開幕2軍スタートが濃厚なソフトバンクの松坂大輔投手。エースの看板を背負う松坂に東尾修氏は助言を送る。

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 プロ野球は各球団ともに、1軍メンバーを絞り込む時期に入った。3月25日の開幕まで2週間を切ると、開幕戦を前提にした打順で戦うようになる。開幕ローテーション投手は5番手、6番手あたりを除き、もう決まっている。

 ソフトバンクでは、右肩手術からの復活を目指す松坂大輔投手が、開幕ローテーションから外れそうだ。工藤公康監督が本人と話し合ったうえで決断したのだろう。私も賛成だ。2月上旬に宮崎キャンプを視察した際、工藤、大輔本人と3人で話す機会があった。ブルペン投球を見た後だったから、大輔にも率直な感想を伝えたよ。

 グラブを持つ左腕をうまく畳めず、左肩の開きが早い。そのため右腕をうまく制御できず、両腕が伸びて開いていた。いわば伸びっぱなしのゴムのような状態。本来は、弾力性がないといけない。縮む動作がないと力をためることができず、右腕を力任せに振り回す投げ方になる。

 肩を痛めた「後遺症」としての恐怖心が残っている感じだった。本人も「やろうとしてもできない状態です」と話していた。シャドーピッチングでは理想通りに投げられても、ボールを投げる際に無意識のうちにかばってしまう。体を開くほうが、投げる動作は楽になるからね。ただ、その意識を克服できなければ、球のキレは出てこない。

 私は「しばらくブルペン投球、しかも立ち投げでフォームをじっくり作ったらどうか」と伝えた。本人は打者を立たせて投げることで調整する道を選んだようだ。時間がかかることは本人も承知している様子だった。

 
 昨年、100球近く投げた試合が一度もない。一昨年のメッツ時代も主に救援待機だったから、先発投手としての肩のスタミナは失われている。その点でも、じっくりと作りあげていく必要がある。

 開幕ローテーションに入るなら、オープン戦で最大5イニング、80球前後を投げた状態で開幕を迎えなければならない。肩のスタミナがない状態で、公式戦でいきなり100球を投げたら、故障のリスクも高まる。ならば、4月いっぱいを2軍戦で「中6日、100球」という条件で何試合か投げ、しっかりと球数をこなすことだ。準備を整えて1軍に上がれば、ずっとローテーションに入ることができるだろう。

 年5~6勝で、谷間を埋めるだけの投手であればこんなことは言わない。彼は高校時代からエースとして投げてきた「松坂大輔」という看板を背負っているのだ。中途半端な形で1軍で投げて、ファンを失望させるわけにはいかない。ソフトバンクという日本一の軍団は戦力が整っているから、慌てる必要はない。

 あとは、2軍の実戦で投げていく中で、どこで「もう大丈夫」というラインを設けるかだ。おそらく、2軍のコーチ陣では判断がつかないだろう。本人が踏ん切りをつけるしかない。

 一度、「大丈夫」との決断をしたからには、1軍ですぐに結果を残す必要がある。結果のないまま、いつまでも登板機会を与えられるほど甘い世界でないことは、本人が一番理解しているはずだ。

週刊朝日 2016年3月25日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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