硫黄島の南約60キロ、「南硫黄島」の近くにあるのが、海底火山「福徳岡ノ場」だ。
21年8月に起きた巨大噴火は、1914年の「桜島」(鹿児島県)の大正噴火に次ぐ、明治以降の国内での最大級の噴火だった。大量の軽石が沖縄県や鹿児島県から東日本までの各地の海岸に漂着し、漁業被害などが問題になった。
火山活動が相次ぐ伊豆諸島、小笠原諸島。これらは偶然が重なったのか。それとも関連があるのか。
「すぐ隣の火山を除けば、伊豆・小笠原の火山のマグマはそれぞれ異なる組成をしており、地下のマグマはつながっていない、と理解されています」
と防災科研の長井さんは説明する。
ただ、連鎖的に噴火が起こったのでは、と感じたこともあったという。
「2021年8月12日から硫黄島沖で海底噴火が始まった翌日、福徳岡ノ場が噴火して、14日に西之島も噴火した。ほぼ同時に噴火したということで、何かあるんじゃないかと思うのですが、具体的に何がどう波及したのかはまったくわからない。地殻変動の影響を受けたような証拠もありません。ただ、疑問に思っている人は多いと思います」(長井さん)
急速に「隆起」している硫黄島
伊豆諸島、小笠原諸島の島々は、一つひとつ見ると小さく感じられる。
小笠原諸島の硫黄島も一見すると小さな島だが、実は海底からそびえる富士山のような大きな山の頂上部分だ。
かつては巨大な火山があり、10万年より新しい時期の大噴火に伴って山頂部が直径約10キロのすり鉢状に陥没。「カルデラ」が形成され、水面下に没したとみられている。
その後、カルデラ内で溶岩や火砕流が噴出し、ドーム状に隆起した部分が500~800年前に海上に現れた。それが硫黄島の大部分を占める元山と呼ばれる台地だ。
現在の元山台地とそれを囲むカルデラ縁の間の地下には割れ目があり、それに沿ってマグマが上昇し、今回の噴火が起こったと長井さんは推測する。
そして硫黄島は現在、1年で約1メートルという世界にも類を見ない速度で隆起している。