相手の気持ちを思いやった上で言葉を発したり、試行錯誤したり、新しいアイデアを発想したり……。前頭前野が担うのは、AIが苦手で、かつ人間が得意とする「思考」や「発想」だ。AI時代を生き抜くために最も必要とされる能力が、スマホやテレビ、ゲームといった、かつて人が生み出した機器によって衰えつつあるとしたら何とも皮肉だ。

 とはいえ、悲観してばかりもいられない。教育現場も動きだしている。前出の狗飼教諭はRSTの結果を受けて、授業にも一工夫、加えるようになった。

「従来なら、この資料から読み取りなさいという問いを、複数の資料を見せて結果を先に提示し、なぜそうなったのか、道筋を考えさせるような授業を取り入れています」

 今後は学校の教員全員で研修をしながら、読解力をつけるための授業のあり方を模索していきたいという。小高校長は言う。

「昔から読解力の重要性は認識され、読書や作文が推奨されてきましたが、そもそも読解力とは何かという視点で分析されたことはなかった。RSTで6分野の視点を得たことは、授業改善のきっかけになる。分かった以上、逃げられないですね」

 本物の読解力や思考力を養うためには、家庭教育も重要だ。AIに詳しいメタデータ社長の野村直之さんは、膨大なデータを扱うのが得意な一方で発想の転換や真偽の解明が苦手なAIを扱える人材になるためには、「なぜ」を問える力を幼いころから養うべきだと指摘する。

「『なぜ宿題を忘れたの!?』などと『なぜ』を叱責に使う親が多いようですが、良くないと思います。むしろ、子どもの素朴な『なぜ』に答えてあげたほうがいい。そういう大人が身近にいれば、AIが決して太刀打ちできない、情操豊かで、今日のAIが苦手な論理を駆使できる人間に育つはずです」
『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』などの著書がある東北福祉大学の西林克彦さんも、一歩進んだ読解の訓練が必要だと説く。西林さんによると、読解力は知識に偏る面もあり、興味があったり、新鮮に感じる内容の文章は注意深く読める一方、表面的に「分かったつもり」の文や興味のわかない文は読み飛ばしたり、誤読をしたりする傾向があるという。自らの思い込みを疑い、もっともらしく書かれている部分は特に注意するという読み方も必要だ。西林さんは言う。

「読解とは文章の意味を理解すればいいものではなく、書いてある内容を知り、世界に迫るための道具です。『感想主義』に偏りがちな小学校、指示語の抜き出しなど構造理解を問う中高の国語教育だけでは、本物の読解力は養われにくい。文章を読んで理解した上で、知識として再構築する訓練をする必要があります」

(編集部・市岡ひかり、小柳暁子/ライター・柿崎明子)

AERA 2018年4月16日号より抜粋