後悔しない小学校選び
小学校は6年間を過ごす場所。 志望校を選ぶ際には、自分の目や耳で 相性が良いかを見定めることが大切
わが子が輝ける私立小学校はどのように選べば良いのでしょうか。
教育コンサルタントの森上展安さんがポイントを教えてくれました。
Photo by Kuniko Hirano
- 森上教育研究所 教育コンサルタント 森上 展安
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もりがみ・のぶやす/1953年生まれ。
早稲田大学法学部卒業。東京第一法律事務所勤務を経て都内で学習塾「ぶQ」を経営後、88年に(株)森上教育研究所を設立。教育分野の調査・コンサルティング、講演、執筆等を行う。
小学校受験が増えているのはなぜ?
小学校は6年間を過ごす場所です。
6歳から12歳までの、いわゆる「学童期」と呼ばれる期間であり、単に学力や知識を身につけるだけにとどまらず、善悪に関する理解と判断ができるようになったり、集団活動を通して社会性を養ったりと、人間としての土台が築かれる時期でもあります。
その6年間をどこで過ごすのか、あらためて小学校受験に対する保護者の関心が高まっています。2022年6月の『朝日新聞』の報道によれば、「首都圏(1都3県)の私立小63校への調査では、2022年度入試の合計志願者数は前年度より6%増え、のべ2万4287人。18年度(のべ1万8965人)から3割近く増えた」と言います。
要因はいくつか考えられます。コロナ禍で私立小学校のほうが公立小学校よりICT(情報通信技術)の導入が早かったこと、コロナ禍で在宅勤務が増えた保護者が私立小学校の受験を視野に入れるようになったこと、年々増加する中学受験者が示す熾烈な中学入試を避けるべく受験を前倒ししたくなった家庭が増えたことなどが挙げられるでしょう。
実際、中学受験は量も時間もハードです。小学4年生から準備を始めるのが一般的とされており、小学校生活の後半の3年間を受験勉強に費やさなければなりません。サポートする親の負担が決して軽くない点も無視できないでしょう。それと比べると、小学校受験の準備期間は短く、負担も重くなく、小学校受験を選択するご家庭が増えてきたのは一理あると言えます。小中高一貫校であれば、次の受験は大学入試まで待てばいいわけですから、早めの受験のメリットは小さくありません。大学入試まで、たとえば興味のある勉強に打ち込んだり、好きなスポーツや趣味に情熱を傾けることができます。
学校選びの際には相性を重視すべき
繰り返しになりますが、小学校は6年間を過ごす場所です。72カ月間、2190日間という期間は決して短くありません。大人でもそうですが、違和感のある時間を耐えるより、居心地の良い時間を過ごすほうが健全であることは言うまでもありません。わが子に合った小学校選びは親の最大の務めと言えます。
結局のところ、学校選びの際に重視してほしいのは偏差値以上に、相性になります。学校の教育理念と家庭の教育方針が合うのかどうか、あるいは学校の教育内容や雰囲気とわが子の性格が合うかどうかを事前にしっかりと見定めなければなりません。もしここで食い違いが起こってしまうと、6年間が充足した時間になるとは言い切れません。たとえば頑張るのが好きな子に向いている小学校に、のびのびとやるほうが好きな子が入ると、「学童期」の充実度は下がってしまいます。
入学を検討する学校の教育理念や教育内容、さらには雰囲気を知るには、各校のホームページや学校案内を見るだけでは物足りないと言えます。「百聞は一見にしかず」ということわざがあるとおり、できるだけ多く学校説明会や個別での学校見学に参加し、自分の目や耳で確かめることが大切です。
まず一つ注目してほしいのは、校長先生の存在です。その学校に伝統としてある校訓や教育理念をさらに向上させ、充実させているかどうかは校長先生の教育哲学によるところが大きいからです。教育の方向性を決めているのは校長先生にほかならず、直接話せる機会があればいろいろと聞いてみることをお勧めします。会話でこそわかる校長先生の人となりは、多かれ少なかれ学校全体の雰囲気にも反映されています。
次に、学校説明会や個別での学校見学では、先生同士、あるいは先生と児童のやりとりに注目しましょう。授業を見学できる小学校も少なくありませんが、その際もそれぞれの表情をよく見てみることが重要です。「学び」の原動力は「楽しさ」であり、和やかな笑顔の多さこそが教育理念や教育内容、さらには雰囲気の充実ぶりを物語ってくれます。
学校選びに関しては「共学+無宗教」「共学+宗教」「別学+無宗教」「別学+宗教」という情報整理で、家庭の教育方針やわが子の性格と合うのかどうかを確認する方法もあります。たとえば宗教系の学校は人間教育にも力を入れており、「学童期」の人格形成を重視する過程には向いていると言えます。また、通学時間も無視できません。まだ小さい子どもにとっては、電車で片道1時間ほどが限度でしょう。親の第一志望の私立小学校に合格したのはいいものの、往復で3時間以上かかる毎日に疲れ、結局、家の近所の公立小学校に転校したケースもあります。
過度な期待をして無理をさせないこと
小学校受験に関して幼児教室などに通わせる家庭は少なくありません。その際に、保護者に注意してほしいのは、過度な期待をしてわが子に無理をさせないことです。子どもは親の思いに応えようと一生懸命に頑張りますが、同時に疲れてもしまいます。過度な期待は重圧でもあり、たとえ志望校に合格しても親の厳しさがトラウマとなって残る例もあるようです。
生まれてまだ数年の子どもたちが自ら受験を希望したり、志望校を決めたりすることはまずありません。小学校受験は親が主導するものであり、だからこそ親の冷静な判断と幅広い視野が必要不可欠と言えます。今回の「注目の小学校」という特集で紹介するように、特色ある教育を展開している小学校は少なくありません。学校の教育理念と家庭の教育方針が合っているのか、あるいは学校の教育内容や雰囲気とわが子の性格が合っているのかを吟味し、子どもが輝ける未来を選択してあげることが親の大きな役割と言えます。