鉄道は、さまざまな事情を抱えた人が利用する乗り物だ。高齢者、妊娠中の女性、車いすをご利用の方や白杖をお持ちの方など、周囲の手助けや思いやりを必要とする人は多い。
あらゆる人が、快適に利用できる鉄道に——。その思いを胸に、チャレンジを続ける社員がいる。東京支社総務部サービス品質改革室の玉城望さんは、車いすのお客さまが利用しやすい環境の整備に取り組んできた。中でも大きな課題なのは「待ち時間の短縮」だという。
車いすのお客さまが乗車する場合は、駅の改札などで駅係員に声をかけ、係員が降車駅に電話し、乗る電車の列車番号、号車、ドア番号を口頭で連絡。それに従って、降車駅の係員がホームで待機し、到着次第、ホームと電車の間にスロープを渡して降車を介助する……という流れだ。
「電話での連絡時にはメモを取り、復唱もするため時間がかかります。また、降車駅の係員が他のお客さまの対応などで電話を取れないこともあります。そのため、お客さまには乗車駅でお待たせしてしまうことが多かったんです」(玉城さん)
待ち時間短縮の一環として導入されたのが、「お客さま乗降連絡アプリ」だ。これは、従来電話で行っていた降車駅への連絡を行うアプリ。乗車駅改札でお客さまからの申し込みを受け、係員が行き先や電車の列車番号等の内容をアプリに入力すると、降車駅にアプリから通知が届くという仕組みだ。現在は山手線と南武線、京葉線に導入されている。このアプリの山手線への導入を担当した川村万里絵さんが説明する。
「アプリでの伝達により、メモを取る時間、復唱する時間が省略できます。口頭連絡で起こりがちな言い間違いなどのミスを防ぎ、正確性も増しました。また大規模な駅では、連絡を受ける係員とホームで介助をする係員が別になるケースがあり、係員間でのやりとりも必要でしたが、アプリであれば駅係員が各自のタブレットで同時に情報を共有できます。係員からは『利便性が高く、お客さまをお待たせする時間が減った』と好評です」
待ち時間短縮のための施策は他にもある。たとえば、ホームの一部にくし状の部材を設置。ホームと列車のすき間が小さくなり、車いすのお客さまが自身で降車することが可能になった。
「これにより、ご自身での降車を希望されるお客さまには、係員による降車駅の連絡を省略することができ、乗車駅での待ち時間短縮を実現しました」(玉城さん)
くし状部材の設置箇所には、ひと目で分かるようにホーム上の床面とホームドアにピンクの案内表示を設置。山手線と京浜東北線のホームドアがある全駅に設置されている。もちろん、これまでどおり介助を希望するお客さまには、降車時も駅係員が対応を行っている。
ホームドアの整備など転落防止対策を進める一方、当事者の立場になって考え、事故を未然に防ぐための取り組みにも注力している。その一つが、目の不自由な方を対象にした安全教室だ。昨年、白杖をお持ちのお客さまがホーム上から転落する事故が発生した。これを受けて開催した安全教室には、東京都の視覚障害者の協会から目の不自由な方と付添人計120人が参加。実際に品川駅の線路上に降り、ホームの高さや車両の構造を体感してもらったという。教室開催に携わった峯誠也さんが語る。
「転落した際、慌ててホームによじ登ろうとする方が多いのですが、ホームは高さが約110cmもあり、登るのは大変です。参加者の中には、ホームの高さを体感し『思っていたよりずいぶん高い』とおっしゃっていた方もいました」
これまで総武線などの運転士を務め、現在もサービス品質改革室の仕事と運転士を兼務している峯さんが力を込める。
「万が一、ホームから転落した場合は、周りの方々に気づいてもらえるよう大きな声でお知らせください。ホーム上の列車非常停止ボタンにより、運転士も危険を察知しブレーキをかけるなど、早めの対応を取ることができ、結果的にお客さまの命を救うことができます」
一方、長年にわたり駅の管理者を務めてきた玉城さんは、設備などのハード面だけでなく、ソフト面も含めた環境整備が必要だと考えている。たとえば「声かけ・サポート」運動といって、お体などに不自由のあるお客さまに、積極的な声かけをしたり、介助やご案内の方法などについて研修を受け、専門の資格取得を駅係員以外でも進めている。このような個々の努力も含め、「お客さまのご期待に応え続けるために、環境の変化を機敏にとらえた対応を心がけたい」と玉城さんは語る。
「こういった日々の心がけは、東京2020オリンピック・パラリンピックにおいても、多様なお客さまに快適なご利用を提供することにつながると考えています」(玉城さん)
あらゆる人にとって安心・快適な鉄道。お客さまと共に歩み、寄り添い、頼れるインフラでありたい。鉄道の未来を見据え、彼らの挑戦は今日も続いている。
JR 東日本は、東京2020 オリンピック・
パラリンピックを応援しています。