元西武ライオンズのエースで同チームの監督も務めた東尾修氏は、オリックスの金子千尋投手が国内FA権を行使したことについて、「抜け道」ではないかと厳しい意見をこういう。

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 オリックスのエース、金子千尋が国内FA権を行使した。フリーエージェント規約によると、国内FA権を行使しても、新球団と契約するまでは、旧球団(オリックス)の契約保留選手とみなされる。そのため、オリックスがポスティングにかけることに問題はないという。国内球団と交渉しながら、譲渡金に応じた大リーグ球団とも交渉できる。これって、海外FAとほとんど差がないよね。

 そもそも、日米の移籍に関するポスティング・システムとは、大リーグ移籍を望む選手のために、日米間で取り決めたものだ。それと国内FAは別の目的で作られている。併用しようという発想なんて想定していないよ。これを見たファンはどう思うかな。制度上は何ら問題がないと言っても、金子サイドが「抜け道」を利用したと感じてしまうのではないかな。

 オリックスがポスティングを容認したとしても非はない。FAで国内他球団に移籍した場合、金銭や人的補償となるけど、それよりもポスティングの譲渡金(最大約20億円)をもらったほうがいいと考えるのは球団ビジネスとしては当然の考えだからだ。だけど、釈然としない。海外FA権を行使してメジャー移籍を目指す阪神・鳥谷のような選手もいる。「海外FA権」が形骸化してしまうよな。

 最終的に金子がどこに移籍したって、変な風評がつきまとう可能性もある。例えば、オリックスがポスティングにかけた上で、やっぱり米球団ではなく、日本球団と契約しますとした場合(オリックス残留も含む)を考えてみよう。サイドレターで「来年以降は金子にポスティングを容認する」という条項をつけて契約することだって可能だ。純粋に自分の力を試したいと金子が思っていたとしても、そして、純粋に金子の実力を評価したうえで球団が獲得したとしても、そんな風評がたっては、双方にとって「損」になるよな。

 日本野球機構(NPB)と12球団は、早急に制度上の規約を見直す必要があるのではないかな。ファンあってのプロ野球。ファンに変な誤解や疑念が生まれるような制度はどんどん変えていかないと。金子の例を見たうえで、万人にとって明快な形にすることが必要なのではないかと思う。

 FA選手の日本国内での球団移籍についても、外への「見え方」は大事だよ。交渉解禁初日となった11月13日からヤクルトが、FA宣言したロッテの成瀬善久、日本ハムの大引啓次と交渉を行うなど、各球団の速攻交渉も目立った。それ自体は球団の誠意を見せる意味で素晴らしいことだ。だけど「他球団の評価を聞いてみたい」としていた選手が、交渉から数日で契約を結ぶことだってある。どれだけ前から水面下で話し合っていたのかって、球界OBじゃなくても疑いたくなる。

 移籍というものが以前と比べ、選手の中で「当たり前」ととらえられるようになった。これだけ移籍が増えると、球団の資金力が戦力格差につながるようになっている。せっかくドラフトが1位入札、2位以降はウェーバーとなっているのに、戦力均衡の意味がないよ。勝つために球団、現場は必死にやっている。しかし、ファンにとって、毎年順位が予想できる戦いは面白いはずがない。ファン、そして球界全体の公益を考える時だよな。

週刊朝日  2014年11月28日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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