5月に広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、「核軍縮に関する広島ビジョン」が発表されました。「核兵器のない世界」にどれだけ近づいたのでしょう? 小中学生向けニュース誌「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)8月号から、ジャーナリストの一色清さんが詳しく解説します。

MENU 広島G7サミット、核兵器を全否定せず 戦争を抑止するうえでの核兵器の重要性をうたった

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広島G7サミット、核兵器を全否定せず

 G7サミットが開催された広島市は、太平洋戦争末期の1945年8月6日、アメリカによって世界で初めて核兵器の原子爆弾が落とされた地だ。その3日後には長崎にも原爆が落とされた。以来、78年近くたったが、世界で、核兵器が戦争に使われたのはこの2回だけだ。

 サミットの会場として広島を選んだのは、岸田文雄首相だ。自身のふるさとであり、世界に核兵器の恐ろしさを知らせ、核軍縮の機運を高めたいという思いがあったためだ。首脳たちは広島平和記念資料館を訪れ、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に花を捧げた。そして、「広島ビジョン」では核兵器の削減をうたい、「核兵器のない世界の実現」を再確認した。

 ただ、被爆者からは批判の声も聞かれた。広島ビジョンでは、戦争を抑止するうえでの核兵器の重要性もうたっているからだ。また、「核兵器のない世界の実現」については具体的な道のりを示してもいない。すでに発効している核兵器禁止条約にもまったく触れていない。被爆者団体の中からは「怒りに震えている」という声まで上がった。

戦争を抑止するうえでの核兵器の重要性をうたった

 広島ビジョンで核兵器の全否定に踏み込まなかったり、全廃への具体的な道のりを示せなかったりしたのは、G7の国が核兵器を持っていたり核兵器によって守られていたりするからだ。G7中、アメリカ、イギリス、フランスの3カ国は核兵器を持っている。また、日本やカナダはアメリカの核兵器によって守られている面があり、ドイツやイタリアにはアメリカの核兵器が配備されている。G7各国は「核兵器のない世界」という理想は共有するが、ロシアや中国などの核兵器保有国がほかにある以上、安全保障を核兵器に頼らざるを得ないという現実を受け入れている。

 核兵器に関する世界の取り決めとしては核拡散防止条約(NPT)がある。現在、締約しているのは191カ国・地域に及ぶ。第2次世界大戦後、アメリカだけでなく、ソ連(今のロシアなど)、イギリス、フランス、中国と核兵器を持つ国が増えた。このままでは、核兵器を使った戦争が起こるという危機感から国連で1970年にできたのがNPTだ。この段階で核を持っていた5カ国だけを核保有国と認め、それ以外の国は持つことができないとした。

 その後、インド、パキスタン、北朝鮮が核兵器を持つようになり、イスラエルの保有も確実視されている。NPTで核保有国として認められている5カ国とあわせて、現在、世界では9カ国が核兵器を持っていることになる。

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一色清
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