近年、「入学してからの6年間で学力がぐんぐん伸びる中高一貫校」として注目を集めているのが甲南高等学校・中学校だ。1919年に創立された歴史ある男子校はどのような学びを特色としているのだろうか。

個性を重視し、「いかに生きるか」を念頭に「ひと創り」を進める

 君たちはいかに生きるか──人生の本質に関する問いを投げかけ続けるのは、兵庫県芦屋市に校舎を構える甲南高等学校・中学校(以下、甲南高中)だ。1919年、実業家で、のちに文部大臣を務めた平生釟三郎(ひらお・はちさぶろう)によって「世界に通用する紳士たれ」という願いのもと、創立された。

 1世紀以上の歴史を持つ男子校の教育理念は「人格の修養と健康の増進を第一とし、個性に応じて天賦の才能を啓発するにあり」。山内守明校長が説明する。

「本校では知識偏重ではなく、一人ひとりの個性を重視しています。『将来をよく見据え、広い視点から正しい判断を行い、社会に貢献できる人材を育成する』という使命を掲げており、やがて自分ならではの力で世界に資するために『いかに生きるか』を常に考え、未来を豊かにする点で『自分自身の志を立てる大切さ』に6年間向き合ってもらいます」

 山内校長は「ですから、知識のみに偏重した教育は行っていません」と続ける。理念と使命に準じて「幅広い教養を備えるとともに思考力・判断力・表現力を備え、主体的に判断・行動し問題解決を行うことができる」学力を育んでいく。

山内守明校長は「本校では知識偏重ではなく、一人ひとりの個性を重視しています」と話す

 理念や使命が示すとおり、教育の中心には「ひと創り」がある。「いかに生きるか」を念頭に「ひと」としての能力を引き出す教育を行っている。

 グローバル社会で必要な幅広い教養を身につけ、大学進学をめざす「メインストリーム・コース」も、難関大学への進学を見据える「フロントランナー・コース」も、社会で存在感を発揮するうえで汎用的な能力と言える「ジェネリックスキル」の涵養(かんよう)に力点を置く。実践的に問題を解決に導く力である「リテラシー」と、周囲の環境と良い関係を築く力である「コンピテンシー」を並行して伸ばす教育が特色だ。

緑豊かなキャンパスには四つの校舎があり、大きな窓が緑と明るい光を建物の中に取り込む
教育の中心には「ひと創り」があり、先生と生徒の距離が近い点も特色だ

「リテラシーは情報収集力や情報分析力、課題発見力や構想力などからなり、コンピテンシーは対人基礎力や対自己基礎力、あるいは対課題基礎力などからなります。ジェネリックスキルを客観的に測定するテストを行い、自分の個性を『見える化』して効果的な成長を促しています。リテラシーとコンピテンシーを伸ばす意識は、学力や人間力の向上にもつながっています」と山内校長は語る。

大学も含めると、卒業生が社長を務める会社は全国で約2500も存在

中学1、2年生を対象に「自学自修」を実施。毎年4月に発表会が実施される。2024年は「国生み神話と淡路島の歴史について」が最優秀賞に選ばれた

「ひと創り」の中身は濃い。

 年に2回、社会で活躍している人物を招き、全学年が聴講する「ソフィア講演会」や、中学1、2年生が自分の関心に基づくテーマを探究し、リポートや作品を仕上げる「自学自修」など、普段の授業以外でも視野を広げていく。さらには、医師や弁護士、税理士などの卒業生が教壇に立ち、中学3年生がグループに分かれて職業や将来の考え方などを学ぶ「OBワークショップ」のほか、高校1、2年生が卒業生の経営する会社を訪れ、企業が抱える問題について考える「OB企業訪問」といった機会も設けており、生徒たちは多くの先輩から刺激を受ける。

 それぞれの取り組みについて、山内校長は手応えを感じている。

「特に卒業生との関わりが強いのは本校の特色だと思います。大学も含めると、本校の卒業生が社長を務める会社は全国で約2500もあり、有名企業も少なくありません。中学生のうちに仕事の話を聞いたり、さまざまな企業の活動に目を向けたりすることで、生徒たちは自分は『いかに生きるか』を考え、将来像を具体的にイメージしていきます。高校1、2年生では新聞を教材とした『NIE(Newspaper in Education』の時間を用意しており、進路を定める高校3年生になる前に、自分がどのように社会や世界と関わっていきたいかをしっかりと検討します」

 キャリア教育に基づく「ひと創り」は「社会に貢献できる人材を育成する」という使命を反映しており、その環境は外部からも一定の評価を得ている。2023年に日本政策金融公庫が開催した「創造力、無限大∞ 高校生ビジネスプラン・グランプリ」では「学校賞」を受賞。2024年4月には独立行政法人中小企業基盤整備機構が支援する「令和6年度起業家教育プログラム実施支援校」に選ばれている。「社会に貢献できる人材」について、山内校長は実例を挙げる。

「高校1年生のときにお父さんから出資してもらい、ハイブランドの衣料品の輸入・販売を始めた子がいます。今は大学生ですが、すでに起業して電気自動車の商用車を輸入販売しています。その卒業生は、物流業界の『カーボンニュートラル』をキーワードに、電気自動車を広めることで脱炭素化社会の実現に貢献したいという信念があります」

入学してからの6年間で学力がぐんぐん伸びる理由とは?

留学を核にした国際教育プログラムの「グローバル・スタディ・プログラム」にも力を入れている

「世界に通用する紳士たれ」という願いのもと、留学を核にした国際教育プログラムの「グローバル・スタディ・プログラム」に力を入れ、併設する甲南大学との連携も強い甲南高中は近年、「入学してからの6年間で学力が伸びる中高一貫校」として注目を集めている。2023年度の卒業生は179人のうち延べ32人が大阪大学や東北大学を含む国公立大学に合格した。立命館大学や同志社大学、早稲田大学や慶應義塾大学といった難関私立大学にも進学している。

 創立者の平生は、画一的な詰め込み教育を批判し、「すべて人は皆天才である」「日本の教育は教えるというだけでものを考えさせるということはしない」という言葉を残した。その教育観が「伸びしろを伸ばす6年間」の土台となっている。すでに述べたとおり、個性に加え、「ジェネリックスキル」の伸長やキャリア教育などを重視した「ひと創り」は、「いかに生きるか」という将来を見据えた視野を明らかにしていく。「生徒たちには『大学合格はゴールじゃないよ』と伝えています」と話し、山内校長は胸を張る。

高校生の希望者は、国際ビジネスや異文化を学び現地の若者と交流するアジアスタディツアーで視野を広げる
海外の姉妹校が四つあり、イギリスをはじめ、オーストラリア、アメリカ、ニュージーランドなどでの留学(短期・長期)を経験できる

「本校の生徒たちは早いうちから『自分ならではの力でどのように社会に貢献できるか』を考えており、そうした将来像から逆算した進路選びをしています。『いかに生きるか』は『どう生きたいか』でもあり、そこには『自分自身の志』があります。高い志があるからこそ、必然的に教育環境がよく研究力の高い進学先をめざします。『いかに生きるか』という志があるからこそ、目標に向かって日々、勉学に励むことができているのだと思います」