そもそも文政権が徴用工問題を持ち出したのは、韓国の経済が悪化して、文政権の支持率が落ちるのを止めるためであった。

 どの国でも、政権の支持率が下落すると、それを止めるために前政権の政策を強く否定する。たとえば、米国のトランプ大統領は、民主党のオバマ前大統領の政策を全面的に否定している。TPPやイラン核合意の否定など、数多くある。

 文大統領も、朴槿恵前大統領が日本政府との間で結んだ慰安婦合意を全否定した。しかし、それでも支持率低下が止まらなかったので、徴用工問題を持ち出したのである。

 原因は、韓国の経済が悪化したことなのだ。日本政府が、半導体の輸出規制強化や輸出優遇国からの除外などを行えば、韓国の経済はどんどん厳しくなる。いわば追い詰められた文政権がやってしまったのがGSOMIA破棄宣言だったのである。

 文政権を追い詰めたのは日本政府なのである。そこで、最悪の日韓関係を本気で修復しようとするならば、文政権が来春の総選挙で勝てる手立てを提言すべきではないか。

 実は、数週間前に自民党の二階俊博幹事長に「こんなときこそ、党は主体的に、積極的に韓国と交渉すべきだ」と話した。すると、「その通りだと思う。やろうと思っています」と答えた。今後の展開を注視したい。

週刊朝日  2019年12月13日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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