全学で取り組む、幅広い多様な女性教育
甲南女子大学は、1920年に設立された甲南高等女学校を起点として、1964年に開学した。開学以来、建学の精神「まことの人間をつくる」、校訓「清く 正しく 優しく 強く」を掲げている。5学部11学科を有する総合女子大学として、「女性が一人の自律した人間として生き抜いていくことを、大学一丸となって真摯に応援する大学」を目指している。
秋元典子学長は「本学では特に、生き抜く力を持った自律した女性の育成にこだわっています。生き抜く力のことを『未来への実践力』と称しています。具体的には、判断に必要な知識を学び、その知識を使える力、他者との関係を築く力、責任ある発言や適切な行動を導き出すための思考力、の3つを磨くことを意味しています」と話す。
未来への実践力は、各学科のディプロマ・ポリシーの上位に位置づく全学ディプロマ・ポリシーと位置づけ、全学生が卒業時点で身につけていることを目指している。そうした未来への実践力を獲得していくなかで、現在、特に力を入れている全学的な独自の取り組みが2つあるという。一つは「女性教育」、もう一つは「リーダーシップ教育」だ。
全学で取り組む、幅広い多様な女性教育
生活環境学科 教授
学長補佐
女性教育担当 中野 加都子
同大学の女性教育の特徴は、幅広く多様な女性の生き方全般を対象としている点にある。
学長補佐 女性教育担当の中野加都子教授はその趣旨について、「時代が大きく変化している中、女性の社会での活躍がより強く求められています。一方で、女性をめぐる労働、社会環境には今もなお多くの課題があります。甲南女子大学は、女子大学としての社会的使命を果たし、女性がより豊かな人生設計を構築できるようにすることを目的に、『女性を応援する学び』=『女性教育カリキュラム』を提供しています」と話す。
幅広く多様な女性の生き方全般を対象とした女性教育ができるのは、国際・人文系の学部学科から、看護師や理学療法士、管理栄養士を育成する医療系の学部学科まで、5学部11学科を擁する甲南女子大学ならではである。
全学共通科目:総合科目群の「女性とジェンダー科目」の設置に加えて、2022年度からの新たな取り組みとして、全学部全学科の専任教員が各担当科目において、意識的に女性という視点を取り入れた内容を最低1回は取り入れることにした。また、学生がキーワードを入力し簡単に探せるよう、シラバスのシステムを改善した。これにより、学生は女性教育関連科目など各自が探求したい内容をより能動的に選択できるようになった。
「このカリキュラムによって、女性が社会で直面する諸課題を学生に伝え、女性が自信をもって、自由に、健康的に生きられるようにすることを目指します。本学での学びに根ざした自信を育み、卒業後は自律して社会で活躍し、より多様性と寛容性に富んだ社会の創造に貢献できる女性になることを、私たちが本気で応援します」と中野教授はほほえむ。
正課科目として全国の女子大初となる
「全員発揮型リーダーシップ・プログラム」
文化社会学科 教授
教務部長 佐伯 勇
一方、リーダーシップ教育は2017年度に、自分らしくチームに貢献する方法を身につけるため、西日本の大学、全国の女子大学で初めて正課科目に取り入れた。2022年度には、社会人のリーダーシップ開発を支援できるレベルを目指す、3段階積み上げ型のプログラムに発展している。
教務部長の佐伯勇教授は「リーダーシップというと集団の先頭に立ってぐいぐい引っ張るといったイメージが強いですが、それだけに頼っていては、組織として変化に素早く対応することが困難になっています。いま求められているのは全員発揮型のリーダーシップです」と話す。
全員発揮型とは何か。「細かくメモを取って議論を整理したり、話しやすい雰囲気を作って意見を引き出したり、目的を再確認して到達目標を共有したりすることなど、『チームの目標達成のために他のメンバーに与える影響力』はすべてリーダーシップであるという考え方が広がりつつあります。メンバーが協力して成果をあげる力こそが求められています」(佐伯教授)
この全員発揮型リーダーシップ・プログラムは、自己のリーダーシップを開発する「基礎」、他者のリーダーシップを開発する「応用」(基礎と応用は正課授業として単位を認定)、身につけた力を学外で実践する「発展」の3段階を、1年次から複数年にわたって積み上げていく。
「『発展』では、学生が企業研修や高校の正課授業に派遣されるなど、実践の場は年々広がっています。こうした能力を持った学生は採用選考でも『あなたがいるチームはいつもうまく回る』と高い評価を得ています。チーム全員の多様な持ち味を活かし『輝かせる』ことで、結果として自分が『輝ける』、そうした卒業生を多く輩出することをめざしています」(同)
秋元学長は「本学の女性教育やリーダーシップ教育をしっかりと受けた学生は、たとえめまぐるしく変化する時代であっても、自律的に判断し、責任ある発言と行動をする力を身につけて巣立ってくれるはず」と期待を込める。
次の100年に向けた歩みを始めたいま、「建学の精神に沿い、品格と国際性を備え、社会に貢献する高い志を持った人材を輩出していけるよう、教職員一丸となって真摯に応援してまいります」と秋元学長は話した。
TOPICS
「本気で女性を応援する
女子大学の探求」を出版
甲南女子大学の教職員有志22名が「女性教育」について論考したオムニバス書籍「本気で女性を応援する女子大学の探求―甲南女子大学の女性教育―」(明石書店)が昨年10月に出版され、教育関係者や学生の間で話題になっている。
本書は同大学の女性教育のこれまでと今を考察しつつ、5学部11学科の教職員が、それぞれの専門領域と女性教育との関わりについて探求。「本気で女性を応援する『女性のための女子大学』」をめざす同大学が、いまの時代に求められる女性教育とは何かを“本気で”考えた、読み応えのある内容となっている。
編著を担当した同大学の野崎志帆教授・ウォント盛香織教授・米田明美教授は、「『女性という記号』を持つ高校生や学生のみなさんにとって、この本が自らの人生を主体的に選びとり、自分らしく豊かな人生を生きるための羅針盤になれば」と期待を込める。
ジェンダーをめぐる議論が世界的に高まるなか、女子大学の存在意義や今後の女性教育の在り方を考える上で示唆に富む一冊だ。
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学生ALコーチ資格を
取得しチームの力を
引き出す人材に
左述の「リーダーシップ・プログラム」には①基礎②応用③発展の3段階があるが、 ②の応用レベルでは、日本アクションラーニング(AL)協会と連携しており、協会認定の学生ALコーチ資格を取得できる。
ALコーチは、チームで問題の本質を深掘りし、実効性のある行動計画を立てるために、心理的安全性を担保した対話の場づくりとチームとしての経験学習を促進する役割を担う。
同資格を取得した学生は、 ③の発展レベルで、企業研修など人材育成の現場に参加することが可能だ。2021年度は大学コンソーシアムひょうご神戸が主催する産学連携による「全員発揮型リーダーシップ」研修のコーチを担当。学生が社会人のリーダーシップ開発を支援する取り組みを行っており、こうした人材は企業からの評価も高い。