小学校選びは親が10割
家庭と小学校の価値観が合っていれば、必然的にわが子は前向きに未来に向かっていきます。
わが子がいきいきと成長できる私立小学校を選ぶ際のポイントを、
教育コンサルタントの森上展安さんに聞きました。
- 森上教育研究所 教育コンサルタント森上 展安
- もりがみ・のぶやす/1953年生まれ。
早稲田大学法学部卒業。東京第一法律事務所勤務を経て都内で学習塾「ぶQ」を経営後、88年に(株)森上教育研究所を設立。教育分野の調査・コンサルティング、講演、執筆等を行う。
「わが子がどう育ってほしいか」を明確に
小学校選びは親が10割——そんなふうに言い切ったら驚く方もいるかもしれません。しかし実際は、そのとおりと言っても過言ではありません。
とは言ってもそこには子どもがよくみえていて初めて言いうる事ですから、日頃からどんなことに興味を示すか様々な場面の中で愛情をもって観察し、伸ばしたい個性特長が伸長する環境を選びたいものです。
その一環として学校選びは長時間過ごす場所としてとても重要です。私立小学校を受験するか、そしてどの小学校を選ぶか親が決めることですが、知人から聞いたイギリスのある幼稚園が掲げていたという「楽観的であれ、忍耐強くあれ」という標語は、とても印象に残っていて、やはりこうした学校が大事にしている理念に共鳴できるかどうかがまず大切です。
小学校を見極める視点はいくつもあります。たとえば「英語に強くなる小学校選び」と一言で言っても、そこには複数の選択肢があります。近年の大学入試や大学教育では求める英語力が二極化し始めています。英語の読解力を特に重視する大学もあれば、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能を大切にする大学もあります。英語教育を一つとっても、各小学校の取り組みは特色がありますから、ただの一教科だと軽視することはできません。小学校選びではディテールに目を配る必要があります。
すでに述べたとおり、小学校選びは約15年後の学び、ひいてはその後の人生にも大きく関わってきます。情報整理の視座としては「共学+無宗教」「共学+宗教」「別学+無宗教」「別学+宗教」といった分類に加え、「伝統校か新しい教育を積極採用している学校か」「小中高などの一貫校かどうか」「中学受験に力を入れているかいないか」などさまざまな観点があります。どの要素を重視するのは、それぞれのご家庭の教育方針や子育てのゴール設定によります。つまり、小学校選びに関しては、それに先んじて「わが子がどう育ってほしいか」を明確にしておく必要があります。
「人間力」をいかに伸ばしてくれるのか
文部科学省は2020年度に導入した新しい学習指導要領で「生きる力」の育成に力点を置いています。「個別の知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を3本柱に据えており、それらを伸ばしてくれる小学校を見つけるのも一つの考え方でしょう。AI(人工知能)を含む最新技術が発達し続ける時代においては知識や計算は機械が行っていくはずで、だからこそ文科省は意欲、協調性、粘り強さ、自制心、創造性、コミュニケーション能力、計画性といった数値化できない「非認知能力」の育成も重視しています。単に学力だけでなく、いわば「人間力」をいかに伸ばしてくれるのかも、小学校選びにおいては非常に重要な視点と言えるはずです。
それぞれの小学校の教育方針や特色、校風などを知るには、ホームページや知人からの情報収集はもちろん、実際に学校にふれてみることがとても大切です。学校説明会で校長に直接質問をぶつけてみたり、授業見学などの公開行事に足を運んで実際に児童たちの表情を見てみたりして、その学校の空気感を肌で感じるようにしましょう。特に私立小学校は校長の意向が強く反映されているところが多いですから、校長に話を聞くか、少なくとも校長のすぐそばにいる副校長や教頭と言葉を交わすことがとても大切です。また、授業体験を行っている私立小学校も少なくありませんので、実際に参加してみて、わが子が楽しめたのかどうかという反応を見るのも一つの方法だと言えます。
小学校選びではほかにも注意する点がいくつかあります。たとえば通学距離が挙げられます。実際、自宅から小学校まで電車も使って片道で約1時間半、往復で約3時間という移動の毎日に疲れ、途中から自宅近くの公立小学校に転校した例もあります。また、私立小学校では概して近所に友人ができにくくなるという側面がある点も認識しておくべきでしょう。家の近くに遊び友だちがいない、または少ない環境が気になるかどうかは、それぞれの家庭の教育方針に左右されるかもしれません。それから、中学受験に力を入れている小学校だと、塾の勉強と両立できるかどうかは大切なポイントですから確認が必要です。
“親の目利き力”が非常に重要
そもそも、受験対策のため、幼児教室などに通わせることもあるでしょう。その際にも親の向き合い方としては注意が必要です。周りの子たちと比較して、わが子を減点法で評価するのは絶対に厳禁です。親が決めた志望校に合格させようと熱を入れるあまり、「それじゃダメだよ」「なんでできないの?」「あの子みたいにできるでしょ?」と叱りつけるばかりだと、子どもは徐々に自信を失ってしまいます。最初に自己肯定感が持てないようであれば、子育ての出だしは成功とは言えません。
小学校選びは親が10割——最初に私はそう言いました。それから、義務教育の最初の学びの場を定める決断は、わが子の将来に少なくない影響を与えることになります、とも述べました。何を軸にするかはそれぞれの家庭によるところも大きいと思いますが、親の子育て方針と小学校の教育理念がぴったり重なるのに越したことはないでしょう。つまり、家庭と小学校の価値観が合っていれば、必然的にわが子は前向きに未来に向かっていきます。
子どもがいきいきとした6年間を過ごせるだけでなく、その先も充実した学びができる道をしっかりと見極めてあげること。人生の土台づくりにもなる小学校選びは、〝親の目利き力〞が非常に重要と言えます。