〈PR〉

人間科学と

「風呂」

「温泉」

早坂信哉。

Reportage

「公正、自由、自治」という建学の精神のもと、
個性的な人材を輩出する東京都市大学。
そんな学風を先進的な教育・研究で支えるユニークな教授陣に
現在の活動や普段愛用している逸品を紹介してもらう「ヒトモノリサーチ」。
今回は、「お風呂ドクター」の異名を持ち、メディアにも引っ張りだこの
人間科学部の早坂信哉教授に話を聞いた。
日本が世界に誇る風呂、温泉、入浴の進化にも貢献する
早坂教授の、決して「冷めない情熱」とは?

東京都市大学 ヒトモノリサーチ Tokyo City University 3

文/安住拓哉 ウェブデザイン/ヨネダ商店 アートディレクション/鍋田哲平 撮影/加藤夏子(朝日新聞出版写真部)
制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画/AERA dot. ADセクション

早坂信哉

血圧170で
お風呂に
入っても
いいですか?

「センセイ、血圧170の患者さんをお風呂に入れてもいいですか?」

 早坂教授が「お風呂に目覚めた!」のは、介護現場からの問い合わせがきっかけだった。

 地域医療に貢献する医師を育てる自治医科大学を卒業後、出身地である宮城県の、内科の医師が自分一人しかいないような病院で働いていたときだった。

 訪問介護の入浴介助の現場では、「血圧が多少高くても、ずっと楽しみにしていたお風呂に入りたい!」という寝たきりの高齢者と、「何か事故があるといけませんから……」とためらう看護師の〈バトル〉が繰り広げられていた。

「血圧がいくつになったらお風呂に入らないほうがいいのでしょうか?」

 何度も現場からそんな問い合わせを受けた早坂医師は、医学書を調べた。

「意外にも、医学書に答えは載っていませんでした。お風呂や入浴に関することは身近でよく直面する問題にもかかわらず、ほとんど研究されていない、ということに気づきました」

 介護する高齢者の方をお風呂に入れていいかどうか ──。それは医者が自分の見立てで勝手に判断することではない、と考えた。

「きちんと判断基準になる根拠があったほうがいいなと思ったんです。当時、医学の世界では『EBM』(根拠に基づく医療:Evidence-Based Medicine)の考え方が普及しつつあったことも、お風呂や入浴を研究テーマにするきっかけになりました」

 1998年に自治医科大学の大学院に進学し、地域医療学教室に所属していた若き日の早坂医師は「机の上で研究対象を見つけるんじゃない。医療の現場で見つけてこい」と指導教授から発破をかけられていた。

 そこで、まさに現場からヒントを得て「お風呂と血圧」について研究することにした。

 折しも1997年に介護保険法が成立。2000年からは高齢者を社会全体で支える介護福祉制度が実際に施行された。訪問入浴サービスも世の中に急速に普及しつつあった。

 その後20年以上にわたり、3万8000人以上の入浴を医学的に調査する「お風呂ドクター」誕生の瞬間である。

早坂信哉と銭湯のミニチュア

お風呂ドクター、銭湯のミニチュア(取材陣が話の種に……と持参したもの)をしきりに触る。「いや~、精巧ですね~」と関心する様子は、さながら少年のよう

『ヒート
ショック』は
医学用語
ではない

「温泉巡りや銭湯通いが趣味というわけでは全然なくて(笑)、医療現場で必要に迫られて始めたのがお風呂の研究だった、ということです」と振り返る早坂教授。

 研究を始めると、「お風呂に入っていい血圧はいくつか」という問題もそうだが、当時から多発していた高齢者の入浴事故の原因などもまったく解明されていないことがわかった。

「20年以上前ですから、まだ『ヒートショック』という言葉もない時代です。そこで、そもそも何が原因で、どんな事故が起こっているのか、一から調査することを始めました」

 ヒートショックとは、暖かい部屋から寒い浴室やトイレなどに行くと、気温差で血圧が急激に上下し、心臓や血管の疾患が起こること、といわれている。

「一般的な定義はそうですね。でも、実は『ヒートショック』という言葉、医学の資料には載っていないんです。きちんと調査されたうえでの医学用語ではなく、ちゃんとした定義もない」

 これには取材陣全員が驚いた。まさか正式な用語ではなかったとは……。

 日本人は世界的に見てもお風呂(入浴)をこよなく愛する国民といわれる。それなのに、お風呂に関する医学的な研究をする人はいなかった。

 だからこそ、早坂教授の研究にはさまざまな人や業界から数多くのニーズがあった。

「昔から、東京の下町の銭湯などでは45℃前後の熱いお湯が好まれています。しかし、医学的に見て健康にいいといえる入浴法は、40℃のぬるめのお湯に10分間、肩までつかる全身浴です」

 血流がよくなるというのが一番大きいが、その他にも「よく眠れる」「疲れがとれる」「痛みがやわらぐ」といった効果もあるという。

「結果的に体が動かしやすくなって、毎日、元気に動けるので、介護予防にもつながるのです」

健康
手抜き風呂は
40度
10分

 早坂教授はこうした入浴法を「健康手抜き風呂」と呼んで、自身の著書などでも普及に努めている。

 40℃前後のぬるいお湯なら血圧が急激に上がることもない。お湯の温度が熱すぎると、体温が急に上がりすぎ、お風呂からあがると汗が出て、すぐに体が冷めてしまう。

「ぬるいお湯に10分間つかるほうが、その後も体内の温かさが持続しやすいんです。よく女性誌などで『ダイエットのためには半身浴で1時間入ったほうがいい』といった記事も見かけますが……」

「長く入りなさい、あれもしなさい、これもしなさいと言われても続かないですよね?」
と早坂教授はほほえんだ。

「特に忙しい人は、毎日、ゆっくりお風呂に入っている時間などありません。手抜き感覚のほうが長く続けられるということで『40℃で10分間、とにかく夏でもお湯を浴槽にためて全身浴』をおすすめしているわけです」

 無理なく浴槽での入浴を続けてほしい、という思いからネーミングしたのが「健康手抜き風呂」というわけだ。

 早坂教授が手提げかばんの中にいつも入れているのは、お湯の温度を正確に計測できる、防水デジタル温度計。一般の人には見慣れないものだが、湯温と健康の関係を日々研究している早坂教授にとっては必須アイテムである。

温度計

「お風呂の温度は40度。10分間、肩までつかればOK」と早坂教授。湯温と健康の関係も日々研究しているので専用の湯温計は必須アイテム

安い
入浴剤でも
効果は
あります

 お風呂といえば入浴剤にもこだわる人は多い。大手メーカーの特売品より高いもののほうが「効きそう」な感じがするが、どうなのだろう。

「入浴剤に関しては、安価な粉末タイプのものでもOKです。温泉の成分でもある硫酸ナトリウムが入っていれば、温熱や保温の効果が十分に得られます。色や香りが気分転換にもなるので、そのあたりは自分の好みで選んでください」

 早坂教授が千葉大学と共同研究した結果によると、毎日お風呂に入っている人は、週に0回から2回しか浴槽入浴しない人に比べて、新たに要介護状態になってしまうリスクが約3割も減るという。

※2018年11月報道発表、早坂教授と千葉大学による「入浴が健康に与える影響」を調査した研究結果。調査対象/要介護状態を受けていない、全国18市町村に居住する高齢者1万3786人 調査期間/3年 結果/夏の浴槽入浴頻度が週7回以上の場合、週0-2回と比較して約3860人(28%)の要介護認定のリスク現象が見られた。同様に冬では29%の同リスク現象が見られた。結論/浴槽入浴の頻度が高いほど要介護認定のリスクが少ない。従って浴槽入浴は高齢者の健康維持に役立っている可能性がある

 入浴時に注意したいのは、せっけんやボディーソープで洗いすぎること。えっ、丁寧に洗えば洗うほど清潔度がアップして、よさそうなのだが。

「私自身、体を洗うときにせっけんはほとんど使いません。年をとるほど皮脂が少なくなってくるので、あまり洗いすぎないことが大切です。皮膚の乾燥が進んでかゆくなってしまいますから」

 におい、汚れ、皮脂がたまっているところはせっけんを使ってもいいが、スネやヒジなどの乾燥しやすいところにせっけんは不要だという。

温泉で
要介護の
確率が
3割減

 早坂教授は「温泉療法医」として、日本が誇る温泉の医学的効果に関しても研究を続けている。「温泉ソムリエ」のテキストの執筆も務めているそうだ。

「温泉には、体を温める効果のある有効成分がたくさん入っています。普段入っている自宅のお風呂をパワーアップしたものが温泉と言ってもいいでしょう」

 かつて熱海市の医師会と共同調査をした。「自宅に温泉を引いている家」と「引いていない家」での介護されている人の健康状態について比べたという。

「普段から温泉に入っている人のほうが、そうでない人より、3割程度、介護状態が悪くなりにくいという検証結果が得られました」

※調査対象/2017年3月時点に介護保険で要支援または要介護状態認定の静岡県熱海市民2719人 調査方法/対象者のうち介護保険認定情報を初回認定時までさかのぼり介護状態を紐づけ、さらに各家庭での温泉設置有無について紐づけ 結果/温泉により介護状態維持または改善された者は温泉設置有で1050人、温泉設置無で142人(さらなる解析を行い、普段から温泉に入っている人のほうが3割程度、介護状態が悪くなりにくいという検証結果を得た) 結論/自宅への温泉設置は介護状態の悪化を予防することと関連因子である可能性がある

 早坂教授は星野リゾートが全国各地で展開する温泉旅館ブランド「界」でも、温泉の入り方のアドバイスや泉質の紹介、パンフレットの内容などについてアドバイスをしている。

 とにかく、入浴やお風呂、温泉などについて医学的な見地から判断を仰ぐなら「この人しかいない」と思ってしまうほどなのである。

星野リゾートの温泉旅館「界 伊東」の客室露天風呂

早坂教授も協力している、星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」。こちらは「界 伊東」の客室露天風呂。ヒノキの香り漂う大きなお風呂にゆっくりつかれば、リラックスしながら、湯治気分が味わえる。photo by 星野リゾート

人間科学=
人の生活に
関わる
学問です

 医師の顔を持ちながら、東京都市大学の人間科学部で教鞭をとる早坂教授。主に教えているのは将来、保育士や幼稚園教諭など、幼児教育にたずさわることを目指している学生たちだ。

 授業でお風呂の話をすることはあるものの、学部にお風呂学科のようなものはない。

 お風呂も食事も、睡眠も運動も、人が健康を維持するための大切な生活習慣。医療とまではいかないまでも、人に関わることすべてが学習や研究テーマになる。

「心理学や美術、福祉などを専門とする教員もいます。人にまつわることを一通り勉強できて『人間に詳しい人』になれる。素敵な学部です」

 卒論のテーマにディズニーなどのアニメ、マンガ『ドラえもん』に関連するテーマを選んだ学生もいたという。このエピソード一つとっても、研究対象が多岐にわたっていることがわかる。

 卒業後は保育・教育現場に進む学生も多いが、人材派遣会社や不動産会社など「人間に詳しい」ことを生かせる分野に就職していくケースもよく見られる。

 早坂教授は「東京都市大学総合研究所 子ども家庭福祉研究センター」のセンター長も務めている。ここでは渋谷区の福祉現場で働く人たちとも連携し、現場と大学の研究者たちをつなぐ「渋谷福祉学会」の運営も担っている。

 すべては現場から。早坂教授は、自らの研究を企業や自治体と共有する活動にも実に熱心なのである。

 今回、撮影場所となった給湯器メーカーのリンナイでも「マイクロバブルバスユニット」(直径1ミクロン以下の泡を作り出す装置)を共同検証。医学的に確かめたところ、優れた温浴効果や洗浄効果が認められたそうだ。

早坂信哉

日々の暮らしをより豊かにするために企業との商品開発にも協力。今回の取材は早坂教授も共同検証に参加した、リンナイの研修施設「ほっとラボ横浜(南関東支店)」で行われた

リンナイのマイクロバブルバスユニットのテスト用の浴槽

リンナイのマイクロバブルバスユニットのテスト用の浴槽に見立てた容器を真横から。たっぷりの気泡で温浴効果、洗浄効果ともにアップするという

おとなしい
少年で…
鳥を
飼っていた

「少年時代は図鑑や学習マンガが好きな、目立たない、おとなしい少年でした。家ではセキセイインコや手乗り文鳥などを飼っていましたね」

 中学時代は1学年12クラスもあるようなマンモス校に通って、ブラスバンド部でパーカッションを担当していた。

「学生時代は、お風呂や温泉に対してそれほど興味があったわけではありません」

 とはいえ、撮影では、こちらの要望に応えてカラのお風呂の中にも入り、カメラマンにも丁寧に協力してくださった。

「趣味ですか? とりたててないんです。今となってはお風呂の研究だけでなく、依頼されたお風呂の原稿ばかり書いていて、それが趣味といえるかもしれません(笑)。高校時代、弁論部に入っていたので、文章を書くのは、わりと得意なんですよ」

 最近は「お風呂で体の不調を直す方法」に関するウェブ連載や「ぐっすり眠れる入浴アプリ」の監修など、ネットやアプリ関連の仕事も増えた。

「コロナ禍でお風呂について関心が高まっているように感じます。人の免疫機能とお風呂に関する話題も増えました」

 学外の活動も活発だが、もちろん東京都市大学の学生との交流も忘れない。温浴設備メーカーの協力を得て、お風呂業界を盛り上げるための記事を学生に書いてもらっているそうだ。

 教壇に立ちっぱなしではない教授。研究室にこもっていない研究者、そして医師。体があるのは、常に現場 ──。

 医療現場の差し迫った疑問から生まれた早坂教授の「お風呂愛」──、その情熱はこれからもずっと冷めることはない。

早坂信哉とお風呂グッズ

少年時代まで過ごした宮城県の実家ではセキセイインコなどの鳥を飼っていた。だからというわけではないが、お風呂グッズの定番、アヒルを持っていただき撮影。何をしていてもふんわりした笑顔になり、場が和む。早坂教授の元に学生が集まるのもよくわかる

Postscript

日本人は世界でも有数のお風呂、温泉、銭湯、サウナ好きの国民性。取材後には「銭湯検定」のテキストを持った取材陣や「早坂ファン」の関係者が早坂教授にサインをお願いしていました。頻繁にテレビやラジオに出演されていることもあり、お風呂や入浴法に関するお話は超初心者の私たちにもしっかり理解できる、わかりやすいものでした。そして、東京都市大学の教授として、地域医療に従事した医師として、人々の健康で快適な生活のために役立つ情報を多くの人に伝えたいという熱い思いを感じました。

Profile of Shinya Hayasaka

早坂信哉 教授
東京都市大学 人間科学部
学部長、教授
温泉療法医、博士(医学)
1968年、宮城県出身、ベッドタウンである多賀城市で育つ。1993年に自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。1998年、自治医科大学大学院医学研究科にて入浴に関する調査研究を開始。同大学医学部総合診療部、浜松医科大学医学部講師、同准教授、大東文化大学スポーツ・健康科学部教授などを経て、2015年より東京都市大学人間科学部教授、2021年より同学部長。一般財団法人日本健康開発財団の温泉医科学研究所所長など、温泉、銭湯、入浴に関する多数の学会、協会の理事を務める。入浴検定、銭湯検定のテキスト監修や、温泉ソムリエ、温泉健康指導士の認定のためのセミナー指導も行う。近年はサウナ、岩盤浴など温熱浴に関する研究も。最新刊『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』(山と渓谷社)など著書多数。

早坂信哉 教授

※この記事の内容、事実関係は2022年2月現在のものです(AERAdot.掲載日…2022年2月28日)

提供:東京都市大学