学校は朝8時が始業時間だが、実際には7時40分までの出勤が求められた。同僚はつわりがひどく、授業に間に合う8時15分の時差出勤を要望したが、ほんの15分の遅れも認めてもらえなかった。そして、子どものことで早く帰れば「仕事ができない」という烙印を押される。皆が当たり前のように夜9時過ぎまで職員室に残っている。9時半にセキュリティーで学校の門が閉まるため、9時27分に退勤するというなかで、夕方5時ごろに保育園のお迎えで帰宅するのは肩身の狭い思いをする。

 担任する児童の間で喧嘩やいじめにつながるような問題行動があれば、放課後、保護者と面談が行われる。遅い時間になると内心「保育園のお迎えが……」と気持ちは焦るが、副校長からは「保護者にお迎えに行きたいと言ってはいけない」と禁止された。閉園間際の保育園に滑り込むと、保育室には、わが子がポツンと一人。そのたびに、香織さんの胸は痛んだ。

 保育園の延長保育を使うこともあったが、夜8時15分まで預かってもらえても、預け先の保育園では夕食が出ない。帰宅してからご飯を食べ、風呂に入れ、となるよりは、意を決して5時には職場を出ることにした。そして、「この学校に戻ってつらい思いをしながら働くよりは、異動したほうがいい」と、思うようになった。

 日曜や祝日に行われるお祭りなど地域の行事への参加も避けられない。香織さんが「日曜は保育園が開いていないので預けられない」と上司に告げると、「近所のママ友に預けられないの?」と当然のように出席を求めた。香織さんは「子どもを預けて何かあったら責任が発生してしまうから、安易に友達に預けられない」と反論して事なきを得たが、そんなささいな上司の理解のない言葉に、限界が来た。

 そして冒頭で紹介したように産休の前倒しを決意。あと5日で終業式だという土曜に自分の机を片付けに行ったのだ。そして、異動願いを提出した。香織さんの知る限り、子育て中の教員が異動する場合、近隣の学校になるよう配慮されることが多かったが、育休中に行われた副校長との面談では「そんなの通るわけない」と一蹴された。異動希望の書類には自由記入欄があり、通勤路線や学校の規模の希望を書くことができるが、香織さんは「自由意思を書くな」とまで言われた。

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「育休から復帰したばかりの教員はいらない」