集まることで漲る力の心強さひしひし感じる(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 講演会に向かう週末の朝、いつもの東京駅。ホームにあふれる乗客の表情は、心なしか普段より華やいでいる。

 そうか、今日は3月16日。北陸新幹線が福井県まで開通する日です。すかさず先頭車両のあたりまで移動して、記念に一枚写真を撮りました。新幹線と一緒に、ではなく新幹線だけの。講演会はたいてい同行者のいない旅ですので。

 私の目的地は石川県かほく市。開催は昨年中に決まっていたものの、能登半島地震の被害地域がまだ判然としていなかったころは「3月にお邪魔して迷惑ではないだろうか」と不安にもなりました。

 幸い、という表現は不謹慎かもしれませんが、かほく市で講演会を行うことは可能という判断をいただき、ついにその日を迎えました。

 私が乗った新幹線は満席。金沢駅に到着すると、多くの人であふれていました。改札を出ると、地元の人々が横断幕を掲げて観光客を出迎えています。駅前では大きなイベントが開かれ、数カ月前に大地震があったことなど、ふと忘れてしまいそう。タクシー車内から外を見渡す限り、被害のあとは目に入りませんでした。しかし、そんなはずはないのです。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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