未就学の子どもたちは、まさにデジタルネイティブと呼ばれる世代。デジタルツールとの向き合い方も急速に変わっています。学びという点においては、デジタルとのふれあい方にどのような変化が見受けられるでしょうか。
岡田:ここ1、2年で、未就学のお子さんたちがデジタルに触れる機会は一気に増えました。特にコロナ禍で小中学校はもちろん、幼稚園でもオンライン活動が導入され、教育現場におけるデジタル化が進行しています。この世代は親御さんもPCやスマートフォンなどに親しみが深く、親子でデジタルネイティブといえるご家庭もあるでしょう。以前は地域のコミュニティーに根ざした「先輩ママ」「先輩パパ」などから子育て情報を得る機会が多かったところ、最近はネット上から自分に合った情報を、上手に取捨選択していらっしゃる。「子育てとはこうあるべき」という固定観念から自由になっている印象です。デジタルを教育の中にもうまく活用していこうという風潮が、強くなっているといえるでしょう。
橋本:幼児期のデジタル利用率は確かに上がっています。弊社の調査でも、デジタルデバイスに接する時間の割合が増加していることが認められ、年長児の約4割が1週間に「1日程度」以上タブレットを使っているというデータもあります。デジタルデバイスに対して、視力への影響や没頭感を心配する声もありますが、「繰り返し学ぶことで認知が定着する」「子どもの都合に合わせて学んだり楽しんだりできる」といったポジティブな面への注目が高まっています。特に、小中学校で1人1台の情報端末を整備する「GIGAスクール構想」が現実化する中、小学校入学前にタブレットを使った学習に慣れさせたいという親御さんの声も聞かれるようになりました。
知識重視から思考力重視へ
答えを限定しない問題にも取り組む
――現在の幼児教育の風潮としては、どのようなことがいえるでしょうか。また、デジタルデバイスを利用することが一般化する中で、どのような学び方が望ましいと思われますか。
岡田:まず、いつの時代も幼児期において変わらない特徴としては、生活の中で身近なものから興味関心を広げていき、段階的に学びを深めていくということ。その点、デジタルを活用することで、普段は行けないような場所の景色を見たり、情報を得たりすることができ、好奇心を育むことができます。そしてその発見や驚きを親が一緒に喜んであげて、次の興味へ誘ってあげることが大切です。同時に、親自身もデジタルを使って学び、楽しむことがポイント。「学ぶ」は「真似る」が語源ともいわれますが、一番身近な存在である親御さんが学びのモデルとして、子どもと一緒にいきいきと楽しく取り組めるような時間があると、お子さんにとって「学ぶ楽しさ」をより感じてもらえるのではないでしょうか。
そして人生100年時代といわれる今は、何が起こるのか不確かな時代です。子どもたちにとって、いかに自分の頭で考えて解決策を模索できるかが重要です。これまで親世代が受けてきた知識重視の教育と、これから子どもたちが必要とする教育は大きく変わっていくでしょう。親御さんはそのことを恐れず、デジタルを上手に使いながら、子ども自身が主体的に学べるよう後押しをしていただければと思います。
橋本:実際に現在の幼稚園教育要領の中では、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿の一つとして「思考力の芽生え」が示されています。教材の中でも、こういった力を育めるよう、さまざまな工夫をしています。デジタルデバイスという点では、2022年4月から年長児向けにタブレット講座「じゃんぷタッチ」を新開講します。この講座では文字・数・図形といった小学校に向けての基礎を身につけるとともに、プログラミング・アート・思考力といったテーマも用意。自分なりに表現する活動や、答えが一つではない問題に試行錯誤しながら取り組むことで、考える力を育むこともめざしています。
親の負担を軽減しながら
自己肯定感を高める学びを
――子どもの成長に伴走したいと思いつつも、共働きで親も忙しく、なかなか学習に付き合う時間が取れないというジレンマもあると思います。
橋本:現在の「こどもちゃれんじ」会員様を見ても、共働きのご家庭が半数を超えています。そのうち、平日の帰宅時間が夕方5時以降となるご家庭が過半数で、子どもと一緒に教材に取り組む時間が取れないという声もいただくようになりました。そこで、子どもの意欲を引き出すことを得意とする「こどもちゃれんじ」にデジタルの利点を掛け合わせて、現在の親子のスタイルに寄り添い、より豊かな生活を実現できたら――。そんな思いでタブレット講座を開発しました。先行する「進研ゼミ」でのタブレット教材の知見を生かして、幼児期のお子さんでも1人で楽しく学び続けることができるように工夫しています。
ただ、子どもはみんな、がんばったことをお父さんお母さんに認めてほしいもの。「ひらがなが読めた、書けた!」という喜びを、「ママ、パパ、だいすき」とお手紙にして見せてくれたという、かわいらしいエピソードを聞くこともあります。親御さんにとってもお子さんの成長を知ることは、大きな喜びです。そこで「こどもちゃれんじ」では、ひらがなの上達や、アートや音楽などのその子ならではの表現を、メールで親御さんに伝えることにも力を入れています。そして「がんばって続けているね」「上手になってきたね」など、声かけしてあげる機会につなげていきたいと思います。この時期のお子さんにとっての何よりの喜びは、大好きな親御さんに褒めてもらうことですから。それが最大のエネルギーになり、学びへの意欲につながっていくのです。
――あらためて、これからの子どもたちの未来へ向けて、事業を通して実現したい思いをお聞かせください。
橋本: 親御さんが、我が子に「豊かな幼児期を過ごさせてあげることができた」と思えるように支援していきたいですね。お子さんには、自分から楽しく学ぶ中で「できること」を増やして、自信と意欲を育んでもらいたい。そして何ごとにも前向きにがんばる力が付いたと実感してもらえるような状態をめざしたいです。そうやって、それぞれの家庭でお子さんの成長を喜び合えるような、うれしいエピソードを生み出すお手伝いができたらと思っています。
岡田:世界に比べ、日本の子どもたちは自己肯定感が低いと言われます。これからの時代、やはり子どもたちには、「個性を生かしながら自分らしく幸せに生きていい」ということを伝えたいですね。そのためにも、まずは親の育児効力感を上げることが大切なのだと思います。これまで日本では、「わが子を成績の良い子に育てられるかどうか」が親自身の評価軸になっていました。しかしこれからは、人と比べるのではなく、その子なりの良いところ、得意なところを認め、伸ばしてあげることが大切。そこに、デジタル教材を活用するという手があるのだと思います。そして子どもの「できた!」を見ることで、親御さんの育児への自己肯定感も上がっていく。そのサイクルを作っていくことが我々にできることかと考えています。
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岡田晴奈さん
株式会社ベネッセホールディングス グループ執行役員
株式会社ベネッセコーポレーション 取締役 兼 Kids & Familyカンパニー長
1982年 福武書店(現ベネッセホールディングス)入社。出版営業部に配属され、1986年、社内で出産休暇取得・復帰第1号となる。1993年 に「こどもちゃれんじぷち」「こどもちゃれんじぽけっと」講座事業の立ち上げに携わる。1997年、「こどもちゃれんじ」事業統括部長に就任。通信教材のみならず、コンサート事業や他社との協業によるエンターテインメント施設など、ふれあいの場を創出。講座の海外展開なども行う。2021年4月より現職
橋本里奈さん
株式会社ベネッセコーポレーション Kids & Familyカンパニー プレスクール商品部長
出版社勤務を経て、2005年、ベネッセコーポレーション入社。約15年にわたり「こどもちゃれんじ」の教材開発やデジタルコンテンツの開発に携わる。年長児向け講座の編集長、2018年開講の年中・年長児向けの思考力特化コースの新規開発リーダーを担当。2019年こどもちゃれんじ商品部副部長、2020年度より年少・年中・年長児向け講座を統括するプレスクール商品部長に就任
文:玉居子泰子 写真:今村拓馬
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