心の変化は、すぐに成績に反映されるわけではありません。大人はどうしても点数、偏差値など数値的なものを見て「頑張りが足りない」と思ってしまう。でも、自分の子どもの受験のときもそうでしたが、子どもなりに頑張っている気持ちを、親や塾は完璧に把握することはできません。第1志望校に受かりたいという確固たる思いがあり、彼女なりに本当に頑張っていたんだな、と振り返って気づきました。

「やる気」のスイッチがいきなり入る子は、実は少ない

――確かに、急にやる気になるって、想像の世界かもしれません。

 パチッとスイッチを押すように急に変化することは、かなりレアなケースです。それよりも、ラジオのボリュームのつまみをゆっくり回していくように、「気づけば次第に大きく変わっていた」というような、緩やかな変化をしていくことが多い。僕はこの経験などから、「目に見えた変化を期待しないように」と、保護者の方々に意識して伝えるようにしています。

――念願かなって第1志望に入学した“その後”はどうなりましたか?

 入学直後は、定期テストでも上位層に入ることができず、補習も頻繁に受けて、勉強面では苦戦していたようです。ただ、高校生になってからは文化祭実行委員や生徒会に入り、自ら発信する立場に。そこから自信をつけ、ガラッと変わりました。算数を苦手としながらも、工学系に興味があり、「プログラミングの授業が面白い」と言って、後にコンテストで賞を受賞したことも。大学は総合型選抜で難関大に合格しました。

――彼女には、テストの点数では測れない大きなポテンシャルがあった、とも言えますね。

 本当にそう思います。中学受験でいうと、基本的に4教科の点数で合否が決められるので「4教科ができてこそすべて」と思われがちです。でも、子どもたち一人ひとりには4教科の点数では測れない、いろいろな能力や才能があります。合格しないと入学はできませんが、入学後に自分のやりたいことに打ち込める環境があれば、どんどんその才能を伸ばしていけるのだと思います。

 彼女が進学した学校は、「生徒が能動的になるまで待つ」というスタンスの先生方が多く、5教科以外の能力を伸ばせる機会も充実していた。その学校でなければ、もしかしたら彼女のここまでの成長はなかったかもしれません。

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