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鼎談:出口治明学長×李燕副学長×石坂典子・石坂産業株式会社代表取締役

2023年4月、「サステイナビリティ観光学部」開設
グローバルな視点で、ローカルな課題を解決することが必要です。
新学部「サステイナビリティ観光学部」の開設を4月に控えた立命館アジア太平洋大学(略称APU/大分県別府市)。連載企画第5回のゲストは、石坂産業株式会社(埼玉県三芳町)代表取締役の石坂典子さんです。産業廃棄物処理の常識を覆し、ゴミをゴミにしないエコシステムの構築を目指す石坂さん、出口治明学長、李燕副学長の3人が、持続可能な社会とそれを担う若い人材のあり方について語り合いました。

取材・文/中村正史 撮影/山本薫 デザイン/洞口誠(ドットワークス)、大内和樹 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画/AERA dot. ADセクション

働いている人が社会に貢献している仕事だと思えるようにしたい

石坂典子・石坂産業代表取締役(以下、石坂) 私は3人きょうだいの長女で、高校卒業後にアメリカの大学に留学しましたが、2カ月でやめて、1年間転々としているときにネイルデザインに出合いました。日本でネイルサロンを開こうと思いましたが、お金がなく、産業廃棄物の中間処理をする会社を経営していた父から、仕事を手伝うように言われました。20歳を過ぎたころです。
 最初は会社の事務をしていましたが、外からかかってくる電話は、どれだけ安くできるかという内容ばかり。不要なものにコストをかけたくないのです。
 転機になったのは、1999年に民放の報道番組で「所沢市の農作物がダイオキシンに汚染されている」と報道されたことです。結局は誤報だったのですが、父の会社はこの報道に巻き込まれ、地域の人が連日、工場の前へ反対運動に押し寄せました。

石坂 典子 いしざか・のりこ
石坂産業株式会社代表取締役。高校卒業後、デザイナーを目指し米国の大学へ留学。1992年、父親が創業した石坂産業に入社。「廃棄物ゼロの社会をつくりたい」という強い思いと、マスコミの誤った報道による風評被害で危機に瀕した会社を守りたいとの思いから、2002年に社長に就任。地域に愛される企業となるため、プラントの全天候型化、ISO7種統合マネジメントシステムの導入、国内はもとより海外40カ国以上からの視察を受け入れるなど、数々の改革を断行。会社周辺の東京ドーム4個分以上の里山を再生した環境教育の場「三富今昔村」には年間6万人が訪れる。2020年に新たなビジョン「Zero Waste Design」を掲げ、ゴミをゴミにしない社会の実現を目指す。「KAIKA Awards 2019」「2020年 日本経営品質賞」「2021年 企業広報経営者賞」「2022年 ニッポン新事業創出大賞 グローバル部門最優秀賞(経済産業大臣賞)」受賞。

 そのとき父に、この仕事をなぜ始めたのかを聞きました。父は、さまざまな仕事を経験した後で、木造解体で出る廃棄物の処理を手伝っていたときに、大量のダンプカーで夢の島に次々と海洋投棄される現場を見て、これからは廃棄物をリサイクルする時代が来なければいけないと思ったそうです。
 私は幼いころから職人にかわいがってもらって育ちました。その会社が地域の人から「なくなってしまえばいい」と思われているのを目の当たりにして、大量生産・大量消費の社会では大量の廃棄物が出るのに、その処理の必要性をなぜ理解してもらえないのかと思いました。そして、この業界に光が当たるようにしたい、働いている人が社会に貢献している仕事だと思えるようにしたいと考え、社長になることを志願しました。
李燕副学長(以下、) すばらしいです。どういう教育を受けて、こんなに大胆に行動できる人が育ったのでしょうか。
石坂 父は必ず私を現場に連れて行きました。小さいときからトラックに乗って現場に行き、現場の人と関わっていました。長女の気質と、父譲りのせっかちなところがあるせいか、高校時代は応援団長やクラス委員を務め、みんなを引っ張っていったり、自分で率先して何かをつくり出したりするのが好きでした。
 現場の重要性は共感します。4月にできるサステイナビリティ観光学部の特徴の一つは、学生を現場に連れて行くことです。オフキャンパス(キャンパスを出て学ぶ科目)で単位を取得しないと卒業できないカリキュラムになっています。石坂さんのような人をたくさん育てられるといいです。

李 燕 り・えん
中国出身、59歳。日本国内で博士号(工学)を取得後、立命館大学助手やコンサルタント会社研究員を経て、2000年の開学時より立命館アジア太平洋大学にて勤務。アジア太平洋学部長及びアジア太平洋研究科長を務めた後、現在は副学長として2023年設置予定のサステイナビリティ観光学部の設置委員会委員長を担当。近年の主な研究実績には、東京大都市圏の空間構造の分析や都市の温室効果ガスインベントリー等があり、主要国際学術誌への論文掲載も多数。また、地元大分県や別府市の環境・都市計画・観光に関する専門委員も務める。

地域に愛される会社でなければ生き残れない

出口治明学長(以下、出口) 先日、僕の友人のお嬢さんが新学部を受験して合格したと連絡してきました。とてもうれしいことです。APUの国内学生の3割は首都圏出身者ですが、この人も東京からやって来ます。
 入試で面接を担当する教職員によると、サステイナビリティ観光学部に入りたい高校生の社会課題を解決したいというモチベーションは高いと聞いています。自ら行動して解決したい、そのために学びたいと思っているようです。
石坂 私は地域に愛される会社でなければ生き残れないと思い、社内から改革しようとしました。私が入社したころは、社員約60人で平均年齢は55歳、男性ばかりでした。私は技術者でもなく、何も知らないお嬢さんが2代目社長になっただけと見られていたので、改革の旗を振ってもなかなか共感してもらえませんでした。
 それで私は若い社員を入れて、会社の存在価値や社会的使命を一生懸命に説明しました。すると、次第に社内の様子が変わっていきました。それまでは社員にとって、家の近くにあって給料をもらえればいいというだけの存在だった会社が、地域に愛される存在に変わっていったのです。そうなるまでには10年近くかかりました。現在では、女性社員が3割(間接部門では5割)に増え、外国人や65歳以上の高齢者、障害者なども働いています。
 このプロセスを通じて学んだのは、反対する人は会社の経営課題を知らないということです。社員は感覚で動くことが多く、数値がわかっていなかったので、例えば重機のトラブルがあれば、解決するのに何分かかったかなど、数値を使って可視化しました。
出口 数字、ファクト、ロジックが大事ですね。

出口 治明 でぐち・はるあき
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒。日本生命保険相互会社に入社し、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任後、2008年にライフネット生命保険を創業。2018年、国際公募制で推挙され立命館アジア太平洋大学学長に就任。2021年に再任され、現在に至る。主な著書に『生命保険入門(新版)』(岩波書店)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『全世界史(上・下)』(新潮文庫)、『人類5000年史(I ~Ⅳ)』(ちくま新書)、『戦争と外交の世界史』(日経ビジネス人文庫)、『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』(講談社現代新書)など多数

大学教育にお願いしたいのは、答えを一つに求めないこと

石坂 数値化してから急速に社員の意識が変わり始めました。機械が3日も4日もトラブっていると、「解決するのは自分たちの仕事」「これは社長の仕事ではない」と言うようになりました。
 自分たちが目指すものを見いださせるのが、教育や会社の使命ではないでしょうか。
出口 数字をきちんと示していかなければいけません。PDCAとよく言われますが、一番大事なのはP(プラン)で、ここでいい加減な数字を入れると、PDCAになりません。最初にしっかりと数字で可視化し、問題はPにあることを皆で認識しなければなりません。
 大学として学生に身につけてほしいことがあります。何かを主張するには、その理由を伝えなければなりません。ただ、論文指導をすると、結論しか言わずに、「なぜか」を学生から聞かないことがよくあります。
出口 「なぜか」「なぜか」と問うことが大切だと、僕たちは学生に教えないといけません。
 大学は知識だけを教えるところではありません。なぜそうなったのか、考える習慣をつけるところだと思っています。
石坂 思考破壊が大事です。過去の成功を正解と思うことが問題で、会社も過去の経験値で考えると新しいことができません。私は自ら現場に行って、現場で感じた課題を解決することに魅力を感じます。
 大学教育にお願いしたいのは、答えを一つに求めないことです。答えから導こうとすると、周りの人がついてきません。周りを説得して巻き込む力が弱いです。
 そういう力を身につけるには、何が必要ですか。
石坂 学生は社会課題を解決しようという意識が高いので、まずは現場を見に行き、そこで心の琴線に触れたことを大事にしてほしいです。そうすると、自分自身に熱量が入ります。就活で会社を選ぶときは、自分の経験を通じて琴線に触れたことに挑戦していくことです。
 私たちの石坂産業という会社は、学生には知られていませんが、「環境」というキーワードで検索して会社のことを知った学生が、私の講演を聞くなどして興味を持ち、受けに来ます。環境に関わる仕事は、建築とか建設とかではなく、産廃処理というあまり目にすることがないところでもできるというところに興味を持つようです。

「現場を知ることが大事」と口をそろえる石坂さん(左)、出口学長(中)、李副学長(右)

地域のコンテンツを輝かせて、世界に発信する学生を育てたい

 新学部では、現場を知るために3種類のオフキャンパスのプログラムを用意しています。一つはフィールドスタディで、教員が学生をさまざまな現場に連れて行きます。二つ目は、半分が座学、半分がフィールドスタディの専門実習。三つ目が専門インターンシップです。
 高校生の環境問題への意識は高いです。私は昨年、全国の高校生を対象に、気候変動やエコシステムなどを学ぶ全5回のプログラムでコーディネーターを務めましたが、高校生たちは気候変動やエネルギー問題に興味を持っていました。ただ、現場でどういうことをしているかを知りません。
出口 現場を見ることが、一番大事です。まず石坂さんに学生たちの前で講演していただいて、学生たちを石坂さんの会社に連れて行きましょう。
石坂 私たちの会社には昨年、約6万人が見学に来ました。地元の学生も約5000人が来ています。見てもらうことが大事で、見学者だけでなく、社員のモチベーションも上がります。
出口 学生が最低1カ月間、働いてみるのがいいかもしれません。
石坂 産廃施設に反対している人も、たくさんゴミを出しています。家を建てる素材は、昔の自然材と違って複合的な素材になりました。再利用しなければ必ずゴミになるのに、そのリサイクルは私たちに任せています。メーカーは売れる商品をつくるので、循環社会のエコシステムは存在しません。生産と廃棄は表裏一体なのに、多くの人はその現実を見ようとはしません。
 私たちの会社は3年前に、「Zero Waste Design」というビジョンを掲げました。最初からゴミにならない設計にしよう、再生して循環する仕組みをつくり出そうということです。本質的な資源循環の社会とは何かを考えてもらわなければいけません。
 自然由来のものを分離・分解しやすい形で商品化する、人と資源が共存できる社会システムをつくるのが、若い人の未来につながります。
出口 製造業のあり方を元に戻さなければいけません。売るだけではなく、もう一度、ものづくりのスタート地点に戻り、私たちの未来に向かわせることが必要です。
石坂 私は世界各国の同業者の様子を見に行きます。デンマークでは、廃棄物を街の中心部で熱転換し、インフラに活用しています。廃棄物というネガティブなものをポジティブに変えられるのが、テクノロジーです。
 この業界にもっと目が向けられ、大きな技術的革新ができることを楽しいと思える学生がたくさん出てくると、社会は変わっていくと思います。世界の廃棄のプロセスの中で、製造の原点を考える動きが加速化するといいです。
 グローバルな視点で、ローカルな課題を解決することが必要です。別府はレトロな街並みが魅力です。ローカルな付加価値をどう付けるかを考えながら、観光をやっていけば、行きたいと思わせる唯一無二のものになると思います。
 それがまさに新学部のコンセプトです。現在のグローバリゼーションが進んでいくと、世界は同じになってしまいます。サステナビリティの一つである文化の持続可能性を維持するには、地域の個性を見つけて保護することが必要です。地域のコンテンツを輝かせて、世界に発信する学生を育てたいです。
出口 新学部は、どこにもないものをつくろうとしています。もうすぐスタートしますが、どんな学生が来るのか楽しみです。

石坂さんの話に感銘を受けた出口学長は、「今度、学生たちを石坂さんの会社に連れて行きましょう」と提案

丘の上のキャンパスからは別府湾、別府市街を見渡せる

地元から愛される大学
日本最大の温泉湧出量を誇る全国屈指の温泉観光都市・別府市。その要衝であるJR別府駅からバスで約35分、標高300メートルの丘の上にAPUのキャンパスはある。大学構内から見下ろす別府湾、別府市街の眺望(在学生は「下界」と呼ぶ)は、近くの十文字原展望台や、別府湾サービスエリア展望台にも引けをとらない素晴らしさだ。キャンパスは一般に開放されている。APUは大分県下の全市町村と協力協定を結んでいることから、学生と地域の小中学生との交流も盛んに行われており、また憩いの場として利用する地域住民や外部からの見学客も多く、新型コロナウイルス感染症の流行前は年間2万人が訪れていた(新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に構内への立ち入りは禁止されていたが、現在は誰でも自由に入れるようになっている)。約100カ国・地域から学生が集まる“丘の上のグローバル大学”は、地域に開かれた大学でもある。
from APU

提供:立命館アジア太平洋大学