釈放後、両親と妻と会った安田純平氏(提供)
釈放後、両親と妻と会った安田純平氏(提供)

 K氏は2018年8月、日本の公安調査庁の男性職員S氏から「日本国内のテロ関連の情報について話を聞きたい」との電話を受け、埼玉県内で面会している。初対面だった。

 話はあくまで日本国内についてだったが、「話の流れ」(両氏)で2015年にシリアでイスラム国(IS)に殺害された後藤健二さん、湯川遥菜さんの話題になった。「IHHは2人を救けようと動いたんですよ」と言うK氏にS氏は「実はもう1人シリアで拘束されている。どうにかできませんか」と私の名前を伝え、「捕まえている組織は分からないが、ヌスラ戦線ではないかという話が…」と続けたという。

 K氏は私の件を知らなかったというが、これをS氏からの「依頼」と受け取り、すぐにトルコのIHH本部の人道外交担当理事に連絡を取った。後藤さん、湯川さんの件では、報道で事件を知ったK氏が自身の判断でIHHに相談したが、「ISに人脈がないので難しい。やってはみるが確率は低い」という反応で、その後、IHHから何も情報がないまま2人は殺害された。しかし私の件では「ISでないなら何とかできるかもしれない」と前向きな回答を得たという。

 S氏が挙げた「ヌスラ戦線」はアルカイダ系組織で、2013年にISと分裂してからは交戦状態となった。2016年にはアルカイダからの離脱を宣言。2017年に他の組織と統合して「ハイヤト・タハリール・シャム(HTS)」へと改組している。

 K氏が同理事からのメッセージを受け取ったのは2018年9月12日の午後10時過ぎだった。「どこにいるのかが分かった。身代金なしで2日後には解放される。日本政府か家族の許可がなければ話を進められないので、すぐにもらってほしい」というものだった。

 翌13日、K氏が電話でその旨を伝えるとS氏は「頼んでいませんが」と言った。K氏は「頼まれたから動いたんですが」と食い下がった。S氏は「分かりました。上司に聞いてみます」と述べて電話を切った。しかし2~3時間たっても連絡がなく、K氏が再び電話するとS氏は「この件は外務省が担当しており、公安調査庁の仕事ではないので外務省に聞いてくれますか」と告げた。

 埒のあかない押し問答になった。

「そちらからお願いしてきたのだから、そちらから外務省に聞いてください」(K氏)

「お願いはしていません。話の流れで言っただけで、救けてくださいと言ったわけではありません」(S氏)

「なぜそんなこと言うんですか」(K氏)

「お願いしていませんから」(S氏)

「では外務省のどこに連絡すればよいのですか」(K氏)

「分かりません。ご自分で調べてください」(S氏)

次のページ
「外務省以外は動くな」と上司が…