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データ

サイエンス

重力波

髙橋弘毅。

Reportage

基礎から応用、そして先端領域まで
幅広い学びを提供する東京都市大学。
教授陣も優秀(かつユニーク!)な人材が教壇に立つ。
そんな先生たちにまつわるモノやコトをフックに
インタビューする「ヒトモノリサーチ」。
今回は2023年に新設されたデザイン・データ科学部の
髙橋弘毅教授が主役だ。

東京都市大学 ヒトモノリサーチ Tokyo City University 7

文/大場宏明 ウェブデザイン/ヨネダ商店 アートディレクション/鍋田哲平 写真/東京都市大学提供
制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画/AERA dot. ADセクション

髙橋弘毅

デザイン・データ
科学部と
宇宙科学
研究センター

「デザイン・データ科学部」は2023年4月、横浜キャンパス(神奈川県横浜市都筑区)に開設された、東京都市大学の中で最も新しい学部だ。

 この学部では、データサイエンスについての知識や技術を学ぶだけでなく、学生全員が海外留学を経験し、語学力と国際感覚を養う。

 デジタル化とグローバル化の時代にふさわしい、社会課題の解決をデザイン=人と社会に役立つ新しい「モノ」「コト」を構想・設計・構築できる人材を育てる。

 政府も「デジタル人材の育成・確保」を国策として掲げており、そんな中、東京都市大学デザイン・データ科学部にも、日本の未来を切り開く人材の育成に大きな期待がかかっている。

 そんなデザイン・データ科学部で教育・研究に全力疾走するのが髙橋弘毅(ひろたか)教授。データサイエンティストである。

 データサイエンスでは、物理・数学や統計学などの知識とプログラミングをはじめとする情報技術を駆使して、膨大なデータを分析していく。その分析から有用な結論を導き出して、人や社会に役立て、世の中を前進させるために活用するのだ。無機質に見えるデータから“宝”を見つけ出す学問と表現すればいいだろう。

 髙橋教授の活動領域は固定観念にとらわれない。現在、デザイン・データ科学部だけでなく、東京都市大学総合研究所の宇宙科学研究センターのセンター長も務め、重力波物理学・天文学の研究を精力的に進めている。

髙橋弘毅

自分の枠を「専門分野だけ」と狭めることのない髙橋教授。第一印象は「よく笑う、ほがらかな先生」だった。

岐阜県
飛騨市神岡の
「KAGRA」に
潜入取材

 ところで「重力波」って何だろう? 髙橋教授に「初歩の初歩から教えていただきたい」とお願いしたところ、こんな答えが返ってきた。

「重力波の日本の研究拠点である『大型低温重力波望遠鏡 KAGRA(かぐら)』を見てみませんか。理解が深まると思います」

 えっ、いいんですか!? KAGRAといえば、新しい技術を結集させた重力波望遠鏡である。場所は岐阜県飛騨市神岡。取材陣は浮き足立った。

 なお、東京都市大学は2020年10月に東京大学 宇宙線研究所と学術交流協定を結び、KAGRAでの研究・教育活動を進めており、東京都市大学の学生もKAGRAの研究活動に取り組んでいる。

猪谷駅

時刻表

高原川

かぐらトンネル

KAGRAの最寄り駅は富山県富山市の猪谷(いのたに)駅。時刻表を見ればわかる通り、のどかな地域にある。近くには高原川。夏は鮎(あゆ)も釣れるらしい。そして「かぐらトンネル」の看板を発見。KAGRAのために掘られたトンネルなので、そのまま平仮名で名づけられた。

東京駅から
約5時間で
KAGRAに
着いた

「遠いところをようこそ」。2023年7月某日、われわれより先に現地入りしていた髙橋教授は満面の笑みで出迎えてくれた。

 東京駅を午前7時台の新幹線で出発し、特急列車に乗り換えて富山県の南端、岐阜県との県境近くで下車。そこで車に乗り換えてKAGRAのある岐阜県飛騨市北端に位置する神岡町の研究棟に着いたのは昼近かった。作業服に着替え長靴とヘルメットを着用し、山腹の入り口から奥へ奥へと進むとKAGRAへの専用トンネルにたどりつく。

「大学とKAGRAを数カ月に一度くらいのペースで往復しています」と髙橋教授。

「データの解析だけなら大学でも可能ですが、KAGRAの現場の様子を見たり、現場のスタッフと話をしたりして、情報を最新に更新するため、神岡まで足を運ぶ必要があるのです」

 髙橋教授と共に、東京大学 宇宙線研究所 重力波観測研究施設長の大橋正健(まさたけ)教授もレクチャーしてくださった。

KAGRA全体の施設名

KAGRA全体の施設名はこちら。東京都市大学は東京大学 宇宙線研究所と学術交流協定を結んでいる。

大橋正健教授

東京大学 宇宙線研究所 重力波観測研究施設長の大橋正健(まさたけ)教授。超初心者の取材陣に、丁寧に教えてくださった。

重力波=
時空のさざ波
とは
なんぞや?

 KAGRAは1辺が3キロのL字型のトンネル2本で主に構成されている。L字の直角部分から2方向へレーザー光を同時に反射して戻ってくる、2本の光のわずかなズレを計測する。重力波の影響で時空がゆがめば、光の進む距離も変化してズレるというわけだ。

 重力波は「時空のさざ波」とも呼ばれる。髙橋教授、時空のさざ波についての解説をお願いします!

「トランポリンの上にピンポン玉を置いてもトランポリンの面はほぼ水平のままですが、砲丸投げの重い鉄球を置くと大きくへこみますね。これと同じように、とてつもなく重い物体の周囲では時空が大きくゆがみます。その物体が動けば、時空のゆがみが波となって広がります。湖や水たまりに石を落としたときに、水面上を波が伝わっていきますよね。この現象と同じイメージです」

 20世紀を代表する天才物理学者のアルバート・アインシュタインは1916年に発表した「一般相対性理論」で重力波の存在を予測したが、その観測は難しいだろうと考えられていた。物理学の世界では、重力波の観測は「アインシュタインからの最後の宿題」と呼ばれるほどの難題だったのだ。

 ところが、2015年に米国の研究チームが重力波の観測に初めて成功した。宇宙の姿を光や電波などを通じて観測するのに加えて、重力波を通じて宇宙を知る重力波物理学・天文学が本格的にスタートしたのである。

KAGRA

KAGRA

温度計

トンネルの中の奥深くまでも続くKAGRA。全景図と共に見ても実感がわかないほど巨大。地下200メートルに位置するだけあって気温は1年中ひんやりで、10度ちょっと。

奥深い
地下でしか得られぬ
貴重なデータを
整理する

 髙橋教授のミッションは、「大量のデータの中から、地球に届いた重力波を見つけ出すこと。砂漠の砂の中から、どこにあるかわからない一つの宝石を見つけ出すことと同じ」。

「ブラックホールの合体」や「超新星爆発」といった大量のエネルギーを放出する現象が重力波を生み出すが、それによって生じる時空のゆがみはほんのわずか。非常に観測しづらく、貴重な瞬間なのだ。

 KAGRAは地下200メートルにつくられている。山全体が固い岩盤で覆われており、外部の振動や温度変化の影響が少ない。「きれいなデータ」を得るには好都合だが、それでも不要な雑音をゼロにすることは困難だ。

KAGRAを遠隔操作で調整するための部屋

KAGRAのモニター

KAGRAのモニター

KAGRAを遠隔操作で調整するための部屋。取得した何万種類ものデータのうち、代表的なデータが表示されている。

ビッグデータに
宇宙の謎を解く
カギが
眠っている

 KAGRAで得られるデータは5年で約3ペタバイトと膨大だ。「ペタ」は「ギガ」「テラ」より大きい単位を表し、3ペタバイト(ペタバイト=1バイトの1000兆倍)の場合、約5ギガバイトの映画のDVDに換算するとざっと60万枚分。凡人には理解しづらい量だ。

 文字通りのビッグデータに宇宙の謎を解くカギが眠っている可能性がある?

「もちろん、それを信じてデータを収集・解析しています。宇宙で起きる現象は気まぐれです。『超新星爆発』などはいつ起こるかわかりません。そのため、常に観測していなければチャンスを逃してしまいます。そして、ものすごくいっぱいあるデータから重力波が地球に届いた様子を浮かび上がらせるのは大変な作業です」

「重力波を使えば、今まで難しかった星の内部やブラックホールを調べることなどもできます。また、未知の天体の発見につながるかもしれません」

KAGRAの中心部

この写真の一番奥にある、背の高い銀色の物体がKAGRAの中心部。

サファイア鏡

中央の大きな真空タンクの中に、サファイアでできた鏡が入っている。その「サファイア鏡」は直径22センチ、厚さ15センチ、重さ23キロほど。単結晶のサファイアでできている。

KAGRAのセンサー

KAGRAの中のあらゆるところに、センサーにつながる配線が。一つでも切れると大変なことになる。

KAGRAを制御するコンピューター群

トンネル内の部屋にある、KAGRAを制御するコンピューター群。

AIなどの
技術を活用し
独創的な
解析手法を探る

 重力波物理学・天文学の発展のためには、「雑音だらけのデータの中から重力波を見つけ出せるような、データ解析手法を確立することが必要不可欠です」と髙橋教授は繰り返した。

 ただ、解析手法が確立したとは言い切れない。

「たとえば、AI(人工知能)や機械学習の技術を活用して大量の雑音の中から重力波を見つけられる、独創的な解析手法を開発しなければ――。

 日本では、情報技術を応用したデータ解析ができる人の数はそんなに多くありません。データサイエンスの人材が不足していると産業界でも言われていますが、まさにその通りなのです」

 KAGRAには東京都市大学を含め約110の研究機関、490人を超える共同研究者が参加している。こんなに人が多いと東京都市大学の学生のみなさんは埋もれてしまうのではないか?

「そんなことはありませんよ。情報技術を学び、それを応用したデータ解析ができる、キラリと光る存在になることを期待されています。東京都市大学の学生にも、どんどんKAGRAに足を運んでほしいものです」

髙橋弘毅

KAGRAの中心部で撮影。撮影用に、一時的にライトをつけてもらった。

さまざまな
研究に取り組む
髙橋教授は
野球少年だった

 髙橋教授は安全運転、スポーツや医療の分野にも活躍のフィールドを広げている。

 手首に加速度センサーを付けて運転したときのデータを安全運転に役立てる研究や、水泳選手につけた加速度センサーから得たデータをもとにトレーニングの質の向上を目指すシステムを開発している。

 現在、深刻な体調不良や居眠り運転の原因になる睡眠時無呼吸症候群の診断補助にデータサイエンスの手法を応用する研究も重ねている。

「睡眠に関する研究は、山登りに例えると2~3合目くらいでしょうか」

 研究対象がどこまでも広がる髙橋教授だが、子ども時代は「野球しかやっていなかった」と笑う。父が野球のコーチをしていたこともあり、野球を中心に回る生活だったという。「将来、野球で食べていくだろうなと思っていました」

 ところが高校に入学し、野球で活躍している同級生や先輩の姿を見て、「どう考えてもかなわない」と感じた。野球には見切りをつけ、自分が得意だった化学の知識を役立たせようと、いったんは薬学部を目指した。

 転機が訪れたのは高校2~3年生の頃。当時、予備校で物理学を教えていた講師の話に引き込まれたことがきっかけだ。

「受験物理はきっちりと終わらせて、授業の合間や後にしてくれる宇宙の話がとてもおもしろくて」

 髙橋青年は薬学部から志望を変更して物理学科へ進んだ。髙橋教授に物理学への扉を開いた予備校の講師は、今では研究仲間だという。

KAGRA

さまざまな人たちが力を合わせ、ゴールを目指して邁進する。だが研究というものに終わりはないのかもしれない。

やっている
ことはすべて
根底で
つながっている

 安全運転の研究では技術者と、水泳選手のサポートではスポーツ科学の専門家と意見を交わし、睡眠時無呼吸症候群の研究では医師と学び合う。

 髙橋教授が異分野の人たちと交流することで、お互いが自分の「専門」の外に広がる世界に触れる。「人と人とのつながりを日頃から一番大事にしています」と話すが、旺盛な好奇心と行動力が人と人とのつながりを作ってきたことにもなる。KAGRAの説明をしてくれた大橋教授とのつながりも、その一つの証明といっていいだろう。

 専門分野も国境も超え、髙橋教授を軸とする人のつながりは宇宙のように広がっているのだ。

 ここまで話を聞くと、安全運転、水泳や睡眠も含めたさまざまな「データサイエンス」と「宇宙の姿を知るための重力波の研究」で何足ものわらじを履いているように見えるが、ご本人にそんな意識は全くない。

「私がやっていることはすべて、『データ』というキーワードを通じて根底でつながっているんですよ」

 そもそもデータサイエンスといえば、マーケティングへの応用が知られている。顧客の年齢や収入、購買履歴など大量のデータをもとに最適な営業戦略を練り上げ、企業の売り上げアップに役立てる。もちろん一般的なデータサイエンスのイメージとして間違ってはいないが、それだけではないのだ。

「データから本質を見抜くこと、それは結局一緒です。『私は専門が違うのでそのデータ解析はできません』という人は珍しくないのですが、僕は『自らの視点を狭めてしまっているのでは?』と思いますね。『幅広い視点で物事を見る』、それがいちばん重要なこと」

 そう言って、髙橋教授は爽やかに笑った。

髙橋弘毅

最高の笑顔! こんな笑顔も先生の魅力だ。

Postscript

 岐阜県飛騨市神岡の「KAGRA」取材時は事前準備段階から細やかな手配をしてくださり、本当にありがとうございました。台風が近づいていたのに、当日は湿度高めながら傘は不要のお天気。髙橋先生、大橋施設長はもちろん、KAGRAスタッフのみなさんも親切にしてくださり、取材陣とも会話がはずみました。やはり、髙橋教授のつくる「人とのつながり」は宇宙規模。どこまでも広がっていきそうです!

Profile of Hirotaka Takahashi

髙橋弘毅
東京都市大学
デザイン・データ科学部 教授
総合研究所 宇宙科学研究センター センター長
1976年生まれ。1999年、青山学院大学理工学部物理学科卒業 学士(理学)。2002年、新潟大学大学院自然科学研究科物質基礎科学専攻 博士前期課程修了 修士(理学)。2005年、新潟大学大学院自然科学研究科エネルギー基礎科学専攻 博士後期課程修了 博士(理学)。京都大学 基礎物理学研究所、大阪大学大学院、大阪市立大学大学院、ドイツ・マックスプランク重力物理学研究所(アルバート・アインシュタイン研究所)の研究員、長岡技術科学大学、山梨英和大学などの教員を経て、現在は東京大学 地震研究所 外来研究員(2010年~)、東京都市大学総合研究所宇宙科学研究センター(2020年~)、東京大学 宇宙線研究所 客員教授(2021年~)、東京都市大学デザイン・データ科学部 教授(2023年~)、KAGRA Scientific CongressのBoardメンバー(2023年9月~)
髙橋弘毅

※この記事の内容、事実関係は2023年9月現在のものです(AERA dot.掲載日…2023年9月22日)

提供:東京都市大学