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あらゆることがデジタル化され、日々大量のデータが生まれる現代社会。そのデータを活用するための教育や人材育成に力を注ぐ大学13校と、データをビジネスに活用して社会に貢献しようとする企業6社が、「AI」や「データサイエンス」の今と未来について語り合う。
取材・構成/株式会社POW-DER 座談会原稿/稲田砂知子
撮影/鈴木克典 イラスト/さかもとすみよ デザイン/スープアップデザインズ 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ 企画/AERA dot.ADセクション
今回の座談会に参加した大学
さらなる進化のためには越えなければいけない壁もある。データサイエンスの未来を考えたい。
座談会参加のみなさん
大阪成蹊大学
副学長・教授【2023年4月開設予定 データサイエンス学部(仮称)
設置準備室 室長】
中村 佳正 さん
滋賀大学
データサイエンス学部 部長
データサイエンス研究科科長 教授
竹村 彰通 さん
東京理科大学
副学長・理学部第一部
数学科 教授
若山 正人 さん
名城大学
理工学部情報工学科 教授
【2022年4月開設の情報工学
部長(予定)】
佐川 雄二 さん
SOMPOホールディングス株式会社 データ統括室 課長代理 鳥居 雅樹 さん
日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 パブリックセクター 事業本部 文教営業統括本部
統括本部長
中井 陽子 さん
片桐圭子(AERA編集長) パート3のテーマは「データサイエンスの未来」です。まさに今、コロナ禍でデータサイエンスの力を実感しています。市街地の人流の分析や数理モデルによる感染拡大予測、短期間でのワクチン開発などは、データサイエンスがもたらした果実でしょう。私たちにはこういう「武器」があるのだと、心強く思いました。
竹村彰通さん(滋賀大学) 感染拡大の抑制と経済活動のバランスを探るのに、データ分析は有効です。今後は各地域のもっと詳細なデータが地方創生の一助となるのではと考えています。例えば、私たちの大学のある滋賀ではコロナ禍でどんな事業がどう影響を受けたのか、地方銀行のデータを使った取引先の分析を試みています。今後の経済復興の指針を示すことができると考えています。
佐川雄二さん(名城大学) そうですね。コロナ禍は一般の人にデータについて考える機会を与えました。大災害のときなどもそうですが、デマ情報や陰謀説が流布し、より人々を混乱させています。そのときデータに基づいた客観的な指標を示すことは、データサイエンスの重要な役割の一つだと思いました。
若山正人さん(東京理科大学) その意味では個人情報に対する考え方にも変化が見られました。日本では今回のコロナ禍で、個人データを匿名で集めることを容認する人が増えたようです。これまでは何に使われるのかわからないという不安が大きく、データ活用に消極的な人が多かった。データに基づき未来をどう見ていくか。科学的なものの見方が一般にも広まり、科学が話題にのぼる機会が増えているのも興味深いです。
片桐(AERA) コロナ禍によってデータサイエンスの認知が高まりました。社会を変える契機になるのかもしれません。
中井陽子さん(日本マイクロソフト) 当社の分析では、コロナ禍に突入した最初の2カ月だけで、世界中でほぼ2年分のDX(デジタルトランスフォーメーション)を達成したという結果が出ました。学校や職場に行けない、人が集まれないときに活用されたのはデジタルとインターネットでした。
中村佳正さん(大阪成蹊大学) その点でいうと、大学はオンライン授業を約2カ月で一気に準備しました。今後はAIを活用した双方向型のオンデマンド授業を大学で開発し、その技術を学校間で共有するなど、教育分野でのDXをより一層推進していかなくてはなりません。また企業をはじめあらゆる分野で目指されているDXを見据えて、大学での学びの内容もさらに変革していく必要があります。
中井(日本マイクロソフト) そうですね。コロナ禍が収まれば元に戻るのでは、変革ではありません。大量に取得できるようになったデータをいかに活用するかが、さらなる変革の鍵だと思います。
人類共通の課題にどう応えるか
片桐(AERA) SDGsの達成は世界的な課題ですが、これに関してはどうでしょうか。
竹村(滋賀) 17あるSDGsの課題のうち、「働きがい」への貢献は大きいと思います。データを扱う仕事はPCの性能向上で、自宅でも十分できるようになりました。これまでの「会社人間」的な働き方とは真逆の働き方を後押ししてくれます。ハンコ文化を改めて、DXを進めることによって、働くことの自由度が上がります。
中村(大阪成蹊) ジェンダー平等の実現にも期待できます。私がこれまで籍を置いた大学では理工学系の学部の場合、女子学生の割合は1割足らずでした。ところが現在注目されるデータサイエンス系での学部は2〜3割にもなるようです。データサイエンスは社会に役立つ実学である点が多くの女子生徒に訴求するようです。私たちのデータサイエンス学部から社会のリーダーとなるような女性を送り出したいです。
鳥居雅樹さん(SOMPOホールディングス) データサイエンスの仕事はパソコンの前でプログラミングばかりやっているわけではなく、取引先に課題を発見しに行ったり、活用してもらうために売り込んだりと、業務の内容は多様です。高いコミュニケーション能力も必要とされます。社会とのつながりに興味がある人には、性別を問わず活躍してほしい分野です。
片桐(AERA) 働きがいとジェンダー平等は日本が抱える問題でもありますね。ほかの課題についてはいかがでしょうか。
佐川(名城) 地球規模の問題は国や民族を超えたものですが、どうしても各の主張や考え方が相容れず、解決の障壁になることも多いですね。そんなときはデータサイエンスを一つの共通言語として捉え、分析した結果を皆で共有する。そこでまた主観も入りますが、ぶつかり合うのではなく、データの分析結果を元に話し合うことができれば、単なるいがみあいは減るのではないかと思います。利害の対立から脱却し、次のステップに進めるのではないでしょうか。
若山(東京理科) 少し補足させてください。データ分析によって客観的に物事を見ることができるのは確かで、多くの場合は恩恵を受けています。ただそれでも心配な点は、データは事実であるという思い込みです。人間はアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の塊です。過去のデータに偏りがあれば、数理モデルも正しいとは限らない。データをどう収集し、どう使うのか、人の手で変わります。
データサイエンティスト協会の2020年一般会員アンケートでは、データサイエンティストという仕事に「将来性を感じる」と回答した人が43%、「どちらかと言うと将来性を感じる」と回答した人が38%で、8割を超える人が将来性を感じていることがわかった。
※データサイエンティスト協会「一般(個人)会員向けアンケート調査結果(2020)」より
社会でデータの価値を高めるために
片桐(AERA) こうしたデータ活用における課題はほかにもありますか。
中村(大阪成蹊) ある企業との共同研究で、交通量が運転手の心理や車の運転にどう影響するかを分析しようとしています。ところが肝心の交通量のデータが、人の顔やナンバーなどの個人を特定できる情報が写り込むという理由で使えないんです。データは今、社会に山のように存在していますが、分析に使えるデータにするためには、さまざまな障壁があります。
竹村(滋賀) 専門的な技術をデータで可視化することが行われないために、属人的なものにとどまって失われてしまうという問題を抱えている企業も多くあります。特にベテランの方々は職人気質だからか「機械になんてわからない」と抵抗感を示されることが多い。日本はデータによって知識を可視化することはまだ進んでいません。
中井(日本マイクロソフト) 人の生活に関わるところでいえば、健康、教育、子どもの生育状況など繊細な情報に関するデータを行政間でやりとりできず、複合的な問題の解決に至らないことも起きています。縦割り行政の弊害の一つとも言えます。複数のデータを横串で通し、分析することで新たな価値創造につながることも多い。データが大量にあっても、宝の持ち腐れになる危険性があります。
片桐(AERA) 個人情報に関しては、悪用されるのでは、と恐怖感を抱いている人も多く、なかなか「はい、データをどんどん使ってください」とは言えない状況にあるのも事実。企業でのルールはどうなっていますか。
鳥居(SOMPO) 当社は保険事業なので、個人情報の取り扱いは厳格にしています。限られた人が限られたところにしかアクセスできませんし、それについては徹底的に社員教育されています。一方でデータの価値を上げていきたいという強い経営判断があります。そのバランスは難しいですが、やはり慎重にならざるを得ません。お客様には、かなり丁寧にデータの利用法について説明しています。コミュニケーションが非常に重要です。
中井(日本マイクロソフト) 当社でもデータプライバシーに関する研修を全社員が毎年受けます。クラウド業者はお客様のデータを預かっているけれど、クラウドの中身は業者が触るものではなく、お客様のものだと徹底的に教育されます。こうしたルール作りは一つの組織にとどまるのではなく、業界をあげて進める必要があります。
若山(東京理科) GAFAはデータを大きな経営資産と考え、積極的にビジネスを進めました。日本ではこれから、皆がデータの価値を真に理解する状況を作っていく必要があります。日本人の「曖昧さ」が、データ活用の明確なルール作りを邪魔しているのかもしれません。しかし、共通のルールがないと、データを使って恩恵を受けるような事業はなかなか進みません。
鳥居(SOMPO) リスクと隣り合わせであるのはデータ活用に限ったことではありません。例えば車で事故を起こさないためには、教習所で法律やマナーを習うのと同時に、運転技術を高めるという両方向のアプローチがあります。データの扱いも同じで、ルールを守るというモラル教育と漏洩しないための技術力の追求、この両方が推進されなければなりません。データを活用したときの価値とリスクのバランスを社会の共通認識としてどれだけ持てるかが最終的な課題です。
竹村(滋賀) 私は「データ積極活用派」なので、セキュリティーを守りつつ、データを生かす視点でのルールを構築することが大事なのではと考えています。
片桐(AERA) 大学でもルールに関する教育が必要ですね。
佐川(名城) データサイエンスに携わる人間への倫理教育は重要です。学生にどのような意識付けをするか。企業のほうが個人情報の扱い方やルール作りが進んでいるので、PBL(課題解決型学習)において学生がプロの技術者たちと接することで、データ活用に対する倫理観を育てる機会になるのではと思います。
片桐(AERA) データサイエンスが目指すのは、ルールについて皆で共有し、「データには価値がある」が社会の共通概念になることでしょうか。企業では未来をどう見ていますか。
主要10カ国のデータリテラシー比較で、日本企業は最下位の54.9となっている。国際的な競争力を高めるために、日本企業のデータリテラシー向上は急務だ。
出典:2018年Qlik Technologies「データリテラシー指数発表資料」より
鳥居(SOMPO) 私が携わっている当社の介護事業の特色は利用者一人ひとりの個性に合わせて介護プランを立てる、カスタムメイドケアにあります。そのためにデータの活用が欠かせません。現在、データを蓄積して連携する、介護領域のプラットフォーム化を目指しています。お客様の健康や生活状況の細かなデータを整備していくことにより、体調変化の予測や改善のための提案など、データ活用のレベルを高度化することができます。それによって介護の質を向上させ、介護人材不足を補うといった社会課題の解決にも貢献できると考えています。
中井(日本マイクロソフト) 当社は創業時から、教育市場向けのソフトウェアを開発し、今はクラウド環境を教育機関に提供するなど、教育には並々ならぬ情熱を傾けてきました。そしてAI活用によって、環境悪化、貧困、医療不足など、世界で苦境にある人々を救うというミッションを掲げています。日本も解決すべき課題にあふれています。今後も熱意を持って教育に携わる方々と協力し、データサイエンス、AIの力でともにより良い世界を実現していきたいです。
片桐(AERA) 大学では、未来を見据えたデータサイエンス教育についてどう考えますか。
中村(大阪成蹊) 本学では2023年にデータサイエンス学部(仮称・構想中)を新設する予定です。AIの技術が成熟期に入ると、機械学習などを自動構築できるソフトウェアがでてくるでしょう。そうなったときにデータサイエンスをどのように学ぶことが必要なのか。時代の変化の先を読み、データサイエンス教育の理想を追求し、教育組織・カリキュラム編成・研究設備など、一から設計しています。やはりデータから新しい価値を読み解き、問題解決の道筋を提示できる人材を育てることが不可欠だろうと思います。文理の融合を図り、人と社会を取り巻くさまざまな分野で活躍できるデータサイエンス人材を養成していきます。
若山(東京理科) 本学は理工系総合大学として、ほとんどの学生がデータに触れ、データ解析を研究の基盤としています。また学部横断型のデータサイエンス科目「データサイエンス教育プログラム」も開講。ただ、今の技術を追求するだけではイノベーションは生まれません。どんな時代であろうが人類の課題は常に存在します。そうした問題をどう解ける形にするかを考え続けることが大事で、そこにデータサイエンス教育の意義もあると考えます。基本となる数学や統計学といった学問の発展も欠かせません。
佐川(名城) 22年に開設する本学の情報工学部では四つ設ける学問領域のうち一つを「データエンジニアリング」とし、「アウトプットできる」知識・技術を身に付けることを目標としています。データサイエンスは汎用的なので、具体的な領域と合わせて使って初めて役に立つものです。現実の複雑な課題解決に挑戦するときは、いろいろな領域の知恵が必要です。今後は「IT的に効率がいいのはこっちだけど、心理的効果はどう?」というようなスキル融合型のチームワークでの作業が主流になるでしょう。データサイエンスを共通言語として、共通課題の解決に導ける人材を育てたいと考えます。
竹村(滋賀) 私たちのデータサイエンス学部はこの春に初の卒業生を送り出し、就職先は情報系に限らず、小売り、金融などさまざまな業種で、需要の高さを実感しました。データサイエンスはツールとしては進化し、コンピューターが担う部分も多くなるでしょうが、それを生かすのは人間です。AIによって人間が必要なくなるのではなく、この技術を理解し、社会の課題解決に役立てられる人材に対する需要は大きくなると考えます。今後も価値創造をもたらす力を育てる教育を発展させていきたいです。
記載されている会社名は、各社の商標または登録商標です
片桐圭子の編集後記
データサイエンスの発展のためには、縦割りの壁を越えることや、明確なルール作りが重要です。ただそれはこの分野だけでなく、日本社会全体が抱える課題でもあります。大学や企業にはその解決をリードする存在であってほしい。データサイエンスの飛躍は、日本の停滞を打破するきっかけになると思います。