このように多様化する日本酒のビジュアルには、作り手からのメッセージが込められていることが多いようだ。ワインボトルのようなビジュアルであれば、それこそワインのような香りと口当たりを意識したり、シンプルなビジュアルであれば、すっきり無駄のない味わいに仕上げていたり。季節感のあるデザインは、その季節に合った味わいに。つまり今日、日本酒を見た目で選ぶことは、その日本酒の味を視覚的に探ることができる、新たな選択法ともいえるのだ。

 加藤さんがこの日のイチオシとして出した『天明 坂下山田 半熟生 純米酒』を味わってみると、実際にそれを感じることができた。ラベルには英字を筆文字調で記してあり、和洋折衷な雰囲気を醸す1本。その風味は、日本酒本来の味が活きつつ、それでいてふんわりとした柔らかさがあり、どことなく洋酒的な余韻も感じられる。まさにビジュアルに似た印象が残った。

 こうした日本酒の“ビジュアル化”を後押しした要因のひとつを、加藤さんは「瓶の色の多様化」にあると指摘する。というのも、もともと日本酒は輸送や貯蔵を考え、日差しに強い茶色い瓶を用いることが一般的だった。しかし冷蔵技術が向上し、生酒なども日の当たらない状態で輸送、貯蔵できるように。これにより透明な瓶や青色、緑色の瓶など、使用できる瓶のバリエーションが増え、デザインの幅も広がり始めたようだ。

 ただ、それでも茶色い瓶に比べ劣化が早いのは事実で、「そういう色の瓶を使っているということは、少しでも早く飲んで欲しい、という酒蔵からのメッセージとも取れる」と、加藤さんは付け加える。

 本屋やレコードショップでは、店頭でジャケットのビジュアルだけで購入する“ジャケ買い”をした経験のある方もいるだろう。そしてそれは、あながち見た目の判断が間違っていなかったこともあったはずだ。そういう意味で、今日の日本酒には“ジャケ買い”をする楽しさもできつつあるようだ。

※取材協力:吉祥寺銘酒立呑 米◯(こめまる)

(ライター・種藤潤)