ベンチから戦況を見つめる渡辺氏(04年夏の甲子園) (c)朝日新聞社 @@写禁
ベンチから戦況を見つめる渡辺氏(04年夏の甲子園) (c)朝日新聞社 @@写禁

 学校教育が完全週休2日となり、IT産業が全盛となった21世紀。携帯電話が普及し高校生の気質も大きく変わったというのは甲子園で5度の全国制覇を成し遂げた横浜高校野球部・渡辺元智氏だ。ノンフィクションライターの柳川悠二がその真意に迫った。

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 コミュニケーションをはかるのが極めて難しい時代になりました。加えて、教師の権威が薄れている時代でもあり、教師が生徒を頭ごなしにしかりつけることなどできず、生徒の人格を常に考慮しなければならない。すると余計に会話の仕方が大事となる。練習中に声をかけても、理解しているのか判断がつかないことも多いですし、全員の前でしかると傷ついて心を塞いでしまう選手だっています。

 野球では、練習中や試合中に円陣を組みますよね。私は選手と一緒にヒザをつき合わせて、必ず目線の高さを同じにして言葉を発するようにしています。彼らの目を見れば、私のアドバイスを欲しているかどうかや、取り組んでいる練習に疑心暗鬼になっていないかなど、すぐにわかります。私は気になる選手がいると、携帯電話にこんなメールを送ります。

「今日の練習はお前のためにやっているんだぞ」

 メールのやりとりだと、グラウンドとは違って「ありがとうございます」と、すぐに素直な反応が返ってきたりする。重要なのは、メールは会話のきっかけに過ぎず、大事な話は直接本人に口頭で伝えることです。やはり面と向かって話さないと、真意は伝わりません。現代ではこういう細かい配慮がなければ選手は付いてこないのです。

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