平日午後3時、ローソン中央晴海三丁目店(東京都中央区)にはトイレの列ができていた。この店舗を含む関東3店舗では、障がい者福祉施設「PICFA(ピクファ)」のアート作品がドア、壁、天井と全面を彩るアートトイレを展開している。
「近辺は再開発工事が多く、もともとトイレの利用頻度が高い店舗。アートトイレに最初は皆さんびっくりされますが、イラストの中に『THANK YOU』というメッセージがあるせいか、以前に比べてきれいに使ってくださる方が増え、管理がしやすくなりました。このようなドキドキ・ワクワクも新しい提供価値になると思います。もちろんそれが購買につながれば幸いです」(同店を経営する株式会社タカの木村瑛太さん)
トイレを利用した男性客に感想を聞くと「コンビニは地域のインフラとして定着している。こういった美しく楽しいトイレはありがたい」と教えてくれた。
アートトイレを企画したSDGs推進室 アシスタントマネジャーの合田早紀さんは、「作品を知ってもらうことで、障がいのある方の支援・働きがいにつなげていきたい」とし、コンビニのトイレの役割について次のように語る。
「ローソンでは1997年、コンビニ業界で初めて『トイレ開放宣言』を行いました。高齢者や障がいのある方は外出時にトイレに不安を抱えているという調査結果があります。コンビニのトイレは、そのような方々への支援となっていると考えています。店内にあることからいつでも安心して利用でき、災害時にはセーフティステーションとして開放されるなど、インフラとしての役割も果たしています」
障がいによっては外出先など環境が変わると、急にトイレに行きたくなることがあるという。そうした困りごとも見過ごすことなく、細やかに対応する。トイレ開放はそうしたローソンの姿勢の表れであり、SDGsの「安全な水とトイレを世界中に」を考える端緒ともなる。
広大な駐車場がある大和南林間五条通り店。店内は広く、トイレもゆったりとしていて、車椅子での使用はもちろん、オムツ替えもできる。
神奈川県大和市では、公共トイレの設置費用の削減や夜間の安全性などを考慮し、公共トイレ設置の要望が多い場所にあるコンビニに声をかけ、協力店を募集。同店は昨年3月、この「公共のトイレ協力店登録事業」に応じた。
店舗を経営する廣岡義隆さんは、この取り組みにあたり、市に対して店前に貼るステッカーの大きさなどのアドバイスを行ったという。
「素晴らしい取り組み。コンビニはその名の通りお客さまに『便利』をご提供しています。ただ『何か買い物をしないと借りられないのではないか』と不安に思う方も多いと聞きました。もっと自由にご利用いただける、ということを知っていただきたいです」(廣岡さん)
廣岡義隆さん
合資会社コンビニエンスサービス
代表
神奈川県大和市や他市を含め、19店舗を経営。そのうち大和南林間五条通り店を含め、市内4店舗が公共トイレの協力店となった
市からは1店舗あたり年間200ロールのトイレットペーパーの支給はあるが、200ロールでは到底足りない。補助金はない。追加のペーパー代、上下水道代は店舗持ちだ。清掃の負担も倍増した。
「トイレの利用増加にともない、もともと1日4回だった掃除が8回に増えました。ただ回数が増えることで、美しさが維持できているというメリットがあります。また今までは『商品を買わないから』という思いからか、黙ってこっそりトイレを使ってらっしゃった方もいましたが、今は『トイレを借りたい』『ありがとう』と伝えてきてくださる方が増え、うれしく思っています」(同)
前出の合田さんは入社前、ローソンのトイレ開放宣言のテレビCMを見て、「おもしろい会社だな、新しいことをどんどんやっているな」と感じたという。本部社員は入社後、多くが店舗勤務を経験。その際、レジ業務より何よりも先に学ぶことが、挨拶と掃除の大切さ。そのためトイレには思い入れが強い。
「今後もトイレの課題への取り組みを継続し、積極的に発信していきたい」(合田さん)と意欲的だ。
ローソンの竹増貞信社長も同様だ。社長は2019年から全国の店舗を回り、トイレ掃除をする活動を続けている。社長自らゴシゴシと掃除をする姿を目の当たりにし、トイレ掃除に対するモチベーションが格段に上がったという従業員も多い。
ローソンのトイレは「安心」という商品。いつでも大切に維持管理されている。
「トイレの日」と「世界トイレデー」にあわせ、トイレの大切さと利用者・店舗双方に感謝を伝える約1分半の動画を配信中(今年2月27日まで)
「THANK YOU」と描かれたカラフルなアートトイレ。ローソン全店舗でトイレ利用者は1日約100万人。長期休暇中や年末年始などにニーズが高まる