難民認定や亡命を希望する人々が安心して暮らせる社会へ。

SOPHIA PEOPLE 上智で考える。社会で描く。 vol.17

文/村岡麻衣子 写真/簗田郁子 デザイン/REGION 企画・制作/AERA dot. AD セクション

交流を通じて難民認定や亡命を希望する人々を支える

現在60人以上の学生が参画するSRSG。一つひとつの活動はささやかだが、「知ることが日本で難民認定や亡命を希望する外国人を支えることにつながる」と信じて、活動に取り組んでいる。

サラ・バークレーさん

サラ・バークレー(以下バークレー):難民認定や亡命を希望する外国人を支えるには、まず彼らについて知ることが大切です。そこで、私たちは彼らと日本人とが交流を深めて関係性を築けるよう、学生に加え一般の方々も参加できるようなイベントを開催しています。例えば軽食を囲んで会話を楽しんだり、一緒にヨガのレッスンを受けたり、語学講座を開催したりといったイベントです。
 
ガブリエラ・ナカノ(以下ナカノ):イベントに参加した外国人の方からは、感謝のメッセージが届くことがたびたびあります。ある参加者からは、「長い間笑うことすらなかったけれど、皆さんと会話をしたりゲームを楽しんだりして言葉を学ぶうちに、気持ちが晴れました」というメールをもらったことも。別の参加者は、みんなに誕生日を祝ってもらい、「もう何十年も自分の誕生日にお祝いなんてしたことがなかった」と感動されていました。このように、私たちは誰もが居場所を見つけられるような機会を提供できるように活動を行っています。ただ、一般の方が参加されるときには、事前に守秘義務契約書にサインしてもらい、難民認定や亡命を希望する方々から知り得た情報を外に漏らさないよう約束してもらっています。これは彼らのプライバシーや身の安全を守るためにとても重要なことです。
 
バークレー:他にも、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルや難民支援協会、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などと連携し、各地の学校を訪れて啓発活動を行ったり、難民申請に必要な書類を翻訳したりもしていますが、なかでも重要な活動は、東京出入国在留管理局に収容されている難民申請者や亡命希望者への訪問支援です。新型コロナウイルス感染症の流行前は週4回訪問し、歯ブラシや書籍、テレホンカードなどの物資の寄付だけでなく、メンタル面のサポートも行ってきました。収容所を出ることができず、精神的に追い詰められている彼らにとって、「あなたのことを考えている人がいる」というメッセージは力になると思うのです。

コロナ禍で模索した、新しい支援の形

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、SRSGの活動も制約を受けている。これまで行ってきたような対面での支援が叶わないなかで、どのようなことに取り組んでいるのだろうか。

ガブリエラ・ナカノさん

ナカノ:私たちの活動が口コミで広がっていった結果、今では収容所内の約40人と収容所外の50人程度の方々とつながることができています。
 
バークレー:今は収容所に訪問をすることができないので、代わりに手作りのマスクや手紙を送っています。一つの大きな問題は、彼らが仮放免を得て収容所の外に出られたとしても、住まいや仕事はもちろん、医療保険を取得することさえも不可能な状態にあることです。コロナ禍で体調に不安があっても、彼らは病院にかかることもできません。また、日用品や食料の手配もままならない方々も多く、私たちはフードバンクを運営しているNPOセカンドハーベスト・ジャパンと連携して物資の提供を行いました。
 
ナカノ:SRSGのメンバーに対しては、これまでの勉強会に代わって、ウェビナーを活用した学習の機会を設けました。オンラインで情報共有したり、当事者に体験談を語ってもらったりすることで、難民認定や亡命を希望する方々の変わりゆくニーズを捉え、自分たちに何ができるかを考えることができました。
 
バークレー:6月20日の世界難民の日には、啓発活動の一環として、Instagramを使って難民認定や亡命を希望する方々とその支援者たちからのメッセージを発信しました。また、困難な状況にある彼らの現状を伝える内容の動画を日本語と英語で配信しました。

社会を少しずつ変えるために、発信を続ける

「日本で難民認定や亡命を希望する人々の現状を発信することで、少しずつ社会を変えたい」。2人は大学卒業後も、啓発活動に取り組みながらSRSGをサポートすると語る。

ナカノ:今後も啓発活動を続けながら、シェアハウスの運営や医療費の支援など、難民認定や亡命を希望する方々のニーズに合わせた新しい支援活動も展開していく予定です。また、すでにスタートしている就業支援についても強化していきたいと思っています。他にもNGOや他の大学や教育機関との連携、法律や政策などについて専門的なアドバイスをくれる弁護士など専門家の方々とのネットワークづくりを進めると同時に、クラウドファンディングを活用した活動資金の確保も考えています。
 
バークレー:私たちはもうすぐ卒業してしまうのですが、後輩たちとはノウハウや情報を共有しています。卒業後はまた別の視点から情報を集め、後輩たちの活動に生かしてもらったり、イベントに参加したりしたいと思っています。
 
ナカノ:この活動を続けるには、メンバーたちにも強い精神力が求められます。特に収容所には、紛争地域から逃れてきた方や、暴力を受けた方など想像を絶する経験をしてきた方々がいて、そういった話を直接聞くことで大きなショックを受けるメンバーも少なくありません。そういったメンバーの精神的サポートをすることも、私たち先輩の役目だと思っています。
 
バークレー:難民申請者や亡命希望者に対する問題については、個人から国レベルまで、それぞれにできることや役割があると思っています。SRSGのような草の根活動は、一般の方々がこの問題について認識するきっかけになるはずです。ひとりひとりの意識が高まることで、日本の社会が変わり、政治も動くというポジティブな変化に期待したいです。
 
ナカノ:そうですね。これからも発信を続けることで、多くの方々に難民申請者や亡命希望者の存在を知ってもらいたいです。この問題は、今、まさにここ日本で起こっている問題なんだと知ることから始まります。その上で、何か一つ、小さなことでもいいので「自分にできることはないか」と考えてもらいたいのです。そうすることで社会は少しずつ変わっていくと同時に、必要な法整備なども進んでいくのではないかと信じています。

※「Instagram」は、Instagram,LLCの商標または登録商標です。

提供:上智大学