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李燕 副学長インタビュー

2023年4月、「サステイナビリティ観光学部」開設
環境、経済、文化、社会。サステナビリティを実現するための四つの柱を、「開発」と「観光」からアプローチします。
新学部「サステイナビリティ観光学部」の開設を4月に控えた立命館アジア太平洋大学(略称APU/大分県別府市)。連載企画第4回は、新学部長に就任予定の李燕(り・えん)副学長のインタビューです。観光を切り口にサステナブルな社会の実現を目指す新学部で、学生は何を学び、どんな力を身につけることができるのか。その構想と展望について話を聞きました。
(聞き手・中村正史)

取材・文/中村正史 撮影/山本薫 デザイン/洞口誠(ドットワークス)、大内和樹 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画/AERA dot. ADセクション

持続可能な社会をつくるためのツールとして、観光に注目

――新学部はサステイナビリティという名を冠した日本で初めての学部です。サステナビリティと観光はどう結びつくのですか。

李燕副学長(以下、) サステイナビリティ・サイエンスは学問として確立されつつあり、持続可能な社会をどうつくるかが基本テーマです。世界のトップ校では、サステイナビリティが入っている学位が大学院の博士課程まであります※1。ただ、学部教育では少ないです。持続可能な社会は研究の対象にするだけではなく、これからは全員がそのマインドを持たなければなりません。ですから学部教育が重要になります。
 持続可能な社会をつくるには、それぞれの国、地域、コミュニティーが持続可能でなければなりません。そのためには、環境、経済、文化、社会の四つの要素が必要です。環境を守り、経済を発展させ、地域文化を保護し、格差のない社会をつくることです。
 従来のサステイナビリティ学は、環境に注目し、地球温暖化を克服するにはどうするかなど、理学部や工学部のアプローチで研究することが中心でした。一方で、APUのサステイナビリティ学は文系アプローチで、「環境」と「開発」がキーワードです。四つの要素と密接な関係にある「観光」を切り口として共に学ぶことで、持続可能な社会の実現を目指しています。
 観光は一般的にイメージされるsightseeingだけではありません。もう少し意味が広いのがツーリズムです。人的な交流によって人と人との相互理解を深め、格差のない社会に寄与することができます。
 ツーリズム産業の定義には、ホテルやレストランなど直接的な観光サービスからサポートサービス、不動産などの観光開発組織を含む、としているものもあり、ツーリズム産業は世界の雇用の10%を占めています※2。つまり、10人に1人がツーリズム産業に従事していることになります。
APUの新学部の英語表記は、Sustainability and Tourismです。私たちは21世紀最大の課題である持続可能な社会をつくるためのツールとして、観光に注目しました。

※1:出典/Best College Reviews, 20 Best Master’s Degree in Sustainability
https://www.bestcollegereviews.org/top/masters-degrees-sustainability/

※2:出典/Global Economic Impact & Trends 2020(World Travel & Tourism Council)
https://wttc.org/Portals/0/Documents/Reports/2020/Global%20Economic%20Impact%20Trends%202020.pdf?ver=2021-02-25-183118-360

李 燕 り・えん
中国出身、59歳。日本国内で博士号(工学)を取得後、立命館大学助手やコンサルタント会社研究員を経て、2000年の開学時から立命館アジア太平洋大学で勤務。アジア太平洋学部長およびアジア太平洋研究科長を務めた後、現在は副学長として2023年設置予定のサステイナビリティ観光学部の設置委員会委員長を担当。近年の主な研究実績には、東京大都市圏の空間構造の分析や都市の温室効果ガスインベントリー等があり、主要国際学術誌への論文掲載も多数。また、地元大分県や別府市の環境・都市計画・観光に関する専門委員も務める。

社会のイノベーター、地域のプロデューサーになってほしい

――新学部の学びやカリキュラムの特徴を教えてください。

 理論と実践の両アプローチから主体的に学びます。理論は、九つの専門科目群で構成します。環境学、資源マネジメント、国際開発、地域づくり、社会起業、データサイエンスと情報システム、観光学、ホスピタリティ産業、観光産業です。学生が自分の関心に合わせてカスタマイズできます。九つの専門科目群の中から三つくらいを選んで、ゼミや卒論につなげていきます。
 実践は、APUのキャンパスを出て学ぶオフキャンパスのプログラムを重視します。オフキャンパス・プログラムは、フィールドスタディ、専門インターンシップ、専門実習の3種類があります。全員の参加を必須にし、卒業するためには必ず一つ以上のプログラムを取らなくてはなりません。
 フィールドスタディは、海外の農業遺産とされている地域や、長野県飯田市、北九州市などをはじめとした実践的な取り組みの事例がある場所へ教員が学生を連れて行き、現地で実習します。
 専門インターンシップは、現在開発中ですが、NGO、別府市や地域の外郭団体、関連企業などと連携します。学生は、地域や企業の現場に入り、働くことを通じて、持続可能な社会の実現に向けた実践力を養います。
 専門実習は、授業の半分が座学、半分がフィールドスタディです。金融機関と連携し、大分県の自然や文化などの魅力である「おおいた遺産」を観光資源として、持続可能な活用や、県外への発信を考えたり、電力会社と協働して、エネルギー問題や別府市の街づくりなどを調査・研究する実習です。

――どんな人材を育成したいですか。

 どんな地域に行っても、どんな企業に入ったとしても活躍できる教育をしていきます。幅広いキャリアが選択できるようにします。
 大学の役割は、専門を教えることにとどまりません。どんな専門分野や企業に進んでも、そこで使えるスキルを養ってもらうのが新学部の目的です。自らイノベーティブなアイデアを考え出して行動できる人、社会のイノベーター、地域のプロデューサーになっていける人を育てます。
 社会課題を解決するために起業するという選択肢もあります。現在の社会の仕組みに課題があるのなら、その仕組みを変えていくことが必要で、そのように考える人は起業を選ぶことが多いでしょう。

李副学長はサステイナビリティ学と観光学を多角的に追究してきた

枠を超えた文理融合の教育が求められている

――データサイエンスや情報システムの教育にも力を入れますね。

 データサイエンスをはじめ、文理融合の教育を行います。環境問題や社会づくり、地域づくりには、幅広い知識が必要です。社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められており、きちんとしたDX教育をします。
 私は中国の大学で地理学を学び、京都大学大学院で土木工学を研究して工学の博士号を取りました。地理学は日本では文系ですが、中国では理系の学問です。文系とか理系とかにとらわれず、枠を超えた文理融合の教育が求められていると思います。

――九つの専門科目群は多彩な分野にまたがりますが、どんな教員をそろえるのですか。

 多様な専門性を持った教員が集まります。アジア太平洋学部で観光を教えていた教員も移りますが、約4割は世界中から集った新任です。実務家出身の人もおり、航空会社出身の教員はドローンを使って離島に物資を輸送し、地域の持続可能性を高めて地方分散型の社会をつくる事例などを学生に教えたりしています。夢がある話ですよね。APUの他の学部と同様に、教員は日本人と外国人が半々です。

――サステイナビリティ観光学部は、どのような経緯で新設されるのですか。

 2000年に開学したAPUは、新しい日本をリードすることをコンセプトに、日本人学生と国際学生(留学生)が半々という構成で、グローバル教育を牽引してきました。それから20年がたち、同じようにグローバル教育を掲げる大学が増えました。APUは常にフロントランナーでいなければなりません。
 出口治明学長が2018年に就任する前から新しい学部をつくろうという構想はありましたが、出口学長が着任してから本格的に新学部構想が動き出しました。いま国際社会で起きている①地球規模の環境問題 ②グローバリゼーションによる地域文化の消滅と格差問題 ③持続可能ではない現在の社会・経済の仕組み、という三つの社会課題を解決するという使命のもと、生まれたのが「サステイナビリティ観光学部」です。教育と研究を通じて、これらの課題を解決しグローバルなフィールドで実践していく人材を育てていくということが、APUの社会的な役割であると考えたのです。
 そして、もともとアジア太平洋学部に専門教員がおり、観光教育の国際認証TedQualを取得しているAPUの強みの一つである観光分野と、社会が求めるサステナビリティを掛け合わせることで、持続可能な社会の実現に向けた世界中のさまざまな地域の価値の開発・新たな価値の創造について学ぶことができる学部をつくり、さらに強みを拡大しようとしたわけです。

研究室の棚には教え子からの贈り物がたくさん飾られている

異なる考えや習慣に対して寛容になり、協力して何かを成し遂げる力を養う

――卒業後の進路はどんなキャリアを想定していますか。

 いわゆる観光産業はもちろんですが、観光に特化するのではなく、UNWTO(国連世界観光機関)などの国際機関や国際金融機関、総合商社、中央官庁や自治体の職員、不動産ディベロッパー、鉄道会社、観光地域づくり法人など、幅広い分野を想定しています。
 現在は企業もサステナビリティに取り組んでいるところが多く、推進する部署を設けたり、ESG(環境、社会、ガバナンス)推進担当者を配置したりしています。卒業後の企業側の需要も十分あると思います。
 国際学生は卒業後、日本国内で就職するのが3分の1、国内外の大学院に進学するのが3分の1、帰国や起業などが残りの3分の1です。新学部も同じようになると想定しています。
 持続可能な社会の実現に向けて行動できる人は、社会が求めている人材です。どこに行っても、活躍できると思います。

――どんな学生に来てほしいですか。

 新学部に対する海外の高校生の反応はいいです。志望しているのは優秀な人が多いです。もちろん国内もいまや若者たちは、持続可能な社会とは何か、と考える教育を受けていますから、関心が高い人も多い。また、データサイエンスや情報システムが専門科目群に入っていることも国内外で共感を得ています。
 APUでは現在、103カ国・地域の学生が同じキャンパスで学び、入学後は寮で一緒に過ごすことから大学生活が始まります。授業の中では多様な文化背景を持つ仲間と議論します。課外活動も多国籍なグループで行います。
 そういった日々の学びや多様な友人との関わりの中で、異なる考えや習慣に対して寛容になることを覚え、一緒に協力して何かを成し遂げる経験をすることで、国際通用性のある人に成長できます。新学部の教育に少しでも関心のある意欲的な人に、ぜひ来てほしいです。一緒に持続可能な社会の実現を目指しましょう!

「持続可能な社会の実現に向けて行動できる人は、社会が求めている人材です」と李新学部長は言う

大分県産の木材がふんだんに使われた内装デザイン(イメージ)

2月竣工の新教学棟は、
サステナブル社会の
実現を目指す「生きた教材」
新学部の開設にともない、新教学棟も2月に竣工する。新教学棟は鉄骨造と木造を組み合わせた地上3階建て。小・中教室、グループワーク特化型教室、馬蹄型教室からなる教室群と、学生滞在スペース(スチューデント・コモンズ)、教員研究室、地域連携スペースからなる。使用する木材はほぼすべてが大分産のスギ材で、木材量400㎥以上は国内の木造建築ではトップクラスの規模。さらに、太陽光パネルによる発電、竹炭チップによる調湿、地中熱を利用した冷暖房など、教学棟そのものがサステナブル社会・環境教育の「生きた教材」として、木材利用の意義やメリット、ソーシャルインパクトについて学べるものとなっている。
from APU

提供:立命館アジア太平洋大学