これだけ情報化が進みながら誤解は根強く、「角膜をとると三途の川が見えず渡れない」「腎臓がないと、あの世でおしっこができなくなる」といった考えがまかり通っている現実もある。ドナー(臓器提供者)の家族である福井県在住の森田弘幸さん(仮名・65歳)は通夜や葬儀の席などで亡き妻の臓器提供のことを公表した際の参列者の反応が忘れられない。

「『臓器提供は誰がしてもいいんだ』とか『絶対提供しないと思っていたが、考え方が変わった』などと言われたんです」

 臓器移植コーディネーターの中村善保さんが言う。

「家族に相対した印象は皆さん決して特別な方ではないということです」

 移植医療の現場に対して世間の理解はまだまだ不足している。実際には臓器提供をするか否かの希望はもちろん、脳死判定に立ち会うことも、臓器を見送ることも、希望すればかなう。移植者のその後の状況を知ることも可能だし、臓器の摘出手術前であれば途中でやめられる。

「誰かの役に立つなら」「体の一部でもいいから、どこかで生きていて」――。臓器移植を経験したドナーの家族の声を医療に生かす仕組みづくりが急がれる。

週刊朝日  2015年3月20日号より抜粋