バルサアカデミーにはバルセロナから派遣されたスペイン人が常駐。サッカーを通して「五つの価値観」を育む(撮影/菅野浩二)
バルサアカデミーにはバルセロナから派遣されたスペイン人が常駐。サッカーを通して「五つの価値観」を育む(撮影/菅野浩二)

 滞在するホテルの前で品川大井町校のメンバーたちが試合会場に向かうバスに乗り込む。2人の少年が集合時間に遅れて姿を現すと、ヘスースさんは強い口調の英語で日本人コーチに「遅刻はメンバー全員に迷惑がかかる。あとで2人にきちんと注意するように」と伝えていた。「チームワーク」「敬意」「謙虚さ」に欠ける行為だからだろう。

 バルセロナにはアカデミー同様に人間教育にも力を入れる「ラ・マシア」と呼ばれる育成組織があるが、そこで育ったリオネル・メッシやアンドレス・イニエスタ、さらには久保建英らも同様の光景に遭遇したことがあるかもしれない。「バルセロナが主催する国際大会は、各国のアカデミーの『五つの価値観』を再確認する場です」と浜田さんとヘスースさんは口をそろえる。

 こんな場面があった。

 U-11で品川大井町校がムンバイ校を10-0で下した試合後のこと。正真正銘の快勝だったにもかかわらず、メンバーの輪で一人だけ涙を流している小学4年生がいた。3試合を終えてチームは計17得点。でも、攻撃陣では自分だけまだゴールを決めていない。悔しさからか、一向に泣き止むことのない少年。だが、チームメートがその肩を抱きながら「お前のアシストのおかげで勝てたんだよ」「明日の試合は俺がお前にアシストするよ」と、声をかけた。

 泣きべそをかいていた少年は、翌日の試合でついに得点を挙げた。ピッチにいる選手だけでなくベンチの仲間もコーチも一緒になって喜びを爆発させた。その少年はさらにゴールを重ね、勝利に貢献。前日、目を腫らしたアタッカーに向かって、チームメートの一人が「俺、お前のゴール、自分のことみたいにうれしかったよ」と笑顔を浮かべていた。「野心」を持った仲間の「努力」を認め、そのひたむきな姿に「敬意」を表し、「チームワーク」を高めていく過程は、掛け値なしにさわやかだった。

サッカーより先に生活態度を評価

 国際大会終了後には、各選手ともコーチによる評価シートが配られる。サッカー面より先に生活態度が3段階で評価され、「コーチに指摘されても、前向きに受け止めることができた」や「自分に厳しくできた」「移動中、団体行動ができた」といった「生きる姿勢」も見定められる。

 アメージングスポーツラボジャパンの留学事業部に在籍するオビオルス・フェランさんは、母語のスペイン語に加え、英語と日本語を話せるため、通訳兼コーディネーターとして海外遠征に帯同する機会が多い。短期間ながら異国の地での経験が子どもたちの成長をぐっと進めると実感している。フェランさんは言う。

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