貯金が少なくても、年金が少なくても、これだけ働く環境が整っているのです。老後をやめさえすれば、お金の不安を必要以上に感じることは減ります。

(3)孤独の不安

 定年を迎えて、人間関係のストレスから解放されたと思ったのもつかのま、今度は孤独というストレスに襲われる。よく耳にする話です。

 もともと人間は、群れで生きる動物です。自然界で群れからはぐれることは、猛獣に襲われたり、食べものを得ることができずに飢えたりなど、死に直結する非常事態でした。だからこそ、孤独は大きなストレスになるのです。

 フロイトやユングとも並び称される心理学の巨人、アルフレッド・アドラーも、人間には「共同体感覚」が必要だと述べています。

 共同体感覚とは、家庭、地域、職場などにおいて、人とつながっていると感じることを指します。人はこの感覚を感じられるとき、幸福を感じるとアドラーはいっています。

 孤独にさいなまれる人は、会社一筋で生きてきた男性に多い傾向があります。定年を迎えたとたん人とのつながりが一気に失われてしまうため、うつ状態になったり、酒びたりになったり、引きこもりがちになったり、深刻な事態におちいることもあるようです。

 たびたび例に出して恐縮ですが、私の父は孤独とは無縁の毎日を送っています。

 妻には先立たれてしまいましたが、家庭教師で教えている子どもたち、その親御さん、ご近所の方々をはじめ、多くの人とつながりを持っています。ですから寂しいという感覚はないそうです。

 人とのつながりがあれば、万が一のときも安心です。近年、孤独死が社会問題になっていますが、老後をやめる人が増えていけば、この問題も解決に向かうのではないでしょうか。

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小林弘幸

小林弘幸

小林弘幸(こばやし・ひろゆき) 順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1987年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科などの勤務を経て順天堂大学小児科講師、助教授を歴任。腸と自律神経研究の第一人者。『医者が考案した「長生きみそ汁」』など著書多数。テレビなどメディア出演も多数。

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