ベトナムに帰った時にも生かせるようなスキルが身に付けば理想的ですが、実際は技能の習得につながらないような、単純作業や過度の肉体労働が目立ちます。

日課となる勤行を後え、元実習生らに語りかける(撮影/飯塚大和)
日課となる勤行を後え、元実習生らに語りかける(撮影/飯塚大和)

人手不足解消という面からベトナム人を必要としているのならば、「実習生」ではなく「労働者」として日本で働く環境を整えた方が、お互いのために良いのではないかと思います。給料は日本の生活水準に合わせた額にして、生活を安定させてあげてほしいです。

実習先で具合が悪くなっても病院に連れて行ってもらえず、死んでしまった例はこれまで何度もありました。こんな状況で、実習生たちの人権は、一体どこにあるのか……。専門家の方々は「実習生制度は現代の奴隷制度のようだ」と指摘することがありますが、私は同じベトナム人として、多くの実習生が奴隷のような扱いを受けているという状況は本当につらいですよ。

——残念ながら、実習生たちによる犯罪も起きています。昨年、窃盗などの刑法犯で検挙されたベトナム人技能実習生は681人。金銭トラブルによる仲間どうしの殺人や、生まれたばかりの双子を遺棄した悲しいニュースもありました。

犯罪のニュースが出てしまうのは、ベトナム人として恥ずかしいです。ベトナムには「貧しくても気位を高く持って生きるべきである」といった意味のことわざがあります。生活に困っているとはいえ、お金がないから犯罪を起こすというのは理由になりません。

ただ、彼らの状況にも目を向ける必要はあると思います。実習生は来日する際に、送り出し機関やブローカーなどへ100万円近くの手数料を払う場合が多く、大半の人は借金を抱えていて、今も返済しきれていない子もいます。母国の給与水準で考えると、100万円はベトナム人の感覚としてはとても大きな額です。

そのまま帰国すれば 家族への送金も十分にできないまま借金に苦しむことになる。後戻りできない状況なのです。給料が入っても返済にあて、手元に現金がほとんどないような状態です。コロナの影響で仕事や住居を失い、生活困難になってしまう実習生も多くいます。彼らが法律に準じ、人間らしく生きられるような環境を整える必要があると思います。

――政府の支援は十分とは言えず、大恩寺をはじめとするボランティアに依存しているような状況です。

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タム・チ―さんもコロナと腫瘍で「ぼろぼろでした」」