文/田端 広英 写真/簗田 郁子 デザイン/REGION 企画・制作/AERA dot. AD セクション
個性的な表紙が印象的な『アリオーゾ』は、特集テーマに応じて毎号誌面全体がガラリと雰囲気を変える。特集テーマも盛り込まれる情報も各号ごとに異なるが、誌面を通じて読者が何か行動を起こしたり考えたりするキッカケをつくり出そうとしている。
横山紗亜耶さん
「冊子のテーマもそうですが、私たちは制作作業の人数分担なども特にかっちり決めていません。できる人が、できることをやっているんですよ」
横山 『アリオーゾ』は「大学生の情報環境はフェアであるべき」という考えから10年前に創刊された上智大学の公認フリーペーパーです。「アリオーゾ(Arioso)」というのは、イタリア語で「風通しが良い」という意味。学内と学外、世代間など、いろいろな次元を情報が自由に行き来するような媒体というイメージです。媒体コンセプトには「いつもと違う今日のためのフリーペーパー」と掲げ、読者が今まで気がつかなかった情報、目に入らなかった情報を、届けられる媒体を目指しています。
宮田 私たちも、読者が『アリオーゾ』を読んでおしまいではなく、読んだ瞬間からその日がいつもとちょっと違ったものになったらいいなという気持ちでつくっています。
横山 完成したものを読者に押しつけるのではなく、読者が手にして、読んで、「これ、好きだな」「おもしろいな」と感じることで、冊子として完成するようなイメージですね。
宮田 オープンキャンパスで配っていた『アリオーゾ』の「すき!」(10号)という号を読んで、私は「これをつくる一員になりたい」と、実は高校生の時から思っていました。でも、入学後の新入生歓迎期間に体育会の部活のかっこよさに心奪われ、何も考えずに入部(笑)。1年生の夏休みに「大人、子供、大学生」(15号)を読んで、「あれ、なんで私、ここに入ってないんだろう」って気がつき、秋から『アリオーゾ』に入りました。
横山 私は新入生歓迎会のときに配られていた「大学一年生」(新入生歓迎号)を読んで、「自分で誌面をつくることができたら、面白いな」というワクワク感を感じたからです。昔から絵を描いたり、ものをつくったりするのが好きでしたし、『アリオーゾ』の制作に使っているソフト「イラストレーター」も操作できたので、そのスキルも生かしたいなと思いました。
『アリオーゾ』のサークル部員は全30人。広告を集めて印刷費を捻出するのも、もちろん記事制作も写真もイラストもデザインも、学生が担う。編集長も毎号変わるという。
ここ数年の『アリオーゾ』と新年度に配布される『大学一年生』。表紙同様、記事も個性的で面白い
横山 やりたい人がやりたい企画をプレゼンして、部員全員の投票で決定しています。一番票を得た企画をプレゼンした人がその号の編集長になり、一緒に統括するデザイン長も決定。その後、コンテンツごとに企画班をつくり、記事の制作を行っています。だから、入部したての1年生にも、編集長になるチャンスがあるんです。
たとえば、今ちょうど制作の山場を迎えている7月発行の「もしも、」(19号)は、4月上旬の企画コンペで私の企画が採用されたもの。「もしも、」をキーワードに、子どもや大学生や社会人に話を聞いて、大学生の自由さや可能性について考えてもらうような内容です。私は編集長としてデザイン長と相談しながら冊子全体のデザインを決めるほか、表紙や写真ページなどの撮影を行ったりしています。これまで『アリオーゾ』は写真が弱かったので、今回はがんばって写真を撮影し、ビジュアルにこだわったつくりにしています。
宮田 私は「子どものもしも、」という記事を担当する企画班に所属して、近隣の小学校の子どもたちに「もしも大学生になったら」というインタビューをしました。子どもの自由な回答を通して、「大学生はもっといろいろできるんじゃない? できたんじゃない?」と、読者にあらためて「大学生の自由」に気づいてもらおうという企画です。また、私は渉外も担当しているので、編集作業と並行して広告集めの中心になって動きました。印刷費は広告費でまかなう決まりなので、地味ですが重要な仕事ですね。
横山 年2回『アリオーゾ』を発行するほかに、私たちは4月に『大学一年生』という新入生向けの冊子を発行しています。また、体育会とコラボして「上南戦」(上智大学・南山大学総合対抗運動競技大会、7月)の公式ガイドブックをつくったり、ソフィア祭実行委員会からの依頼で「ソフィア祭」(11月)のミスソフィアコンテストの公式パンフレットをつくったりしています。そのほか、ホームページ「アリオーゾweb(http://ariosoweb.com/)」やツイッターの更新は常時行っています。
アリオーゾ公式キャラクター「しげる」のフィギュア。創刊から受け継がれているにもかかわらず部内でも浸透していなかったため、「もっと活躍してほしい」と横山さんが紙粘土でつくり上げた
宮田 11月には学生フリーペーパーのイベント「SFF(Student Freepaper Forum)」にも参加しています。大学のフリーペーパーサークルが出展するイベントで、コンテストのようなものもあるのですが、私たちが1年生のときに「大人、子供、大学生」(15号)が入賞しました。私たちの代の冊子で選ばれたらうれしいなぁ。
横山 他大学は人数も多く、余裕ある冊子づくりをしている印象ですが、『アリオーゾ』は少数精鋭(笑)。また、おしゃれな人がいたり体育会系の人もいたりと、いろいろな人がコラボしてつくっている点も、他大学とは違うかと思います。ごちゃごちゃのメンバーがつくるので、ごちゃごちゃした内容になるのですが、そこが『アリオーゾ』の面白いところ。
宮田 「『アリオーゾ』の核になる部分は何か」とよく聞かれるのですが、毎回、編集長が変わるなど、いい意味で核がないところが『アリオーゾ』のよさではないでしょうか。
学生たちが自らの手で、多様な誌面をつくっている『アリオーゾ』からは、リアルな上智大学のキャンパスライフの一面がうかがえる。
宮田知佳さん
「Vol.19『もしも、』が、私たちが制作に参加する最後の号。今までで一番好きな『アリオーゾ』になりそうです」
横山 上智大学はキャンパスが狭いところがいい。ひとつのキャンパスにほぼ全学部が集まっているので、部員もいろいろな学部学科から集まっています。他大学のフリーペーパーを見ていると特定のキャンパスに偏っている場合も多く、そういう面からも『アリオーゾ』の面白さにつながっていると思います。
宮田 大学色が強すぎないのも上智大学のいいところです。留学生がたくさんいるというのもあるかもしれませんが、何をやっていても自由で、みんながそれを認めてくれている感じがあります。
横山 わかる、わかる。「上智大生たるもの、こうあるべき」みたいな既成概念がない。
宮田 ただ、大学に対してちょっと残念なのは、イベントの告知や宣伝があまり上手じゃないところ。就活イベントも充実しているし、「アフリカ・ウィーク」といったいいイベントもたくさんやっているのに、「え? それ今日あるの?」みたいなことが多くて、参加できないんです。もったいない気がします。渉外部としては『アリオーゾ』の知名度アップも大事なので、イベント広報のようなことも積極的にやってもいいかもしれませんね。
横山 たしかに。ただ、あくまでメンバーがやりたいというのが大前提。「アリオーゾweb」でも大学のイベント告知をやったことがありますが、メンバーが楽しめなかったらやる意味がないと思うんです。依頼を受けた記事でも楽しんで書いていればいいけれど、読んだ人が「書かされている」と感じたら終わりですからね。
7月で私たちは『アリオーゾ』を引退します。私は社会福祉学科なので、福祉の面白さや大切さを伝えたいとずっと思ってきましたが、まわりの人に話してもなかなか理解してもらえず、「伝えること」をあきらめかけていた部分がありました。でも、『アリオーゾ』に携わったことで、伝えたいことを正直に表現すれば、伝わる人にはちゃんと届くということを実感しました。卒業後は福祉の仕事に進むつもりですが、伝えることをあきらめず、伝える工夫や努力を続けていきたいですね。
宮田 スーツを着て協賛先に行くのが格好いいなと思って、はじめは安易な気持ちで渉外を担当したのですが、「お金がなければ冊子は発行できない」ということを痛感させられました。『アリオーゾ』に携わるまで気がつきませんでしたが、自分の好きなことをやったり、いいものをつくったりするには、きれいごとだけでは済まされません。そのシビアな現実を実感として理解できた経験は、社会に出てからも生きてくるのではないかと思います。まずは「自分がファンである」ということを大事にしながら、その実現をシビアな現実から支えるような仕事をやっていきたいですね。
最新号Vol.19「もしも、」は、2週間ほど大学内で手配りされるほか、学生センター課外活動課横のラックや「ヴィレッジヴァンガード」(都内の一部店舗限定)にも置かれる
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提供:上智大学