さらに08年に国際移植学会で、移植が必要な患者の命は自国で救う努力をするという「イスタンブール宣言」が出された。安易な移植ツーリズムを牽制するものだったが、ドイツなどヨーロッパ諸国は海外からの移植希望者をほとんど受け入れなくなった。

 このように日本で移植医療がなかなか広がらない状況に加え、一般の人たちの理解不足も深刻と言わざるを得ない。今年1月、重い心臓病をわずらい4歳で脳死状態となった娘の臓器を提供した中島圭一さん(仮名・34歳)が明かす。

「私自身、当事者になるまで、臓器移植は『あいまいな検査のなかで臓器を取り出すのではないか』という少し隠されたネガティブな印象がありました」

 重い心臓病をわずらって移植待機者となった娘を救いたい一心だった。渡米して移植を受ける準備が整いかけたとき、娘は脳死状態に陥った。まだ元気な臓器を、自分たちと同じ苦しみのなかにいる人たちに生かしてほしい――。そう思えたのは、わずか3カ月ほどだったが移植医療の現場に身を置いたためだ。

「先生方は娘をとても尊重して真摯に対応してくれましたし、脳死判定などの検査結果にも納得できました。こうした事実を多くの人は知らないと思います」(中島さん)

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