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取材・文/神 素子、上浪春海 写真/松永卓也(写真映像部) イラスト/楠美マユラ
ウェブデザイン/ヨネダ商店 企画・制作/AERA dot. ADセクション
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アンドリュー・チャップマンさん
2012年、オーストラリアのクイーンズランド大学人文社会科学部大学院修士課程修了。16年、京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了。九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所エネルギー分析部門助教授を経て、19年から現職。九州大学経済学部でも講義を担当。
- カーボンニュートラルを実現するには、発電に使う化石燃料を、太陽光や風力、水素などのエネルギー源に替えていかなければならない。ただ、国によって事情が違い、急に替えると仕事を失う人がたくさん出たり、人々の不平等が拡大したりするおそれがある。チャップマンさんは、それぞれの国が持つ資源、技術、気候などを考慮し、どのエネルギー源に、いつ、どのように替えていけばよいかを、計算によって明らかにする研究を進めている。
- カーボンニュートラルとは?
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現在、石油や石炭などの化石燃料を燃やして出る二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(※)が、森林などが吸収するCO2を大幅に上回っている。この上回った分を減らしてゼロにしようとする取り組みが「カーボンニュートラル」だ。日本を含め世界120以上の国や地域が、2050年の達成を目指している。 ※二酸化炭素、メタンなど、地球温暖化の原因になる気体。
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チャップマンさんの研究によると、日本は、エネルギー源の約4分の1が水素になるように徐々に替えていくのがよいらしい。まだ実感しにくいが、世の中は化石燃料から水素へ移り変わる時代に向かおうとしている。目標の2050年まであと27年。その間に社会は大きく変わっていくが、チャップマンさんが一番気にしているのは、この変化に取り残される人を出さないこと。誰もが笑顔で納得できるカーボンニュートラルの実現に力を注いでいる。
- なぜ水素?
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水素は燃やしてもCO2を出さず、水(水蒸気)が出るだけ。自動車や火力発電の燃料になるほか、都市ガスに混ぜて使うなど用途は広い。
研究所では国内外の研究者や政府関係者などを招いてシンポジウムも開催される。写真は持続可能なエネルギーの転換について講演するチャップマンさん
1階のラウンジではセミナーやパーティー、イベントなどが開催されている
研究室で大きなパソコンのモニターに向かうチャップマンさん
WPI-I²CNERの研究チームでは、空気中のCO2を特殊な膜によって濃縮・回収する技術を開発中。内閣府の「ムーンショット型研究開発事業(※)」にも選ばれた
※今までの技術の延長にない、大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する、国の大型研究プログラム
カーボンニュートラル社会の実現を目指すWPI-I²CNER。パートナー校でもある米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームとともに、多くの研究成果を生み出しているよ
建物の外観はキーリングカーブ(※)という曲線を表現している
※1958年、キーリング博士という人物がCO2濃度の長期的な増加を証明したグラフ
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私はオーストラリア南部のアデレード近郊で生まれ育ちました。本を読むのが大好きで、宇宙飛行士になりたいと思っていました。もちろん外遊びも好きで、冬の間だけ水が流れている川でオタマジャクシを捕ったり、今思えば見つかるはずがない砂金を探したり。小学校で夢中になった科目は算数です。高校生のとき、1年間交換留学生として岡山で暮らしました。32歳のとき京都大学に留学して、そこから日本での研究生活に入りました。
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社会の誰もが、医療などのサービス、法律、賃金などで公平(フェア)に扱われることを「社会的公平性」といいます。社会的公平性を数字に置きかえるのはとても難しいのですが、私はこれを数式に組み込んで計算します。同じような研究をしている人はほかにいません。自分で言うのもおかしいけれど、そこが私の研究の魅力かな。いちばん幸せだと感じるのは、研究を発表する論文を書いているときです。
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フェアなカーボンニュートラル社会を実現すること。これは、私だけでなくみんなの夢ですね。研究者としては、それに役立つソフトウェアなどを開発して、たくさんの人に役立ててもらうことが夢。例えば、自分がどんな行動をとれば、カーボンニュートラルに近づけるかを★の数で示せたらいいなと思います。ふだんガソリン車で行くところを歩くように行動を変えたら★★★と表示されるようなアプリがあったら、楽しくて、みんながカーボンニュートラル実現のためにもっとがんばるでしょう?