「今の時代、こんなこともできるんだ、と思いました」(同)

 佐藤さんは、まず、通勤範囲内にあるクリニックで検査を受けた。結果、精液所見に特に問題はないと知り安堵したが、「今は問題なくても、年齢を重ねたらわからない」というモヤモヤが出てきた。

家族をつくることができたなら

 佐藤さんの母親はいわゆる高齢出産で佐藤さんを産み、現在は両親ともに70代と高齢だ。佐藤さん自身、周囲の同世代より年長の両親を見てきたから、「親が先にいなくなる」という不安は常にあった。一人っ子で、親戚付き合いもあまりないため、血縁が薄い感覚も持っていた。そのせいか、将来の自分について考えると、孤独なイメージを持ってしまう。もしもこの先、結婚して子どもを持ち、自分の家族をつくることができたなら、その孤独感は軽減されるだろうなという淡い期待が、自分にあることに気づいた。

 だが、パートナーと出会えるか、また子どもを持つ選択に至るかは未知数だ。それでも、「今は問題なくても、この先自分が望んだときに、精子の状態によっては子どもができないかもしれない」と思うと、不安が募った。若いうちに精子を凍結しておけば、将来、助けられることがあるかもしれない。完全な解決策ではないとわかっているが、「将来がわからないからこそ、選択肢を持つための投資になる」と考えた。

3万円でできるなら全然アリ

 そう考えてから行動に移すまでは早かった。精子凍結で本人が行うことは、精液検査時とほぼ変わらず、マスターベーションで採取した精液をクリニックに提出する、という流れだ。ただし、事前に精液検査と、感染症検査のための採血を行い、精子凍結できる状態か調べる必要がある。検査で問題がなければ、クリニックで精液を採取し、顕微鏡で良好運動精子の数をカウントし、遠心分離器にかけて洗浄・濃縮する。その後、専用の容器に入れ、マイナス196℃の液体窒素で凍結保存をする。

 佐藤さんが精子凍結に支払った費用は、検査代とあわせ、現時点で合計3万円弱。1回の射精精子(容器1本分)につき、1年間で約1万2千円がかかり、凍結期間を延長する場合には、保管料として毎年同額がかかる。更新は、来年の3月だ。

「特に身体的な負担もなかったし、3万円でできるなら、全然アリって感じです」(同)

 精子凍結したことにより、漠然と存在していた不安感やモヤモヤも軽減されたという。

「ただ考えているより、パッと行動してみてよかったと思う。凍結した精子を使うときが来るかはわからないけど、少なくとも“今できることはやっている”ということは自信になりました」(同)

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相談者は年々若くなる