※イラストはイメージです
※イラストはイメージです

 在宅療養に移行すると、受けられる医療が限られるのではと心配かもしれない。だが症状によっては在宅医療でも病院と同レベルのケアを受けられる。具体的にどんなケアが受けられるのか、病院と何が違うのか。医師らの声をもとにひもとく。

【在宅療養を支える主な職種と役割はこちら】

*  *  *

「自宅では、病院のような治療を受けることは難しいと思っていました」

 3年前、80歳の父を自宅で看取ったAさん。大腸がんの末期と診断され、余命宣告を受けたAさんの父は、病院から勧められた緩和ケア病棟への入院を拒否し、自宅で過ごすことを選んだ。「最期は家がいい」という父自身の選択だった。

 病院で緩和ケアに強い在宅医を紹介してもらい、在宅療養がスタート。生真面目な性格の父は、「やり残したことを片付けておきたい」と、退院後は自室で財産や持ち物などの整理に取りかかった。家族が「もう整理はいいからゆっくりしたら」と勧めても、「これだけは自分でやっておきたいから」と“最後のひと仕事”に取り組んだ。

 退院からしばらくは食欲もあり、体調の良い日は散歩に出かけたり、お気に入りの喫茶店に行ったりするなど穏やかな日々を過ごせていたが、徐々にがん終末期に押し寄せる苦しい痛みが始まった。この痛みのコントロールが、在宅でどこまで可能なのか、退院時からAさんは強い不安を感じていたという。

「痛みがあると、心置きなく過ごすために帰ってきたかいがない。痛みはきちんと取りましょう」

 在宅医もこう言って、さまざまな種類の薬を用いてケアに努めた。「痛む部位はどこか」「どのような痛みなのか」「どんなときに痛むか」「どのくらい生活に支障があるか」「痛み以外につらいことはあるか」と父に問いかけながら痛みを見極め、症状に合わせて薬を用いる。病院と同じように、痛み止めに使用する医療用麻薬や抗炎症作用の強い注射を用い、自宅での緩和ケアが行われた。訪問看護師も、少しでも気がまぎれるようにマッサージを繰り返した。

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら
次のページ