――そうした「天才的」なアイデアはどこから生まれてくるのでしょうか?

自分のことを「天才」だとは思いません。いろんなことを思いつきますが、子どもっぽいだけだと思います。この年齢になっても好奇心はまったく衰えません。「あつまれ どうぶつの森」もやりましたし、テレビドラマなど、はやっているものはだいたい見ています。ゲーム機もほとんどすべて持っていると思います。アニメ「鬼滅の刃」も面白いと思いました。コロナ禍で普段アニメを見ていなかった人も見るようになって、鬼(悪者)にもいろんな人生があるというところに、新鮮味を感じる人が増えたんでしょう。そういうパターンは前からありましたが、初めて触れた人にとっては面白いはず。タイミングも重要だったと思います。

――そのほか堀井さんが興味を持った作品についてお聞かせください。

Nintendo Switchの「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」にはまりました。はまった理由は、空を飛べるシステムにあります。「飛んでいかにモンスターに遭わずに崖まで行くか」という、ある意味”ズル”を探すゲームだと思っています(笑)。いかに少ない苦労でゲームを進めていくか、最高の成果を得られるかっていうのが楽しかった。そもそも人間って、ズルが好きなんですよ。ドラクエの世界でも、ズルには寛容です(笑)。経験値を上げるためにボーナスキャラがいたらうれしいと思って「はぐれメタル」を登場させました。倒すのが大変なので、はぐれメタルを倒してレベル上げをする時間と、普通にレベル上げをする時間とでは、実はそんなに変わらないんです。でも「ズルができる」と思うと、人って一生懸命それをやるんですね。

――「ドラゴンクエスト」が国内外を問わず人気のゲームになったことを、どのように振り返られますか?

人間にとって一番の娯楽は、別の人生を経験することだと思います。ゲームに限らず小説も映画もそう。主人公に感情移入して、今にない自分を体験する。ドラクエは、いつまでもそうした娯楽を提供するゲームでありたいと思っています。初めの三部作は社会現象になるほど話題になり、作品が独り歩きしている感じで、「それを自分が作ったんだ」という実感はあまりなかったんです。取材に来る方も年上の人ばかりで「とんでもないもの作ったな」って。今は取材する方が「やってました!」って感じなので、ずいぶん楽になりました(笑)。

――誰もが聞きたい質問だと思いますが、今後の「ドラゴンクエスト」はどのようになっていくのでしょうか?

秘密です(笑)。ゲーム機がどうなっているのかにもよりますし、もしかしたら将来、部屋にいながら、「ドラゴンクエスト」の世界がそこにあるといったように、VRで楽しめる日が来るかもしれません。あとは、仲間キャラの性格や会話にAIのシステムを取り入れられたら面白いなとも考えています。一緒に冒険する仲間がAIで、どんどん育っていって、話し相手になってくれたらいいですね。今後もドラゴンクエストという名前で、新しくて刺激的な遊びを提供していきたいです。

――ゲームに限らず、今後、堀井さんが実現させようと考えている「驚き」を教えてください。

いつか現実世界で、「勇者の墓」を作りたいと思っています(笑)。核家族化が進んで、「墓を作ってもしょうがない」って言う人もけっこういるので、みんなが勇者として、そのお墓に入れるようにしたい。そこは「お墓+データベース」になっていて、お墓に自分が生きてきた記憶をしまっておけるんです。訪れた人に、自分が用意していたデータをみせることで、「この人はこういう人生をおくったんだ」と知ってもらうことができる。たとえばひいじいちゃんが勇者として映像で語り掛けてきたら、「おお!」ってなりますよね。もちろん、僕も入りますよ!

(取材・文=KOH/AERA dot.編集部・飯塚大和)