「昨年、この街にあった書店が閉店してしまって困っていたんです。コンビニに書店があれば、ランチを買うついでに寄れるので便利ですね」
「駅の近くだから、通勤や買い物の途中に寄れるのでうれしい」
「小さな子どもがいるので、徒歩圏内に書店があるのは助かる。雑誌は手に取って実物を見て買いたいから」
学生、近くに住む夫婦、子連れ女性は口々に語った。今年1月、ローソン向ヶ丘遊園南店(神奈川県川崎市)が、書店併設型店舗「LAWSONマチの本屋さん(以下、マチの本屋さん)」としてリニューアルオープンしたのだ。
書籍の販売不振やインターネットでの書籍購入の拡大などによって、街の書店は廃業が相次ぎ、全国1741市区町村のうち456市町村は書店数がゼロだという(2022年9月現在、出版文化産業振興財団調べ)。
書店の相次ぐ閉店は過疎地域とは限らない。この店舗から徒歩約1分にある向ヶ丘遊園駅は新宿から電車で30分弱、近くに大学もある。通学路となっている同店前の道路は、1日のべ約1万人が通行するという。
にもかかわらず、近辺に書店がない。
マチの本屋さんは、書店とのコラボレーション(経営はそれぞれ別)ではなく、ローソンが出版取次の日本出版販売(以下、日販)と連携して展開するブランドとして21年にスタートした。日販は従来、ローソンの出版物の物流を担ってきた経緯があり、マチの本屋さんでも選書やシステム提供、物流などを行っている。加えて、かねて書店とのコラボ出店を手掛けてきたスリーエフ(16年からローソンとの合弁企業エル・ティーエフを設立)の知見も生かす。
たとえば向ヶ丘遊園南店は学生が多いということもあり、資格試験に関する本の品ぞろえに力を入れている。限られた売り場のため大型書店のように網羅的な売り場ではないが、そのぶん、その地域に合った選書を行う地域密着型。棚になければ気軽に取り寄せることもできる。子どもからシニアまで誰でも行けて、誰にでもやさしい、まさしくマチの頼れる本屋さんなのだ。
ローソン エンタテインメントカンパニー シニアマーチャンダイザーの平野彰宏さんは言う。
「今の書店はショッピングモールや駅ナカにあることが多いのですが、なかなかそこまで行けない方も多いですし、電子書籍やネット通販の扱いに不慣れな方も多い。コンビニの利点はお客さまとの近さ。コンビニに書店を設けることによって、シニアの方の来店が増えました。また以前と比較して女性のお客さまも約10%増加。書店部分への来店は女性が多いと聞いています。24時間営業というコンビニの集客力を併せ持つことで、書店だけでは経営が難しい立地でも営業が可能になる。コンビニとしても他店と差別化し、強みになると考えています」
平野彰宏さん
エンタテインメントカンパニー
シニアマーチャンダイザー
「周辺人口に対して書店数のバランスを考え、書店部分の売り場スペースが確保可能か検討して出店しています」
近隣の人々にとってもオーナーにとってもいいことずくめだが、難しい点もある。店舗スタッフへの新規業務の教育だ。従来も雑誌などは扱っていたが、取り扱う数も種類も大幅に増加するため、売り場のどこに並べるべきか、返本する際はどこから抜き取るのか、新たに業務を習得しなければならない。取り寄せの対応や図書カードの扱いも加わる。だが、そこは日販の営業担当者がフォロー。定期的に店を訪れ、売り場づくりのアドバイスや、返本忘れがないか確認し指導を行う。
ただでさえ忙しいコンビニ。書店業務が加わると求人応募が減ってしまうのでは……と思いきや、これまでオープンしたマチの本屋さんでは「本を扱っている店舗だからこそ働きたい」という応募者が少なくないという。
今後は書店数ゼロの自治体との協力も考えている。すでに「我が街にも出店してほしい」という依頼がいくつかの自治体からきているという。またコンビニ内の書店ならではの、楽しいキャンペーンなどを企画中だ。
「ローソンには『私たちは〝みんなと暮らすマチ〟を幸せにします』というグループ理念があり、全国に店舗網を持っています。この理念に沿って、出版物という文化的価値のあるものを全国に届けていきたい。私が小さい頃からあった、地域の人に親しまれる街の本屋さんのような存在になっていけたらいいですね。24年度中の100店舗達成に向けて出店を加速し、全国のマチを幸せにできればうれしいです」(平野さん)
冒頭で感想を語った来店者は、みな本を抱えて笑顔を見せていた。
資格本やビジネス書に力を入れ、学生のニーズに応えるほか、子ども向けの雑誌や絵本もそろえる
412.7㎡(約124.8坪)ある店舗のうち、書店部分は84㎡(約25坪)。雑誌・コミック・絵本・文庫本・小説・ビジネス書・新書など約6千タイトルをそろえる