2016年12月2日に、ユネスコ無形文化遺産に登録された「山・鉾・屋台行事」。果たしてどんなものなのだろうか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞文化くらし報道部・守真弓さんの解説を紹介しよう。
* * *
地域の安泰や災厄よけを願って行う祭り「山・鉾・屋台行事」が、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。
無形文化遺産は、芸能や祭り、社会的慣習、伝統工芸技術など、形のない文化財を登録する制度。失われつつある文化の保護が目的だ。
「山・鉾・屋台」は神霊が宿っていたり、神をもてなしたりするための造形物で、各地の祭りなどで街中を巡行する。2016年10月末、ユネスコの評価機関が18府県の33件を登録すべきだと勧告し、11月末(日本時間12月1日)、エチオピアで開かれた政府間委員会で正式に決定した。日本の提案が「自然資源の継続的使用を保証する」としたことなどが評価されたという。
もともと、京都市の「京都祇園祭の山鉾行事」と茨城県日立市の「日立風流物」の2件は09年に登録されていた。無形文化遺産の登録数が増えるにつれて、同じ分野の文化財の単独登録が難しくなってきたため、政府は、登録済みのものの範囲を広げることにした。もとの2件に加える形で、左の表にある16県の31件を追加した。
今回の登録について各地の祭りの関係者は、「地域の誇りを世界が認めた」「世界にアピールできる」と歓迎。観光客の増加など、地域経済へのよい影響を期待する人も多い。
だが一方で、各地では少子高齢化が進む。経費のかかる祭りの継続が難しくなっており、山車の引き手や職人の後継者などの「担い手」不足も深刻だ。1年に数日しかない祭りを、年間を通じた観光にどうつなげるかといったしくみ作りの課題もある。失われかねない無形文化財を、どう継続させるか。登録を機に真剣な議論が進みそうだ。(解説/朝日新聞文化くらし報道部・守真弓)
【キーワード:ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産】
遺跡や地形などが対象の「世界遺産」、文書や絵画などが対象の「世界の記憶」とともにユネスコの「三大遺産事業」といわれている。文化の多様性や人類の創造性を示していると判断された形のない文化財が、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載される。「山・鉾・屋台行事」を含め、日本からは歌舞伎や能楽、和食、和紙など21件が登録
■登録された「山・鉾・屋台行事」
<青森> 八戸三社大祭の山車行事
<秋田> 角館祭りのやま行事、土崎神明社祭の曳山行事、花輪祭の屋台行事
<山形> 新庄まつりの山車行事
<茨城> 日立風流物
<栃木> 烏山の山あげ行事、鹿沼今宮神社祭の屋台行事
<埼玉> 秩父祭の屋台行事と神楽、川越氷川祭の山車行事
<千葉> 佐原の山車行事
<富山> 高岡御車山祭の御車山行事、魚津のタテモン行事、城端神明宮祭の曳山行事
<石川> 青柏祭の曳山行事
<岐阜> 高山祭の屋台行事、古川祭の起し太鼓・屋台行事、大垣祭の行事
<愛知>尾張津島天王祭の車楽舟行事、知立の山車文楽とからくり、犬山祭の車山行事、亀崎潮干祭の山車行事、須成祭の車楽船行事と神葭流し
<三重> 鳥出神社の鯨船行事、上野天神祭のダンジリ行事、桑名石取祭の祭車行事
<滋賀> 長浜曳山祭の曳山行事
<京都> 京都祇園祭の山鉾行事
<福岡> 博多祇園山笠行事、戸畑祇園大山笠行事
<佐賀> 唐津くんちの曳山行事
<熊本> 八代妙見祭の神幸行事
<大分> 日田祇園の曳山行事
*は2009年に登録済み。今後は、「山・鉾・屋台行事」の中にこの2件も含まれる
※月刊ジュニアエラ 2017年1月号より