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取材・文/上浪春海 写真/松永卓也(写真映像部) イラスト/楠美マユラ
ウェブデザイン/ヨネダ商店 企画・制作/AERA dot. ADセクション
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吉田直紀さん
1996年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。ドイツ·ミュンヘン大学大学院天文学専攻修了。米国ハーバード大学、国立天文台、名古屋大学などで研究を続け、2012年からカブリ数物連携宇宙研究機構特任教授。東京大学大学院理学系研究科教授を兼任。
- 広大な宇宙には、1000万~1000億個を超える星の大集団——銀河が無数にある。吉田さんは、そんな宇宙の中に何がどのように存在しているのか、これらの星や銀河はどのようにして生まれたのかといった謎を解き明かす研究をしている。宇宙の誕生から1億年ほどたって星が生まれはじめ、その星々が集まって銀河になり、銀河の中に惑星系ができて、現在の宇宙の姿になった。未知の謎を一つひとつ解いて、宇宙の歴史をくわしく描き出すことを目指している。
- 私たちの体は、炭素や酸素、窒素などの元素(※)からできている。こうした元素は、宇宙の歴史の中で星がつくりだしてきた。つまり、宇宙の研究は「私たちの起源」を明らかにすることにもつながる。宇宙観測に使う技術は、身の回りの製品にも役立てられている。 ※物質をつくるもとになっている基本的な成分。
- 例えば宇宙望遠鏡のカメラに用いられるCCDという部品は、デジタルカメラに応用されている。撮影した宇宙の画像を分析するために開発されたAIが、別の目的で社会に役立てられることもある
Kavli IPMUの心臓部分「藤原交流広場」では、さまざまな分野の研究者が集まって交流している。それが刺激となって新しいアイデアが生まれることもあるんだって!
Kavli IPMUは「宇宙」を大きなテーマに、数学、物理学、天文学で多くの重要な発見をしている研究拠点。現在、30カ国の研究者が在籍しているよ
建物の前には、国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラの模型が展示されている
施設内のあちこちにある黒板やホワイトボードには、研究者たちが議論するときに書かれた数式や図などがいっぱい!
広場の柱には「宇宙は数学の言葉で書かれている」というガリレオ·ガリレイの言葉が
研究室のドアには中が見える窓があり、誰でも入りやすい雰囲気。吉田さんの研究室にもいろんな研究者が出入りする
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小学生のころから天文少年でした。私の家は、神戸市の星空がきれいなところにありました。その環境を生かして、5、6年生のときは晴れていれば毎晩必ず、望遠鏡で星空の観測をしていました。1年に200日ぐらいになると思います。星雲、銀河、惑星などをよく見ました。観測した天体は、手書きのスケッチにして記録しました。でも、いちばん夢中になった本は、古代エジプトのツタンカーメン王の墓の発掘など考古学の本です。私の場合は、考古学が解明する文明の歴史の延長に、地球の歴史、宇宙の歴史があるようです。
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私の研究では、数式を立てコンピューターを使って計算をします。多くの場合、計算から描き出される宇宙の姿と、観測からわかる宇宙の姿が一致しないなど、うまくいきません。でも、1カ月に1回ぐらい宇宙の小さな謎が解けるときがあり、一歩一歩、研究が進んでいきます。ほかの研究者たちも、自分の研究が思うように進んでいかないのが普通です。それでも、科学の研究全体としては進んでいて、宇宙のことが少しずつわかっていきます。そこが私にとっての喜びで、この研究の魅力といえます。
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宇宙の歴史を物語として理解できる「歴史絵巻」を完成させることです。日本史絵巻の「日本」を「宇宙」にしたようなものですね。これまでの研究成果では、物語にところどころ欠けているところや、説明がつかないところがあります。この絵巻を見れば、宇宙の始まりから現在までの出来事がよくわかり、事実に基づいた理屈として納得できるような物語をつくりたいのです。