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今、教育の現場では「探究的な学び」が注目されています。では、それはどういう学びなのでしょうか? なぜ今、必要なのでしょうか? 探究的な学びの第一人者である溝上慎一さんに教えてもらいました。
近ごろ、「探究的な学び」という言葉をよく耳にしますが、そもそも「探究」とは何なのでしょうか。
「『探究』とは自ら課題を設定し、問題を解決することです。探究的な学びは、20年前から始まった『総合的な学習』でも取り入れられていましたが、2017年に改訂された新学習指導要領では、より明確に探究的な学びを重視することが打ち出されています。小中学校ではこれまでと同じように『総合的な学習』の時間の中で、高校では22年度から『総合的な学習』から新たに『総合的な探究』と名前を変え、より力を入れていく考えなのです」
そう話すのは、長年、探究的な学びを研究・実践してきた教育学者で、桐蔭学園理事長の溝上慎一さんです。
では、なぜ今、探究的な学びが必要とされているのでしょうか。
「私たちが生きる社会は問題や課題だらけで、常に対応に迫られています。今なら新型コロナウイルスの感染拡大が大きな問題になっていますね。学校が長期間休校になるなど、これまで経験がないなかで、今最優先すべきことは何か、授業をどうするか、これらの正解が一つではないものについて考え、対策を練ることも探究の一つといえるでしょう。このように、現代の社会を生きていくには、自ら課題を見つけ、問題解決をする力をつけることが大事なのです」
では、これまでの学びとの違いは何でしょうか?
「従来の学びは、授業で先生が教えたことを覚え、テストでできるだけ高い点を取ることがよしとされてきました。中学受験をはじめ、大学受験においても与えられた課題に対し、正しい答えを出すことが評価の対象になっていたからです。もちろん、知識を習得することはとても大事です。けれども、与えられた課題の中で考えるだけの勉強をしていると、受け身の学びになってしまいがちです。すると、自ら興味や関心を持ったり、疑問を抱いたりしなくなってしまうのです」
しかし、社会に出れば、答えは一つとは限りません。また、与えられた課題に対しては、これからはAIが人間に代わってやってくれることも多いでしょう。
溝上さんは「探究的な学びをする上で、最も大事なことは、生徒自らが主体的に課題設定をすること」だと言います。課題とは、言い換えれば「問い」を立てることです。例えば、海岸を歩いていたら、砂浜にプラスチックゴミが落ちていたとします。それを見て、どうしてここに落ちているのだろう? プラゴミが増えるとどんな問題が起きるのだろうか? どうしたら、改善できるだろうか?など、いろいろな問いが生まれてきます。このように自ら問いを持つことが、探究の始まりです。
「桐蔭学園で行っている探究的な学びでは、この課題設定を大切にしています。なぜなら、与えられたものでなく、自ら課題を見つけなければ、自ら学びを創り出すことができないからです」
とはいえ、はじめはどのような課題を設定したらいいのかわからないこともあるでしょう。
「そういうときは、考えるきっかけやヒントを与えます。でも、最終的には自分で課題を決めます」
課題を設定したら、次はどうすればいいのでしょうか?
「物事を考えるには、設定した課題についての情報を集め、それを整理・分析して、自分の考えとして課題を解決していかなければなりません。このように探究活動を行うには手順があります。この学びを桐蔭学園では『探究基礎』と呼んでいます」
では、探究的な学びのプロセスをもう少し詳しくみていきましょう。
探究基礎は、「①課題の設定」→「②情報の収集」→「③整理・分析」→「④まとめ・表現」→「⑤振り返り・考えの更新」の五つのプロセスを進めていきます。
「課題の設定は、中学生に対してはある程度のテーマを渡しています。例えば、「横浜」について調べてみるといったものです。まず、横浜について事前に調べ学習をします。その中でも何について知りたいか各自が課題を設定し、実際に現地に行って調べてみます」
情報収集のために、図書館の活用の仕方やインターネットの使い方、アンケート調査の行い方なども学びます。そして集まったたくさんの情報の中から必要なものを整理し、分析していきます。まとめの方法としては、ポスターの描き方や発表スライドの作成方法を学習したり、人に伝わるプレゼンテーションのやり方を学んだりします。
「探究活動は、自分が課題設定したことを調べ、分析し、自分なりの考えを発表して終わりではありません。他者からの質問や意見、自分自身の振り返りによって、新たな疑問が出てきます。それをまた新たな課題に設定し、探究し続けるのです。このように探究のプロセスを踏みながら、探究のサイクルをらせん状につなげていきます。こうした学びを繰り返すことで、問題解決する力が身についていきます」
溝上さんが指導している桐蔭学園では、2018年度から「未来への扉」という探究的な学びの授業を週1回行っています。この授業では、探究活動をしながら、探究に必要な基礎スキルとその活用方法を中1(中等1)から高1(中等4)の1学期までの3年半かけて身につけていきます。その後、高1(中等4)の2学期からゼミ活動を行います。サイエンスゼミ、モノづくりゼミ、文系トピックマルチゼミ、サブカルチャー批判ゼミなど、その数80種類もあり、大規模な桐蔭学園ならではの大学並みの多様なゼミになるそう。自分の興味・関心のあるテーマを選んだら、課題を設定します。
「中学までの探究的な学びは、自ら課題を設定し、解決していくことで、自分の生き方を考えていくというものですが、高校からは、自分にとって関わりがある課題を見つけ、それが自身の生き方につながるように取り組んでいきます。卒業後、大学で何を学びたいか、その先はどんな人になりたいかなど、自己の在り方を考えながら課題を発見し、解決していきます」
生徒たちが選んだテーマは、人の心の動きであったり、ジェンダーについてだったり、生態系を脅かす環境汚染の問題についてだったりと実にさまざま。これらの発表を高2(中等5)生約1600人全員が行ったそうです。
「学校における探究的な学びで大事なのは、一部だけではなく、すべての生徒が学ぶことです。また、探究的な学びは総合的な学習の時間の中だけで学ぶわけではありません。物事を考えるための知識は教科学習から得られるものが多く、それを活用して探究します。つまり、教科を横断した学びができるということです」
では、こうした学びは家庭でもできるのでしょうか。
「家庭では、その素地を作ることができます。例えば子どもが小さいときから『これってどういうことかな?』と考えさせる機会を促したり、子どもが何かに興味を持ったら、『おもしろそうだね。やってみたら』と勧めてみたり。そうやって子ども自身に考えさせたり、やらせてみたりすると、子どもは自分で考え、行動するようになります。このような主体的な姿勢を作ることが大事なのです」
溝上さんはかつて大学で多くの学生と接してきました。優秀な学生が集まる一流の大学でも、与えられた課題には取り組むけれど、自ら課題を設定し、探究する学生は多くはなかったと話します。
「大学受験は所詮答えのある世界です。でも、大学は自分がやりたいことを研究する場所です。つまり、探究的な学びそのものです。中学・高校で探究的な学びをしてきた人は、大学選びも自分が本当にやりたいことができる大学・学部を選択します。さらに、社会に出てからもさまざまなことに興味や疑問を持ち、生涯にわたって探究し続けるようになるでしょう」
※各学校のサイトへ移動します。