西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、金足農・吉田輝星投手の投球術について解説する。
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100回大会となった夏の甲子園。私自身、これだけテレビに釘付けになった大会はなかった。高校球児の可能性を感じ、野球の持つ素晴らしさを再確認することができた。選手たちに感謝の思いでいっぱいだ。
連日行われたレジェンド始球式も、高校野球が築き上げてきた歴史を感じる素晴らしいものだった。連日の酷暑で、足をつる選手、熱中症の疑いのある選手も続出した。大会運営のあり方という意味でも、いろいろな意見が出ている。そしてタイブレーク。今大会は2試合出たが、真剣勝負の中に人為的な形で得点を生まれさせようとすることが果たして良いのかどうか。これだけ勝者と敗者に、それぞれの思いの詰まった戦いがある高校野球だからこそ、正解はないと思う。
その点については、来年の大会までいま一度、運営のあり方とリンクして考察すべきだろう。間を置くことなく、議論を継続してほしいと思う。
今大会も、体が大きくて強いスイングができる選手が多いことを痛感させられた。準優勝した金足農の送りバントやスクイズといった作戦がこれだけクローズアップされるのも、高校野球全体でバントを用いるチームが少なくなったからこそである。昨今のウェートトレーニングの浸透によって、プロ顔負けの打球を飛ばす選手が増えている。
そして、都会の強豪校と地方の球児の野球への理解の深さに差はなくなった。今は映像でプロ選手の技術を吸収できる時代。金足農の吉田輝星投手の試合のポイントを見極める力は、教えられてすぐにできるものではない。
一人でマウンドを背負う責任感が「ギアチェンジ」といった形で、省エネで頭を使った投球術を生んだのかな。甲子園決勝までの道のりを見据え、一人で投げ抜くにはどういった力の配分をすべきか。プロと違って確固たるデータがそろうわけではないだろうが、洞察力を持って打者と対峙(たいじ)していた。