厚切りロースとんかつはなんと厚さ約20ミリ! 店内でじっくり揚げているため、外はサクサク、中は軟らかくジューシーなのが魅力。
午前9時、オフィス街にあるローソンの一角で、白衣と衛生用の帽子・手袋を装着し、てきぱきと動く従業員の姿があった。ガラスに仕切られたそのスペースは店内キッチン「まちかど厨房」。ランチタイムに向け、サンドイッチやお弁当を次々と調理し、店頭に並べていたのだ。
「店内で揚げている『三元豚の厚切りロースカツサンド』は、軟らかく食べやすいと老若男女を問わず人気が高いですね。また、ボリュームのある肉系の丼は男性に喜ばれていますし、親子丼など卵を使ったメニューは女性ファンが多いようです」
そう語るのは、ローソンの商品本部で「まちかど厨房」を担当するチーフマーチャンダイザー、坂下直人さんだ。東北エリアのスーパーバイザーなどを経て現在の職に就いた坂下さんには、「まちかど厨房」の忘れがたい思い出がある。それは2011年、東日本大震災の際のことだ。
「当時私は仙台支社の営業部にいたのですが、想像もしない大災害でローソンの店頭にも食品がなくなりました。けれど『まちかど厨房』には米も水もあったので、ご飯を炊いておにぎりをお客さまに提供することができたんです。それを見て、店内調理はとても大切な業務だと確信しました」
その後、本社の商品本部で「まちかど厨房」の担当となった坂下さんは、有事のみならず、日常的にお客さまにお使いいただけることを目指し、拡大に取り組む。だが、当初は思うように設置店舗を増やせなかった。
ごはんは毎日店内キッチンで炊飯。「とんかつはもちろん、店内で揚げた天ぷらや、かき揚げもひと味違いますよ」と坂下さん。
「店内調理と聞くだけで、オーナーさんが尻込みされるんです。大きなハードルは二つ。一つは、店内の限られたスペースにキッチンをどう設置するかというハード面での難しさ。もう一つは、高校生からシニアまで幅広い層の従業員さんの誰もが調理できるのかという、ソフト面での難しさでした」
そこで坂下さんたちは、キッチンの設備を限定し、「炊く」「揚げる」「温める」「盛り付ける」というシンプルな調理手順のメニューを用意。また、実際にお店で調理デモンストレーションを行い、誰にでも簡単に調理でき、しかもお客さまに喜んでいただける味わいであることを、オーナーや店舗スタッフに理解してもらった。
ローソン商品本部 デイリー部
チーフマーチャンダイザー 坂下 直人さん
「そのかいあって、現在では全ローソンの半分近く、約6300店に『まちかど厨房』が設置されています。これは厨房がある小売店としては国内屈指の規模です。ここまで伸びた一番の要因は、やはりお客さまが店内調理だからこそのおいしさを喜んでくださっていること。『ちょっと遠いけど、これを買うためにここのローソンまで来たんだよ』と笑顔で言ってくださるお客さまもいらっしゃいます。それを聞くと、店舗スタッフも我々も『もっとおいしいものを作ろう!』と力が湧いてきます」
添加物を極力使わず、塩分も1食3グラム以下に抑えるなど、おいしさだけではなく健康維持にも配慮しているという「まちかど厨房」。新型コロナウイルス感染症の影響で人々のライフスタイルが変わる中、その存在価値はますます高まっている。
「私の夢はすべてのローソンに『まちかど厨房』を拡大すること。店内でごはんを炊き、ひと手間かけて調理したメニューを、より多くの方に味わっていただきたいですね」