自身の経験から「後輩たちにもチャレンジできる環境をつくりたい」と鷲頭さん
木村鷲頭さんは、2024年3月にローソンの北海道カンパニー プレジデントに就任されました。具体的にはどのようなお仕事でしょうか。
鷲頭「地域密着×個客・個店主義」を推し進めるローソンでは、エリアカンパニー制を導入しています。北海道カンパニーは全国のカンパニーの中では一番コンパクトで、約700店舗を運営しています。その全店に対し、商品やサービス、売り上げなど、店舗運営のあらゆる面を管理・サポートするお仕事です。
木村約700店舗も統括を! 女性初のプレジデントとなった鷲頭さんのキャリアにおいて、ターニングポイントになった出来事を教えてください。
鷲頭転機となったのは、プレジデントになる前に2回あった「女性初」の経験です。2回とも、現専務執行役員の和田祐一さんに登用していただきました。1回目は、商品本部で女性初の駐在MD(商品開発)。当時、ローソンが各地域と協業体制を深める包括連携協定を積極的に結ぼうとする動きのなかで、中四国商品部のMDとして島根県に駐在しました。
和田2006年のことですね。その頃は女性MDは少ない時代でしたが、鷲頭さんは面倒見がいいので、すぐに仲間ができていましたね。
鷲頭当時、和田さんは岡山のオフィスにいて、会議などで毎週お会いしていましたが、いつも叱咤激励してもらっていました。2回目は、商品本部で女性初の部長に昇進したことです。
PROFILE
1974年 | 山口県生まれ。 |
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1992 | 地元の高校を卒業後、地元のコンビニエンスストアに入社。運営会社がコンビニ事業を売却したことに伴い、ローソンの社員に。 |
2000 | 福岡、東京本社、香川でMD(マーチャンダイザー/商品開発)を務め、本社商品部・エリア商品部で経験を積む。 |
2006~07 | 中四国ローソン支社 中四国商品部で、女性初の駐在MDとして島根に勤務。当時、中四国商品部 部長の和田祐一さんと出会う。 |
2009~ | 東北商品部に異動し、FF(ファストフード)・厨房のSMD(シニアマーチャンダイザー、課長職)を務めている時に、東日本大震災を経験。 |
2012~ | 東京本社で再び和田さんの部下となり、店内調理「まちかど厨房」担当へ。女性として初めて、商品本部の部長へ昇進。 |
2014~ | まちかど厨房、FF、MACHI café、デイリー、ナチュラルローソン、商品サポートの各部の部長を歴任。 |
2024 | 女性として初めて、理事執行役員・ 北海道カンパニー プレジデントに就任。 |
東日本大震災での経験から
信念と実行力で社内を説得
ローソン 専務執行役員
近畿カンパニー プレジデント
和田祐一さん
2009年に中四国ローソン支社長、2014年に商品本部長、2017年に営業本部長を歴任し、2022年から現職。
木村部長昇進のきっかけとなったのは、お弁当やおにぎりを店内調理するブランド「まちかど厨房」の責任者になったことだとお聞きしました。
鷲頭まちかど厨房を全国展開しようとした当初は、まだ部長になる前、商品本部でマネジャーを務めていた時でした。まちかど厨房は応援してくれる人も多数いましたが、反対の声も大きかったんです。効率が悪い、人件費がかかる、品質が安定しないといった理由です。
木村今では数々のヒット商品を生み出しているまちかど厨房ですが、当初は反対する人もいたとは! それでも信念を貫いて実現させた理由は。
鷲頭2011年、仙台に駐在していた時に東日本大震災が発生し、被災しました。東北のローソンでは、スーパーが少ない地域に対応する取り組みとして、それ以前から店内調理のおにぎりなどに力を入れており、水や米の備蓄やコーヒーメーカー、フライヤーなどの調理器具があったんです。物流がストップしたなか、これらを活用して温かいコーヒーやおにぎりなどをお客様にご提供したところ、とても喜ばれました。その時のお客様の笑顔やお店の従業員の達成感に満ちた顔が強く印象に残り、「コンビニエンスストアは地域社会の不可欠な支柱だ」と再認識。東北の手法をそのまま全国に拡大させることは難しいとは思いましたが、できる形で少しずつ広げていけば、まちかど厨房はビジネスとして成功すると確信しましたし、何よりローソンのファンを増やすために必要だと考えたのです。
和田鷲頭さんは負けず嫌いなんですよ。人と同じことをするのではなく違うことにチャレンジするし、あきらめない。まちかど厨房も、当初懸念されていた課題を着実に改善していきました。たとえばメニューを簡単にして作業の手間を減らしたり、現場の声をよく聞いて、課題があればその解決法を加盟店さんに共有したり。いろいろと試行錯誤をした結果、誰でも短時間で高品質の商品を調理できるようになった。今では9千店以上に広がっています。
鷲頭東北での経験から、お客様の喜びにつながることなら「やりたいけど無理」とあきらめるのではなく、「実現するためにどうすればいいか」を考えてチャレンジする姿勢が身につきました。和田さんはもちろん、当時の経営層も「今すぐに結果が出なくても、将来のローソンに必要だと思うならやってみなさい」と背中を押してくれたので、モチベーションを維持することができました。
和田自分の意見を伝えて共感してもらい、そのうえで人の意見も聞いて結果を出し、しっかり期待に応えている。叩き上げとして積み上げてきたキャリアが、鷲頭さんの自信となり、それが信頼につながっていっているのだと思います。私が部長に登用したのも、男女関係なく鷲頭さんのバイタリティーやリーダーシップを考えれば適任だと思ったんです。
鷲頭その機会をいただけたことが今につながっています。
和田といっても、部長に任命した当時はすごく嫌がっていたけどね(笑)。
鷲頭大泣きしましたね(笑)。
和田夜中まで「私にはできません」と泣いていたんですよ。まあ、さんざん泣いて一通り言いたいことを言ったら、しっかり覚悟を決めることはわかっていたから心配はなかったけれど。鷲頭さんは自分の実力をわかってないんですよ。いつも「こんなんでええんかな?」と思っているみたいだけど、周りから見たらすごいことをやっている。夢が大きいから、自分では「まだ合格じゃない」と思っているんでしょうね。
「ガラスの天井」のない会社
これからは自分が作っていく
木村今回、プレジデントの任命は、自信を持って承諾したんですか。
鷲頭いえ、こんなことを言ってはいけないのですが、今も自信があるわけではないんです。そういう性質なんですね。でもOJTで学ぶタイプなので、和田さんをはじめ様々な先輩方に教えてもらったことを取り入れたり、同僚や後輩の意見も吸収したりしながら頑張っています。私がプレジデントになって、面識のない女性社員から「驚きました」「うれしいです」「私も頑張ります」というメッセージをいただきました。女性としてこうした役割を担うことで、他の女性を元気づけることができるのだと改めて気づきました。
和田鷲頭さんのことを知らない人は驚いたかもしれないけど、知っている人は、むしろプレジデントになって当然だと思っていますよ。それだけ多くの人に認められている存在なんです。鷲頭さんの周りには人が集まってくるんです。
「和田さんはいつも感情的にならず静かに諭す。それがむしろ重い(笑)」(鷲頭さん)
木村人が集まってくるのはなぜだと思いますか。
鷲頭寂しがり屋なんです。だから自分から「初めまして」と近寄っていく。何回もの転勤を経験してきたので、そうしないとやっていけなかったという面もあります。その土地土地で仕事を進めていくためには、周囲の人と仲良くしたほうが楽しいし、結果も出る。
木村今また北海道で新たなスタートを切りましたが、今後の目標について教えてください。
鷲頭女性のMDや管理職がまだ少なかった時代から様々な経験をさせてもらい、私としてはこれまでいわゆる「ガラスの天井」を感じたことはありませんでしたが、女性の上司や経営者と仕事をする機会が少ない北海道カンパニーの皆さんや、お取引先様は、私(女性)がプレジデントになったことに戸惑いを感じることもあるようです。私と部下の男性社員が一緒に加盟店さんやお取引先様にご挨拶させて頂いた際も、男性社員が上司と思われることが何度もありました。今この状況になって、「ガラスの天井」をこれまで感じなかったのは、私の周囲にいた方々が天井のない環境をつくってくれていたおかげで、和田さんを筆頭に先輩や仲間が性別やバックグラウンドに関わりなく一個人の「鷲頭さん」として接し、実績や仕事に対する姿勢で評価してくれていたからだと、感謝の念を新たにしました。これからは自分がそうした環境、文化をつくっていきたい。
和田そうですね。でも「すべて私一人が背負わないといけない」ということではないので、サポートしてくれる人を集めて、何でも言い合える組織をつくっていってもらいたい。
鷲頭はい。これまで学ばせてもらったことを、他の人にもつないでいくことが今の役割だと思っています。「DE&I」を推進しているローソンは、多様な人材を受け入れ、誰でも自分のアイデアを声に出しチャレンジできる企業を目指しています。一人ひとりが存分に力を発揮することで、ローソンで働いてよかった、ローソンと一緒に働いてよかったと思ってくださる仲間を増やしていきたいと思っています。