今回の座談会に参加した女子大学
女性の活躍が期待される一方で、日本社会に根強く残る「女性は従属的であるべき」というアンコンシャス・バイアス。これを取り払うために、女子大学が取り組んでいることは何か。リーダーを育てるキャリア教育とは?
座談会参加のみなさん
お茶の水女子大学 学長
佐々木泰子 さん
京都女子大学 学長
竹安栄子 さん
金城学院大学 学長
兼 学校法人金城学院
学院長・宗教総主事
小室尚子 さん
株式会社
ファーストリテイリング
人事部 FR・UQ本部
人事チームリーダー
宗田由実 さん
富士通株式会社
サステナビリティ推進本部
ダイバーシティ&インクルージョン推進室長
木村博美 さん
片桐圭子(AERA編集長) 女子大学ではどんなふうに学生のキャリアを支援し、女性リーダーを育成しているのですか?
佐々木泰子さん(お茶の水女子大学) 本学はグローバルに活躍できる女性リーダーの育成を目標に掲げています。グローバルリーダーに必要なスキルやコミュニケーション能力を養成し、ジェンダー学的視点を持ちつつ異文化や社会動向を捉える力を強化するリーダーシップ育成カリキュラムを、キャリアデザインプログラムに設けています。
片桐(AERA) 企業の実際を学び、リーダーとして活躍する女性の話を聞く機会もあるそうですね。
佐々木(お茶の水女子) はい。プログラムを通じて、学生が「リーダーは遠い存在ではなく、自分が目指すべきもの」という認識を持てる教育をしています。2019年から導入した「リーダーシップ特性評価指標」は本学が開発したリーダーシップ教育の成果を評価する指標ですが、学生自身が自分の能力や強みを知るツールとしても活用できるようになっています。
竹安栄子さん(京都女子大学) 女子大学ではすべてにおいて、学生がリーダーとして期待され、リーダーとしての経験を積むことができる環境があります。これは共学では得にくい経験ですよね。
小室尚子さん(金城学院大学) 同感です。多様化する女性の生き方を考える機会があるのは、女子大学の大きな強みだと思います。本学の21年3月末時点での就職率は99.3%(就職者数1083人/就職希望者数1091人)、総合職に就く学生も年々増えており、近年ではエリア総合職も合わせると6割を超えています。社会で生かせる力、これからを生きるために必要な知識を指導してきた結果でしょう。どこに就職するのかではなく、結婚・出産などを含め「女性としてどう生きていきたいか」を、学生と一緒に考えています。
女性リーダーを積極的に育てる企業の取り組み
片桐(AERA) 女性にも人気の2社の、女性リーダー育成の現状を教えてください。
宗田由実さん(ファーストリテイリング) 当社は完全実力主義で、性別や国籍に関わらず、実力とやる気のある社員には裁量が与えられ、自分の意志で仕事ができる環境にあります。女性比率も高く、女性管理職はグローバル全体では約4割です。ただ、日本での比率は海外拠点より低い傾向にあります。その理由の一つに、リーダーシップの発揮に自信が持てず、無意識に自分の可能性に蓋をするような心理があると感じます。会社としては意思決定の場にもっと女性に進出してほしいので、その背中を押す取り組みや可能性を引き出す支援をしています。
木村博美さん(富士通) 20年度より人材育成方針を大きく見直し、社員一人ひとりの自律的な学びや成長を支援する「キャリアオーナーシップ」という方向に舵を切りました。キャリアを自分で築くという考えのもと、自分らしい働き方やキャリア形成ができる仕組みです。出産・育児といったライフステージに合わせた長期的なキャリアを構築できることで女性がより働きやすくなる環境になると考えています。
企業と女子大学が向き合うアンコンシャス・バイアス
片桐(AERA) 日本の社会には「女性はこうあるべき」という根強いアンコンシャス・バイアスがあり、大きな問題となっています。
竹安(京都女子) 本学では学長と2人の副学長が女性です。執行部の約4割を女性が占めています。男性の教職員にもジェンダー平等の意識が根付いているため、運営は非常にしやすいです。社会で女性が活躍するためには、こうした共通認識の有無は大きく影響すると思います。
片桐(AERA) 竹安学長が初の女性学長なのですね。
竹安(京都女子) はい、卒業生から「待っていた」「先生が学長になったから、私も管理職に挑戦することにした」などの声をたくさんいただきました。身近に女性管理職がいるという環境が、学生や働く女性に勇気を与える、よいロールモデルになると感じています。
小室(金城学院) 私も本学初の女性学長なのですが、これまで大学運営においてアンコンシャス・バイアスを感じたことはありません。そういった学風だからこそ、学生に対するキャリア支援でも「女性はこうあるべき」という思い込みにとらわれないような指導ができています。学生たちは4年間かけてしっかりと自律する姿勢を養い、自分が希望するライフスタイルを見据えた就職を考えるようになります。
佐々木(お茶の水女子) 私は5代目の女性学長です。本学も、意思決定機関である執行部の半数近くが女性なので、大学運営において男女両性の意見や考え方を十分に反映することができています。こうした環境もあり、学生や教職員が自然にリーダーを目指す雰囲気が醸成されていると思います。
昨年の121位から一つ順序をあげたものの、日本は主要7カ国(G7)、東アジア・太平洋地域で最下位だった。「ジェンダーギャップ指数」は、「政治参画」「経済参画」「教育」「健康と生存率」の4分野で男女格差を数値化し、国別に比較したもの。日本は、教育(92位)と健康(65位)のスコアが比較的高い一方で、政治(147位)と経済(117位)のスコアが低く、なかでも、目立ったのは「政治参画」に関する女性にまつわる順位だ。
WORLD ECONOMIC FORUM『Global Gender Gap Report 2021』より作成
木村(富士通) 当グループでは部下の成長の機会を奪わないよう、上司に向けた気づきのセッションがあります。女性に対しては、管理職という選択肢は魅力的なものだと気づけるようなワークショップなどを実施しています。
宗田(ファーストリテイリング) 私自身は当社で働く中でガラスの天井のような壁は感じたことがありませんが、それはトップの意識も大きく影響していると思います。平等で公平であるという社内文化が形成され、浸透していると感じています。
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片桐(AERA) 現状では女性管理職は少数派です。今後、女性がリーダーとして活躍するために必要なことは何だと思いますか?
竹安(京都女子) コロナ禍で社会は一変し、リモートワークなど働き方の選択肢も広がりました。でも、家庭内役割は変化していないので、結果として女性の負担は増加しています。家庭内での性別による分業意識を変えない限り、本当のジェンダー平等は実現しないのではないかと思いますね。女性が活躍するためには、管理職が自己実現をする上で魅力的な選択肢であるという認識が広まるだけでなく、家事育児は要点だけおさえ、あとはアウトソーシングすればいいといった意識改革も必要ではないでしょうか。
佐々木(お茶の水女子) そうですね。社会すべてが男女双方にとって公平で平等であることが真のジェンダー平等だと、私も思います。本学では、ライフイベントや介護等に直面している研究者支援を男女問わず行っていますが、近年男性の取得率も高くなっています。
小室(金城学院) 日本の社会におけるアンコンシャス・バイアスは、女性にも男性にも内在していると思います。それらを取り去り、女性が活躍しやすい社会になるためには、女性だけが問題意識を持つのではなく、男性にも学んでもらう必要があると考えています。
木村(富士通) 働きやすい環境や制度はもちろんですが、「飛び込む勇気」も大切です。女性は準備や環境が整わないと臆したり、自分自身の力を過小評価したりしがちですが、タイミングを逃さず、自らチャンスをつかみ取ってほしいと思います。
宗田(ファーストリテイリング) 高いスキルやポテンシャルがあるのに、リーダーや管理職にチャレンジすることをためらう女性は多いですね。企業側も背中を押す工夫を続け、女性の意識改革に取り組む必要があると思います。
就業者に占める女性の割合は、諸外国と比較して大きな差はないが、管理的職業従事者に占める女性の割合は諸外国と比べて低い。2014年の11.3%からすると14.8%となり近年着実に上昇しているものの、依然としてとても低い水準にある。
内閣府『 男女共同参画白書 令和2年版』より作成
日本の上場企業の役員に占める女性の割合は、2019年に1.1ポイントアップしており、過去最大の伸び率に。確実に上昇傾向にあり、今後ますます大きく伸びていくことが期待される。
備考 1.東洋経済新報社「役員四季報」より作成 2.調査対象は、全上場企業(ジャスダック上場会社を含む) 3.調査時点は原則として各年7月31日現在 4.「役員」は、取締役、監査役、指名委員会等設置会社の代表執行役及び執行役
(内閣府『 男女共同参画白書 令和2年版』より作成)
自分の意見を持ち行動する力が未来を拓く
片桐(AERA) 社会全体で、リーダー候補として女性への期待は高まっています。学生にはどんな人に育ってほしいと考えますか?
小室(金城学院) 女性がリーダーとなるためには、幅広い教養、高度な専門知識、的確な技能の習得はもちろん、自ら考え行動する力や芯の強さが必要です。同時に他者を思いやる心、人に寄り添える優しさがなければ真のリーダーとは言えないと考えます。本学の教育スローガンである「強く、優しく。」という姿勢は、しっかり伝承し、ジェンダーギャップに関する学びの機会を増やしていきたいと思います。そして学生自身の中にある「女性はこうあるべき」という無意識のバイアスを自覚してもらい、その悪影響を受けることなく、自分の強みを生かして社会に貢献する方法を考え、行動ができるよう、導いていきたいですね。
佐々木(お茶の水女子) 男女を問わず、いつでも誰もがリーダーになれるわけではありません。ですから、若い世代にはリーダーであっても、フォロワーであっても、目の前の課題から逃げず、自分を信じて行動できる人になってほしいと思います。本学には社会に根強く残っている男女の役割意識から解き放たれ、自由な雰囲気の中で伸び伸びと学べる環境が整っています。自ら責任を持って、いろいろな活動にどんどん挑戦してほしいと思います。その経験が、社会に出たとき、変化に柔軟に対応する力、直面した困難を解決する力になると考えています。
竹安(京都女子) 学生には「社会人になるということは、社会に貢献する立場になるということ、その責務を自覚してほしい」と常に伝えています。全員がリーダーになる必要はなく、さまざまな分野でそれぞれ活躍してほしいですね。活躍というのは、自分の意見を持ち、必要なときにしっかりと発信できること、そして自分が正しいと思ったことを行動すること。学生である彼女たちが自己実現を追求していくことが、何十年後かの日本の幸せな未来につながるのだと思います。
片桐(AERA) 企業としてこれからの学生に期待していることはどんなことでしょう?
木村(富士通) 私の周りを見ても女子大出身者にはリーダーが多いと感じていましたが、お話をうかがい自律心を重んじた教育の結果なのだと理解できました。自由にのびのびと教育を受けたみなさんが、社会で自分らしいキャリアを実現できるよう、しっかり環境作りを進めます。
宗田(ファーストリテイリング) 全員が管理職というポジションに就く必要はなく、リーダーマインドを持って働くことが大事なのだと思います。主体性があり、自立していて、自分の頭で考えて発言できる。そうしたスキルを磨いてキャリアを築いていったり、自己実現につなげていったりしてほしいと思います。
片桐圭子の編集後記
コロナ禍の1年が過ぎ、リーダー像や女性の働き方は、より多様に変化していると感じました。リモートワークなど働き方の選択肢が増えたことは女性にとって追い風と捉えてよいと思います。女子大学では学生一人ひとりを尊重した柔軟な教育をしていることも心強く感じます。自立心や行動力のある学生たちに会いたくなりました。
お茶の水女子大学
女性リーダーを輩出し続ける国立女子大学
1875年の創設以来、常に社会に必要とされる高度な教養と専門性を備えた女性リーダーを育成するとともに、女性のライフスタイルに即応した教育研究のあり方を開発・実践している。ジェンダーフリーな環境下で、学ぶ意欲のあるすべての女性たちの夢の実現のために尽力している。
京都女子大学
古都・京都で心豊かな女性を育む
歴史と伝統が息づく京都東山の地で、仏教精神を礎に「心の教育」を施し、心豊かな女性をはぐくむ女子総合大学。文学部、発達教育学部、家政学部、現代社会学部、法学部の5学部に、全国各地から学生が入学している。令和5年4月よりデータサイエンス学部(仮称)を開設予定(設置構想中)。
金城学院大学
女性の人生を考えた教育や
キャリア支援を実践
学院創立1889年(大学設立1949年)の東海地区を代表するプロテスタントキリスト教系女子総合大学。「強く、優しく。」を教育スローガンに、女性の生き方、多様化する働き方などを学びながら、自分らしい人生を送るための知識とスキルを養い、さまざまな分野で活躍する人材を育成する。