いろいろな価値観に触れ、視野を広げ、そして自分に向き合った大学時代が映像制作のスタート地点に

SOPHIA PEOPLE 上智で考える。社会で描く。 vol.11

文/田端 広英 写真/簗田 郁子 デザイン/REGION 企画・制作/AERA dot. AD セクション

教えてもらうこと、元気をもらうことが多い「ボランティア」

 2019年夏から活動を始めた、上智大学の写真洗浄ボランティア。どのような経緯で立ち上がり、何をきっかけに谷口さんは活動に参加したのか

 写真洗浄ボランティアを立ち上げたのは、活動のもう一人のリーダーであり、中心的役割を担う仁平史織さん(総合人間科学部教育学科4年)です。きっかけは、仁平さんが2018年7月に発生した西日本豪雨の被災地・岡山県倉敷市真備町のボランティアに参加したこと。写真洗浄ボランティアを行っている団体「課外のあらいぐま」の元で活動した仁平さんが、「これって東京でもできるんじゃない?」と思いつき、上智大学ボランティア・ビューローに相談して企画が立ち上がりました。


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 私は「Habitat for Humanity - Sophia University」というボランティアサークルに所属しています。東北の被災地でのボランティア活動を行うグループでリーダーを務めていたこともあり、写真洗浄ボランティアが立ち上がる際にボランティア・ビューローから誘われて参加を決めました。即決したのは、仁平さんのパッションに心を動かされたから。きっと誰もが「これって私にもできるんじゃない?」と感じる物事があると思うのですが、行動に移すまでには至らないものです。でも仁平さんはボランティア・ビューローに行って自分の思いを伝え、実現する道筋をつけました。そんな仁平さんの情熱と行動力、明るくて優しい人柄に惹かれて、「あ、この人となら一緒にやりたい」と思ったのです。
 
 私はボランティアに対して特別な気負いはありません。ただ、「自分ができることは何なのか」ということは常に考えています。小学校時代、福祉系のお手伝いをする機会が多い学校だったので、このような考え方が染みついているのかもしれません。ボランティア活動には「手伝う」というイメージが強いところがありますが、私自身はボランティアを通して教えてもらうこと、助けてもらうことのほうが多いと感じています。たとえば「Habitat for Humanity - Sophia University」の活動で南三陸に行ったときなども、地元の方々とお話をするだけで、私自身が元気をいただいて帰ってくるんですよ。

現地へ行けなくてもできる被災地支援「写真洗浄ボランティア」

 「写真洗浄ボランティア」は、具体的にどのような活動をしているのか。被災地から離れた場所での取り組みではあるものの、参加者は写真を通じていろいろなことを感じ取っているという。

 昨年の夏休み中に「課外のあらいぐま」のスタッフに指導を受け、秋学期になってから活動をスタートしました。現在は仁平さんと私の時間が合う授業の空き時間に月2回、各回約2時間を目標に活動しています。サークルではないので固定メンバーはいませんが、1回あたりの参加者は平均10人ほど。毎回来てくれる学生もいるので、これまでに延べ50~60人が参加しています。


写真の状態を確認しながら、1枚1枚丁寧に作業をするスタッフ

 写真洗浄の難しいところは、洗浄する写真の状態によって、やるべき作業が変わることです。真備町の「課外のあらいぐま」から送られてくるのは、浸水時の泥汚れなどがついた、アルバムの台紙ごと切り取られたフィルムに挟まれた写真です。私たちの作業の手順は、まずフィルムをはがし、写真を台紙から外すことから始まります。その写真を水洗いして乾かし、エタノール拭きをして、また乾かすというのが基本的な手順ですが、サッと水洗いをすればいいだけの写真もあれば、フィルムと一緒に写真表面のゼラチンがはがれてしまうような状態のものもあります。写真の状態を見ながらみんなで相談し、どこまで作業をやるかをその都度判断していますが、たとえばバクテリアが繁殖して何が写っているかわからなくても、日付が残っている写真はフィルムをはがさず、できるだけきれいにしてお戻しするようにしています。持ち主さんにとっては写真の日付や、少しだけ残っている色、前後の写真の並び順などから「ああ、あのときの写真だ」と思い出がよみがえると考えたからです。
 
 送られてくる写真の持ち主さんと私たちの間には、直接のコミュニケーションは何もありません。でも、手にした写真を通してコミュニケーションをとっている気持ちになるから不思議です。「きっとこの人はこういう人生を送っていたのかな」などと勝手に想像しながら作業していますが、そう感じることで、持ち主さんにとって唯一かけがえのない写真に対して、大切にしなくてはという責任感が生まれます。

いろいろな人が参加する「持続性のある活動」にするために

 活動を立ち上げたリーダーの仁平さんは今春卒業を迎える。そしてもう一人のリーダーとして活動を支えてきた谷口さんも、留学の予定があるという。これからの写真洗浄ボランティアのあり方を、どのように考えているのか。

 私が進学先として上智大学の国際教養学部(FLA)を選んだのは、帰国生をはじめ多様なバックグラウンドの持ち主が多い環境だと聞いたから。私自身は英語をまったく話せない両親のもとで育ったのですが、2歳から英語の保育園に通って日本語より英語を先に覚え、高校時代にアメリカへ1年留学したり半年間韓国に滞在したりと、一言で説明するのは難しい経歴だなと自覚しています。こうしたこともあって、同じような境遇の人が多く、互いの多様性を尊重するカルチャーが息づくFLAが合っていると考えました。


写真洗浄ボランティアに参加したことで、谷口さんの世界も広がった

 ただ、そんなFLAでも毎日会う人は限られます。大学にはたくさんの学生がいるのにもったいないと思っていたところ、写真洗浄ボランティアに誘われました。写真洗浄ボランティアの活動には、他学部の学生はもちろん、大学のOB・OG、他大学の学生も参加しているので、私自身の視野も広がりましたね。さらに昨年11月に開催した活動では、初めて留学生にも参加してもらいました。今は「もっと留学生に参加してもらい、できれば在学中に1回は経験してほしい」と考え、作業手順書の英語版を作っています。
 
 留学生に参加してもらいたい理由は、東日本大震災のことを思い出したからです。当時、海外にいる友人から「大丈夫?」と連絡がきたのですが、みんなに「現地へ行けないから何もできない」と言われました。そういう感覚って、日本人にも多いと思います。でも、被災地に行かなくてもできるお手伝いが、実はたくさんあります。言葉の壁を心配しなくても参加できる環境が上智大学にはあるので、まずは写真洗浄ボランティアに参加してもらい、被災地へ行かなくてもできるお手伝いについて知ってもらいたいですね。
 
 4年生の仁平さんは卒業を控えており、私も今秋からオランダに留学する予定です。被災地の復興ボランティア活動を経験したことで、私は都市計画に興味をもつようになり、オランダで持続可能な建築や空間デザインを学んでみたいと考えていたためです。でも、上智大学の写真洗浄ボランティアは継続してほしい。だから目下の課題は新しいリーダーを見つけること。ソーシャルメディアやオープンキャンパスで活動について発信しながら、次の人たちに引き継いでいきたいと思います。

提供:上智大学