優勝こそ逃したが年明け初戦の大会で素晴らしいプレーをした松山英樹選手。プロゴルファーの丸山茂樹氏は、あるショットが勝敗を分けたとこう語る。

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 正月早々、ロサンゼルスの自宅に戻ってきました。昼間の気温は20度ぐらいありますね。ゆっくり体を動かし始めたところで、ロスで3月中旬までトレーニングしようと思ってます。

 2015年の米PGAツアー初戦で、いきなり松山英樹(22)がやってくれましたね。現代(ヒュンダイ)トーナメント・オブ・チャンピオンズ(1月9~12日、米ハワイ州カパルアのプランテーション・コース)で1打差の3位でした。米ツアー2勝目はなりませんでしたけど、今年の活躍に大きな期待の持てる試合でした。

 何たって、ショートゲームのクオリティーが格段に上がってますよ。思いのままにピンに寄せ、パットを決めてました。

 ただトップタイで出た最終日は、少し様子が違いました。最終日最終組ですし、やっぱり優勝したいという気持ちが大きくなって、自分をコントロールしにくくなる。これはもう、経験を積んでいくしかないんです。

 出だしの2番ホールの第2打が右にプッシュアウトしたりして、なかなか波に乗れない。そんなときに7番でいいバーディーがきたんで、「さあ、乗っていくだろう」と思っていたら、9、10、12番あたりでパットのリズムが壊れた気がしますね。その間に、ライバルたちにパパッといかれちゃいました。

 それでも18番のバーディーパットが入れば、優勝したパトリック・リード、2位のジミー・ウォーカー(ともに米)とプレーオフという局面まで持っていったんです。

 
 あれは2メートルぐらいのパットでした。アドレスに入る直前に、強い向かい風が吹いたんです。突風ですよ。英樹はそのまま打って、左に外した。僕はテレビの前で「やめろ、やめろ」って叫んでました。いったん打つ構えをやめて、風がやむのを待ってもよかった。でも当事者だと、なかなかセットアップしたところからはやめられないものです。「あれがショットだったら、英樹はやめてたかなあ」と考えてみたり。本人のリズムってもんがあるから、何とも言えないけど、今度ウチへ遊びに来たら、そのへんを聞いてみたいですよね。

 それにしても、相当アプローチに磨きがかかってました。意識して練習を積んだんでしょう。ショットのクオリティーはもともと折り紙付きで、こっちのテレビのアナウンサーや解説者は「タイガー・ウッズを思わせる選手だ」って言ってました。僕も同感です。

「いままでの日本選手とはスケールが違う」なんて話もしてましたね。日本人といえば球が上がらなくて、飛ばなくてみたいな印象なんでしょうけど、英樹は違う。高い球を駆使して、パワフルなゴルフができる。現代のゴルフの申し子みたいなもんです。

 英樹は昨年末に日本ゴルフツアー機構の事務局を訪れて、昨年の国内ツアーで5試合の出場義務を果たせなかった制裁金を支払い、今年のシード権放棄を申し出ました。自分の体のキツさと相談して、今年も5試合は無理だと判断したんでしょうね。それでいいんですよ。英樹にとって、いま何が大事かという話ですから。それにしても出場義務の件は、もっと柔軟に考えてもらえないもんですかねえ。ほんとに。

週刊朝日  2015年1月30日号

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丸山茂樹

丸山茂樹

丸山茂樹(まるやま・しげき)/1969年9月12日、千葉県市川市生まれ。日本ツアー通算10賞。2000年から米ツアーに本格参戦し、3勝。02年に伊澤利光プロとのコンビでEMCゴルフワールドカップを制した。リオ五輪に続き東京五輪でもゴルフ日本代表監督を務めた。セガサミーホールディングス所属。

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