全日本選手権のフリーの演技後、ステファン・ランビエルコーチに笑顔で迎えられる宇野(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 全日本選手権の2連覇を決めた昨年12月23日の夜、宇野昌磨は今年3月に行われる世界選手権に向けたモチベーションを語った。AERA 2024年1月22日号より。

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 昨年12月に開催された全日本選手権。ショートプログラムの2日後に行われたフリーの男子最終グループは、歴史に残る大熱戦となった。一人、また一人と滑るごとに渾身の演技を見せ、5人連続のスタンディングオベーション。会場のボルテージがマックスの状態で、宇野昌磨の番を迎えた。

「皆さん素晴らしい演技で、特に(山本)草太君は一緒に練習してきていたので、感情が余計に入りました。その次に滑る僕、大丈夫かなって(笑)。僕じゃなかったら緊張していたと思います」

 本人がそう語る通り、宇野はライバルの演技が重圧になるタイプではない。

「自分が勝つことも大切でしたが、ここまで本当に最高の試合になっている。僕も良い演技をすることが、この試合を最高のものにするという思いがあったので、そこに焦点をあてました」

 勝つためではなく、試合全体を素晴らしいものにするために、良い演技をする。宇野らしいモチベーションで、スタートポーズに立った。

 冒頭の4回転ループはステップアウトしたものの、残る3本の4回転は成功。連続ジャンプを省くなどジャンプ構成を変更しながらも滑りぬいた。スタンディングオベーションを浴びながら、思わず両手で「セーフ」のジェスチャー。会場がドッと沸いた。

「全部のジャンプが、もう1回やったら失敗してもおかしくないものでした。よく耐えたなと思います。最高の演技とはいきませんでしたけど、自分の状態が良くなくても、やらなきゃいけないことを的確に見極めてできた。ベテランなんだなと思いました」

一番難しい戦いになる

 ここ2週間の不調を見守ってきたステファン・ランビエルコーチは、笑顔で記者に答える宇野を見て、人目をはばからず涙を流した。

「昌磨には今回も感動させられました。ひとつの道を極め、頂点に立つまでは長い道のりです。しかしそのレベルを維持し続けることのほうが、さらに困難なこと。並外れた情熱で、新しい目標を毎回作りだし、取り組むスピリットを称賛したいです」

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