習志野運輸区は、中央・総武線各駅停車の三鷹〜千葉間と、総武快速線の東京〜千葉間を担当する運輸職場で、主に車掌と運転士が所属し、平均年齢は35歳と若い。担当する線区は東京1964オリンピック・パラリンピックの遺産を引き継ぐ「ヘリテッジゾーン」であり、東京2020大会の会場計画にも組み込まれているのだが、もう長いこと、ある課題を抱えていた。沿線住民の増加に伴い、混雑率が上昇し、慢性的な遅延が発生していたのだ。間違いなくお客さまが増える東京2020大会に向け、遅延の低減は急務だった。
運転士である長沼貴文さんは現在、指導担当として定期的に運転士の隣に乗務、指導を行い、ヒューマンエラーの防止や対策の周知に力を入れている。その傍ら、東京支社と千葉支社を横断して結成された慢性遅延解消プロジェクトメンバーとして活動もしている。
「中央・総武線各駅停車の慢性遅延は、お客さまの不利益はもちろんですが、私たちにとっても勤務体系が乱れるなど負担が大きいのです。時間通りの運行がもたらす恩恵は計り知れません」
横断的なプロジェクトチームのもと実施され、有効だった取り組みはこれまでに二つある。一つは各駅の発車メロディーの長さを統一し、従来は車掌の裁量に任されていた「到着から発車までの流れ」を一律にしたこと。そうすることで、お客さまも一定の感覚で乗降できる。もう一つは乗降スペースの確保だ。ホーム上にある、整列する線の位置をドアの前からずらすことにより、一度降りる人がスムーズに一時待機できるよう促した。ホーム上で電車を降りた人と乗る人が交錯しないので、乗降時間が短縮できる。どちらも4年前から実施され、遅延低減への効果が表れている。この他にも、長沼さんは運転士として何か取り組めないかと考えている。
「安全性を大前提としつつ、運転方法で何か工夫できることはないか、と日々検討を重ねています。また指導担当として、常日頃から現場で乗務する運転士の潜在的な不安や悩みを解消すべく努力しています」
柴田聡さんは車掌として乗務しながら、管理者の補佐として、乗務員の点呼や社員の育成に携わっている。点呼で行うのは、アルコール検査や注意事項の確認だ。
「点呼を終えると一人になりますから、最後の砦です。東京ドームでイベントがあるときや、休日で不慣れなお客さまが多いときはご案内に特に留意するように、ひと言添えます」
柴田さんが点呼に立ち会う車掌たちは、東京2020大会で最前線に立つ。
「ホームドアの導入など、この運輸区では新しい要素もこれから入ってきます。車掌が取り扱いに不安を感じないよう私自身が勉強し、どんな疑問にも答えられる体制を作り、安定した輸送を提供していきます」
遅延への対策は、運転士や車掌による現場だけに留まらない。もう一つ重要なのが、行路と呼ばれる乗務員の勤務の設定だ。千葉支社で行路を設定する森川純子さんは、もともとは運転士だったが、「別の世界も勉強したい」と希望を出し、支社業務へ異動した。今は運転士を兼務しつつ、支社では主に臨時列車の行路設定を担当する。東京2020大会期間中は競技の終了時間に合わせて、深夜輸送の時間も延びるはずだ。
「行路の設定は、机上では成立していても、実際の業務では『少しきつい』ということがあります。私は運転士として日々経験する感覚を、支社の業務に反映していければと思っています」
東京2020大会に向けた取り組みには、乗務員の働き方改革も含まれている。森川さんの、企画部門と運転士という兼務も一つの例だ。
「運転士として乗務を続けながら他の部門にも携われたことで視野が広がったと感じます。当社には時短行路と呼ばれる短時間勤務制度もあって、私も育児休職明けの2年間は活用しました」
働き方の選択肢が多様だと、介護や子育てと仕事との両立がしやすい。
「時短行路は朝・昼・夕の勤務帯の選択が可能です。保育園への送り迎えが楽になったという声を、社内で聞くようになりました」(柴田さん)
働き方を柔軟にして効率的な運行体制を維持することは、深夜輸送による臨時行路が増える東京2020大会への布石となる。
「せっかく制度が弾力的になったのですから、乗務員が時間通りに勤務終了できる環境を整えなければ。業務を超えて横断的につながることが遅延を解消し、変革に至る道だと信じます」(長沼さん)
一つのチームとなって、難しい課題に向け、地道な努力を積み重ねていく。その先にJR東日本が目指す、よりよい輸送サービスの形がある。
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