日中のパフォーマンスアップのため、充分な睡眠時間を確保したい。しかし時間に追われる毎日だと、睡眠時間は短くなりがちだ。日頃の睡眠不足を解消しようと、週末に「寝だめ」している人も多いだろう。だが、それが不調を招く原因になると、江戸川大学睡眠研究所所長の福田一彦教授は説く。
「適切な睡眠時間をとることは休息に不可欠ですが、体内時計が乱れて正しく動かなくなることも、実は非常に深刻な問題なのです」
福田教授が2019年に「Sleep Мedicine」誌に発表した論文に、興味深い調査がある。この調査では、未就学児がいる家庭を複数のグループに分けて比較した。その結果、平日は早寝早起きで週末だけ朝寝坊しているグループは、平日も休日も遅寝遅起きのグループに次いで悪い結果となったのだ。
「週末の朝寝坊で生活サイクルが後ろ倒しになってしまうと、時差の大きい国に海外旅行をした時のような、体内時計のずれが生じます。これは『社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)』という状態です」
だるさや頭痛、突然の眠気、不眠など、時差ボケのような不調が週の半ばまで続くことも。「寝だめ」は体内時計を狂わせる要因になるという。
仮眠の取り方にも注意が必要だ。
「午後の1時から3時の間は、眠気を感じやすい時間帯です。だからといって寝過ぎてしまうと、夜の睡眠に影響します。どうしてもつらいときは、横にはならず椅子に座った状態で、15~20分程度の仮眠をとりましょう」
しっかり睡眠をとっていても、午後は眠くなりやすいという。この時間帯は機械的にできる作業に当てるなどしてやり過ごすのも手だ。少し時間が経てば、眠気は自然とおさまっていく。福田教授は言う。
「睡眠に関わるホルモンは複数あり、それぞれ異なる働きがあります。眠ることで出るもの、夜になれば出るものなど分泌の条件も違うので、一日の生活サイクルを乱さないようにしましょう」
福田教授が考える「良い睡眠」とは、すっと寝つけて朝まで気持ちよく眠り続けられること。それを導くのが「光」と「温度」だという。
「目から入る光は、睡眠に大きな影響を及ぼします。寝つけない最大の原因は明るすぎる照明です。パソコンやスマートフォンなどの液晶画面の光よりも、部屋全体を照らす明かりのほうが、睡眠にはずっと影響力があります」
福田教授によると、白く明るい照明が一般的な日本・台湾・韓国は睡眠時間が短く、暗めのオレンジ色の間接照明が好まれる欧州諸国は、睡眠時間が長い傾向にあるという。日本は経済協力開発機構加盟の30カ国のなかで最も睡眠時間が短く、大人の平均睡眠時間は7時間22分だ(同機構、19年発表)。労働時間や生活習慣、娯楽環境など、睡眠を妨げる要因は多々あるが、夜の照明を変えることでうれしい変化があるかもしれない。
「もう一つの鍵は温度です。体の奥の体温が下がると、自然と眠くなります。就寝の2時間前までに40度以下のぬるめのお湯につかって体温を上げると、入浴後、手足から熱が放散され、体の奥の体温が下がっていきます。入浴は眠りのテクニックの一つです」
寝室の「空調」にもポイントがある。特に夏は寝ている間はずっとエアコンをつけたままにして、快適な温度や湿度を保つといい。タオルケットではなくうすめの掛布団がベスト。室温が高く30度近くなると、放熱できずに体温が上がったままで、夜中に何度も起きてしまう場合もある。福田教授によると、夏の室温は26度程度、湿度は50〜60%がひとつの目安になるという。
「いつもより1時間早く横になったとしても、『寝るぞ!』と意思を強く持ったところで、なかなか寝付けるものではありません。けれど、環境と生活習慣は自分の意志で変えられます」
生活のリズムを守ること、仮眠の取り方、入浴、照明、空調など、すぐに取り入れられるテクニックはたくさんある。積極的に試して、「より良い睡眠」につなげよう。