これに対し、首都圏の住民を名乗る人たちから「一都三県はみんな感染者だと思っているのか」「差別だ」「二度と御殿場には行かない」「一見さんという表現は不適切」といった否定的な意見が、18日までに市に数十件寄せられた。実際に御殿場に来て店に入れなかった人からの抗議はないが、駅近くの飲食店には、「差別だ」と抗議する内容のはがきが届いたという。そうした反響や緊急事態宣言の対象地域が拡大したことを受け、市では14日に対象地域を示さない内容に作り変えた。

 貼り紙を掲示した御殿場市内の中華料理店の女性店員は、苦しい胸中を語る。

「今の段階で店に直接の苦情はありません。ただ、インターネットのようですが、うちの店が『なんであんなものを貼るんだ』とかいろいろ言われていると、常連さんから聞いて怖くなりました。コロナを何とか防いで、お客さまとお店を守りたい。ただ、その一心で決断したのですが……」

 店側の心情を差し置いて、「差別」という言葉が一人歩きしているようにも見える。だが、そもそも一都三県の飲食店でも、言い回しは工夫しているが、一見の客を断っている店は昨年からある。店主らの目に、御殿場の事態はどう映るのか。

 東京の東部にあるバーは、昨年から《会員の方に限り》との看板を出して営業している。厳密に会員制にしているわけではなく、一見さんはお断りという意味合いであえて出したという。店主はこう話す。

「去年、何軒かはしごをしてから来店された一見さんのグループがいて、酔って声が大きいので、静かに飲んでいる常連さんで嫌がる方がいました。店の売り上げがかなり落ちており、常連さんが来なくなればうちは終わり。いろいろ悩んだ末に、この看板を出しました」

 そのうえで、御殿場の店主たちを思いやる。

「あそこは観光地ですよね。本当は一見さんの観光客にどんどん来てほしいでしょうから、どの店も悩み抜いて貼り紙を出すか判断していると思いますよ。市だって、お金を落としてくれる観光客を差別したいはずはないでしょう。これを差別というなら、うちの店もお客さんを差別しているということになるんでしょうか。このつらい状況でそんなことを言われたら、本気で心が折れますよ」

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「上から目線」になる余裕はない